子供の遊び
私には前世の記憶がある。
これでもかと言えるほどの幸せそうな男の記憶。
多分この男の人生は、客観的に見ても幸福そのものなのだろう。
なぜそんな記憶が私の中にあるのかは知らない。
男には記憶を見る限り未練という未練はない。
成し得れなかったことも、特別な復讐心も、全くと行っていいほど存在しない。
なのにまだこの現世に残ってる。
私に幸せとは何かと現実を知らせてくる。
そしてこの記憶は、時に私の邪魔をする。
産まれて、意識がはっきりすると、私はこの記憶を持って『私』と言う自我を手に入れた。
わかるかな?赤ちゃんの時から自我を手に入れたんだ。
体の不自由に怒りは覚えるし、言葉は話せないから親に伝えたいことも伝えられない。
泣くしかできないから、それで親、または他人に迷惑をかけることに申し訳なさも感じた。
唯一救われたのが、双子の兄、康が隣にいてくれたことだろうか。
赤ちゃんが二人ということで、私だけ目立つこともなく立ち回ることができたのは有難かった。
私は赤ちゃんの時、あまりにも暇なので、記憶の中にある老後の趣味の身体能力向上するための筋トレをずっとしていた。
疲れたら寝て、ご飯はたくさん食べる。
たまに頭を使いたくなったら、父の書斎から受験用の本を勝手に取って読む。
記憶の男は基本覚えたことは忘れない記憶力を持っているので私もそうなのかな?
・・・そういうのは私が中学生、高校生にでもなったら考えればいい話か。
私は数年間、記憶を探り、自分で勉強しながら、体を鍛えた。
たまに私の兄、敬に愛想を振りまいたり、幼馴染の女の子、梨絵と遊んだりした。
そしてなんやかんやしている内に、すぐさま幼稚園に入り一年が過ぎて5歳になった。
「翆ちゃ〜ん!!あ〜そ〜ぼ〜!!」
家でぐったりと休んでいると玄関から叫び声が聞こえてきた。
「翆〜。梨絵ちゃんが遊びに来てるわよ。」
「は〜い。梨絵ちゃ〜ん。今行く〜。」
私は母が持ってきた私服にその場で着替える。
ここで親に、いい子アピールしとかないと後々、目をつけられたら面倒なことになりそうだ。
「翆。もしかして遊びに行くのか?」
靴下を履いてると、父がリビングに来た。
そして私の後ろに立つ。
「うん。梨絵ちゃんが来てるの。」
「そうか。」
父はドサっと椅子に座り新聞を読む。
一応、父は医者をやってるとのこと。
故に毎日忙しい。
その上、寝れる時には寝る人なのでほとんど部屋にこもっている。
だからこの人に関してはコミニュケーションを取ることは家族の誰より少ない。
「おい、敬は?」
「部屋で勉強させてます。
康は友達の家です。」
二人は今、小学二年生の長男の敬にいつも勉強を強いる。
多分大人になって医者や弁護士か、いい職業についてもらいたいんだろう。
押し付けがましいな。
まぁ、弟の康と、妹の私には厳しくならないことを望みたい。
「そろそろ康にも勉強させるか?」
「まだ早いでしょう。今は自由にさせたらどうですか?」
「そうか・・・なら翆も今は遊ばせとくか。」
・・・敬よ。遊びから帰ってきたら、お小遣いからプリン買ってきてあげる。
だから頑張ってね。
私は逃げるかのように外に出た。
「翆ちゃん。公園行こ!」
「はいはい。行くから焦らない。」
私は梨絵に引っ張られる。
本当、この幼馴染は元気があって素晴らしいね。
歩いて数分。公園につく。
公園では小学生の男の子がベンチでカードゲームをしたり、最新ゲーム機をしていた。
最近の若者はネット依存で駄目だね。
言うて、私も図書館に行くとパソコンいじってるけど。
「翆ちゃん、何する〜?」
決まってないんかい。
「ふむ・・・ブランコでもする?」
「二人乗りしよ♪」
とりあえず数分間、人気のない遊具、ブランコで遊ぶ。
私が後ろで立ちこぎをする。
基本ゆったり漕ぐのが梨絵にとっては心地よいらしいのだが、まぁ、精神年齢は大人と言っていい私はいたずら心が刺激されて・・・
「キャァァァァァァ!!??!?!」
「いやっほぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
思いっきり漕いだ。
直角を越えるのと同時に梨絵が叫ぶ。
その叫びに周りの子どもたちが集まる。
・・・少し横に揺らすかな。
「ピィやァァァァァァ!!!」
梨絵叫ぶのと同時に・・・
「うぉぉぉぉぉ!」
と、子供たちの声が上がる。
梨絵を見る。半なき状態で、鎖を握る力が凄まじい。
・・・そろそろやめたほうがいいかな?
