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僕が死んだら、不幸を下さい。  作者: 春夫
『透の物語』
20/41

心は気づく

無力な姿。


俺は子供の小さな世界でそれを沢山見た。

自分がそれだと何度も理解した。

でもその差は埋められないものじゃない。

それこそ、学校という場、つまりは社会がある限りいくらでも埋められるものだ。


だから本当の無力を・・・俺は見たことがなかった。


でも、わかってはいたのだ。


俺の親が強かったのに、咄嗟の殺気に対応できず死んだ事・・・。

現在、透が親に逆らえない事・・・。


それらは全部・・・


避けられない理不尽で、現実を見なかったものの実力なのだと。



・・・それが何だ?



俺がそんなので、苛ついて無抵抗でいるとでも?

所詮それを作ってるのは俺達と同じ人間。

基本おつむの悪い馬鹿ばかり。


・・・なら、変えられないわけがない。


力づくでねじ伏せることはできる。

人間の作る理不尽なんて俺自身の力で捻じ曲げてやる。

父を失い、目標を無くした俺の願いはたったそれだけ。


だから俺は奪う側へと回った。


変えられる無力は嫌いじゃない。むしろ好きだ。

それは俺を成長させる。

非力な俺は強く、より強く・・・前に進める。

俺はそうやって日々を生きてきたんだ。


ある意味俺は幸せだった。

満足をしていた。

とても心は満たされていた。






・・・だけど・・・


今回・・・初めてだった。

見てきた者の背中に父の姿が見えてしまったのは。

その姿を見てから異様に目が離せなくなった。

見たくないのに目が自然に追ってしまう。

不可解で不愉快。

なのに、視界から消えてくれない。


・・・ならいっそのこと・・・


こいつを知りつくそう。

全てにおいて上の存在になろう。

苛つくのは多分俺がどこか負けているからだ。

父を重ねるのはそいつを強いと思ってしまっているかもだから。


多分これは神様がくれた俺の成長のチャンスなんだ。

掴み取ってやる。



・・・・・・・。




あれ?・・・この目に映る光景は・・・




鮮明に確実に一変の揺らぎもなく俺が透に劣っている証拠になりはしないか?


ーーーーーーーーーーーーーーー


「嗚呼アアああアァぁァァぁっ!!」

 

透の響かない抑えている叫び声がやけに脳に張り付く。

それを俺は瞬きもせず、一部始終を記憶するために目に焼き付けた。


俺は奪う側の光景を少なからず見てきたつもりだ。

しかし、目の前の光景は俺の知っているものではなかった。

俺達がしてきたことと代わりはしないものの・・・

これは・・・度合いが・・・異質さが・・・常軌を逸していた。


「ゴハッ!?・・・アッ!?・・・ハッ!?」


透はいくつもの暴力に襲われる。

逃げようともせず、反抗しようともず・・・ただ受け続けている。


「あぁ、そうか・・・。」


多分俺は奪われる側の気持ちを知らない。

奪われたことはある。

けどそれは間接的に・・・だ。

故に知らない。本当の痛みを苦しみを・・・俺は知らない。


そしてそれは・・・今回も知ることはない。


だって俺は傍観者・・・言わば第三者視点であり続けるからだ。

強い俺は奪う側に回ったことでその立場を確立したのだから。

・・・割と安全で割と分かりやすく割と親身に現状が見えていた。


「わかってはいたけど・・・本当にちっぽけだな。」


だけど今回は違う。

いつもと同じだけど確実に違う。


俺は助けたいと思う優しさも、大人に勝る力を持っていない。

それを求めていたくせに関わりたくないと思う怠惰、自分の弱さを認めない脆弱さを持っている。





そんな俺は・・・





子供では逆らえない光景に・・・





ボロボロになっていく透に自分も重ねてしまい・・・





父親の死体を重ねてしまい・・・







『初めて恐怖した。』








「こっちに来なさいっ!」


透は洗面所へと引っ張られる。

聞こえてくる音は、何度も水面を叩くような音。

それとゴボゴボと空気の出る音。

見えないけどわかる。

冷水に顔を何度も叩きつけられているのだろう。


「なぁ、翆。聞いていいか?」

「・・・。」


窓を締め、尻餅をつく。

翆は答えない。

俺は無言を肯定と捉えて・・・


「お前はなんで・・・この光景を変えないんだ?」

「・・・。」


よくわからない気持ちに涙が出そうになる。

俺は顔を片手で抑えて言う。


「俺達は子供だ。

力量的に大人になんて勝てないことは分かりきってる。」

「・・・。」

「でも、傷つける大人もいれば、救ってくれる大人もこの世にはいるんだ。

俺が知ってるならお前も知っていたんだろ?

・・・俺より賢いお前は・・・そいつ等に伝えなかった?」


透の親にバレてはいけない。

窓を締めたので、聞こえないと思うが、俺は少し力んでしまっていた。


「・・・何だ?今君が嫌う事は君自身がしてきたことと、あまり変わらないだろ?

今更良心が傷んだのか?」

「そんなんかじゃない・・・。

ただ・・・ここで透がやられている事を認めてしまえば・・・俺もあいつと同じ、弱いまんまになる気がしたんだ。

その姿が・・・この目には・・・見えてしまった。」


言葉はすんなりと出た。

溜め込んでいたのだろう。

本音がスッキリするほど、的確な言葉を選び出てしまった。


「・・・なるほどね。」


翆は俺の言葉に一言ポツリと呟いた。

その後・・・俺に視線を合わせて・・・


「透が私に言ったよ。

『手は出すな。・・・僕が・・・変えるから。』

・・・その時の表情わかる?

なに一つも悲しそうにはしなかった。

その過程が苦しくても曲げない意志の強さを・・・感じてしまった。

ま、それ以上にむしろ邪魔をするなって強い意志を感じたね。」


翆は仕方ないだろ、と少し悔しそうに笑った。


「未来を担う子供が・・・自分でするって言うんだからさ。

・・・私の出る幕はないよ。」


翆は嬉しそうだった。

まるで子供の成長を喜ぶ母親のような、表情を・・・この場でしていた。


俺たちの耳に水の音、叫ぶ音、呼吸が激しい音、何かがぶつかる鈍い音・・・たくさんの音が張り付いてくる。

それらの音は俺達の心を不快にさせた。

けど翆の中では不快ではあれど、未来を思えるどちらかと言えば希望に繋がる音だった。

だが俺にとっては・・・不快で不愉快で・・・聴きたくない音なのに・・・





聞き逃してはいけないと・・・






受け止めるべき音になったのだった。

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