「・・・しゅ〜りょぉ〜。」
勢いを殺して、停止する。
梨絵ちゃんは直ぐ様、ブランコから降りてフラフラと芝生のところへ歩いていく。
次は俺!次は俺!と、叫ぶ男の子たちを見て、これで数十分はブランコで遊べないなと思いながら、梨絵ちゃんのもとへと行く。
「・・・えっと、ごめんね?」
「・・・酷いよ・・・酷いよ翆ちゃん。」
これは今後絶叫系が苦手になるだろう。
ふむ、梨絵ちゃんの疲れ切った表情がちょっと保護欲をそそられる。
「今度アイスあげるから許して。」
「・・・いちご味のハーゲン○ッツ?」
この子はたまに魔性のおねだりを使ってくるよな。
もし相手が答えるのに渋っていると・・・
「・・・。」
この子は必ず涙目で上目遣いを使ってくるんだよな。
これが大人の心を落とす。
「・・・分かった。約束するから許して。」
手を指し出す。
「・・・うん!」
その手を掴み立ち上がる。
この子は将来、大物になるな。
「なぁ!お前ら暇か?」
いきなり後ろから声がする。
振り向くとそこには顔に絆創膏を貼ったいかにも元気な少年がいた。
誰だ、この子?
「あ、恢君!」
恢君?
誰だろうと思い出す。
「・・・隣のクラスの子だよ。」
思い出そうとしているのに気づいたのか、梨絵ちゃんが耳打ちでおしえてくれる。
ふ〜ん、同年代なのか。
「よ!なぁなぁ、早速なんだけどさ、二人もケイドロ入らねぇか?」
恢くんの後ろを見る。
後には3人の男の子がいた。
多分数合わせと、いったところだろう。
舐められたものだ。
あ、ちなみにケイドロは鬼と逃げる側に分かれて、鬼が逃げる側を全員捕まえたら勝ちってゲームだ。
「・・・範囲は?」
「場所ってこと?それは、この公園内!」
よし、やってやるか。
「どうする?する?」
「うん。暇だし、しようか。」
健くんが後ろの三人を呼び、全員でじゃんけんすることに。
「さ〜いしょはグー!ジャンケン・・・ポン!」
私と梨絵はグー、男共はパー。
男の子たちはこの結果に、顔をしかめる。
つまんないんだろうなぁ〜、とでも思っているのだろう。
「よし、じゃあ私達が鬼ね。
梨絵、捕まえた人たちを逃さないでね?」
「うん!」
もともと書かれてあった円まで行く。
4人は「相手は女、楽勝!」と思ったのか、わざと私に見えやすい逃げ場所を選ぶ。
たった一人だけ木の上に行った。
「ふ〜・・・。」
3人は数秒でかたがつく。
とりあえず軽い準備運動をして・・・
「30秒たったよ!翆ちゃん!」
梨絵ちゃんのその言葉を合図に地面を蹴った。
3分後・・・
「「「「・・・。」」」」
男共は円の中で膝をついた。
「実力で勝ったな。」
「「「「ぐぬぬぬぬ!」」」」
結果、三人は瞬殺。
手こずったのは木の上にいる一人。
ジャンプして捕まえても良かったけど、流石に子供っぽさを残したほうがいいかと思い、素直に木に登り追いかけた。
あっちも運動神経が良かったが、私ほどではなかったから簡単に捕まえられたぜ。
「ふぅ〜、次は交代だね。
そっちから二人、鬼選んで。
あ、三人でもいいよ?」
男の子たちはニヤッと笑う。
そして、三人が鬼となった。
コイツラに男としてプライドがないのが問いたい。
まぁ、子供だから当然ないんだろうけど・・・
結局、私はその後一時間も鬼を交代したりして追われたが、鬼に一回も捕まらなかった。