ガキ大将君は翆を理解している
「なに、少年達?聞きに来たの?」
翆は餓鬼どもに読み聞かせをしたあと、お茶を片手に俺たちの所へ来た。
「何、お前・・・作家にでもなるの?」
「いきなりご挨拶だねぇ、ガキ大将君。」
「面白かったよ、結構。」
「・・・この差よ。」
翆の俺と透を見比べる視線がうざい。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん!
サッカーしようっ!」
「いいぜぇ〜、お前らに敗北の2文字を味合わせてやるっ!」
翆にサッカーボールを持って話しかける餓鬼。
その餓鬼に男勝りな口調で対応する翆。
「凄いよねぇ〜、ここらへんじゃあもう大人気だよ。」
「・・・どっちが餓鬼かわかんねぇな。」
確かに餓鬼共に信頼されてるのはわかる。
餓鬼達全員が楽しそうに笑う笑顔を見たらそれは納得できる。
しかし・・・だか遊びであんな餓鬼共よりも無邪気に笑う姿は誰よりも子供に見えた。
「兄ちゃん、兄ちゃん!
兄ちゃんもサッカーしようぜっ!」
俺は呆れていると、一人の餓鬼が服を引っ張ってきた。
俺は面倒くさいと思い・・・
「行ってこい、透。」
「僕っ!?」
俺は透を盾にした。
透は取り囲まれ連れて行かれる。
そして徹は転けたり、顔にサッカーボールを当てられたり、餓鬼共に笑われている。
「・・・楽しそうだな。」
「君は参加しないの?
透くんだけじゃ辛そうだけど。」
「面倒くさいからしない。
それにつまらないだろうからな。」
俺は梨絵の質問に適当に答える。
「・・・翆って、なんでも出来るよな。」
「そうだよ〜、全部出来るんだよ〜。」
嬉しそうな顔でいう梨絵。
こいつは翆の事好きすぎるのではないだろうか。
「私が知ってる限りだとね、絵画でしょう、英語、サッカー、テニス、野球、ピアノ、後武道って言うスポーツもできるし・・・本当に凄いよねぇ〜。」
確かに凄い。
全部が上手く出来て、他人にも好かれて、周りを笑顔にすることができるのは・・・誰にでもできる事じゃない。
翆は多分才能がある。
天才と言われる部類に入る人間なんだろう。
誰もが尊敬する。
誰もが頼る。
誰もが憧れる。
翆はそう言う人間なんだ。
でも・・・俺にとって・・・翆は・・・
「羨ましくはない。」
俺の零した言葉に・・・
「何で?翆ちゃんみたいになりたくないの?」
俺は梨絵の言葉を聞くと、今まで見てきた翆を思い出す。
確かに翆の人生は楽しそうだ。
自由で、なんでも出来て、望みを叶えられているようで退屈はしないだろう。
その証拠に翆はいつも笑ってる。
誰かといる時、馬鹿している時、誰かと生きている時、誰かを思う時………笑い続けてる。
出会ってきた全員に同じ笑顔を見せている。
けど・・・俺は見た。
透の訓練の相手をしてやってる時、ふと、川を眺める翆を見た。
その顔を見て少し翆を理解したと思う。
あいつは誰もいない時・・・一人でいる時・・・一人で生きている時・・・
笑わない。
疲れたように瞳から光が消失する。
その瞳に何も映さない。
自分の時間を止めてるように、顔から表情を消す。
死んだように気配も消す。
その姿は誰よりも・・・寂しそうだった。
「嫌だよ、あいつみたいに寂しさに満たされたくない。」
だから俺はあいつが羨ましくない。
「寂しそう?翆ちゃんが?」
梨絵はそんなことなくないと納得してない顔をする。
俺はそんな理絵に自分の考えを言う。
「そうなんじゃないのか?
だって普通出来ることなんて一つで十分だろ。
それで満足できるだろう。
なのにあいつは全部をできるようにしてる。
それも誰かと一緒じゃないと成り立たないものばっか。
寂しさ紛らわすようで悲しく見える。」
理絵には難しかったのかう〜んと唸っている。
「な〜に、私のこと語ってんの。」
難し過ぎたかと自分の頭の良さに感心してると、頭を休憩しに来た翆チョップされた。
「あ、翆ちゃん。お疲れ様。」
「有難う。・・・しっかし最近の少年少女は体力が有り余っていて羨ましいねぇ〜。」
たまにおじいさんに見間違えるよな翆って。
「・・・お前本当に一年か?
一年にしては身長は高いし、運動神経はいいし、頭はいいし・・・言動しにしても俺の年上に見えるんだが。」
「安心していい。
君の生きている時間と私の生きてる時間は君のほうが長いよ。」
ほら遠回しの言い方。
大人みたいでうざい。
だか、年下のは間違いないのだから俺はもう追求しない。
用事も終わったのだから帰ろうとすると・・・
「あ、そうだ聞きたいことあったんだった。
私の作った物語どうだった?」
翆が質問してきた。
「男子にはあまりに人気ではなかったな。」
「今はスポーツ流行ってるから。
ってそこじゃねぇよっ!
感想だ感想っ!」
「・・・別に・・・面白かったとは思うぞ。
俺は作家じゃないから何がいいのか何が駄目かは知らんが。」
「ん〜、感動とまではまだ行けないか。
改良の余地ありだな〜。」
顎に手を起き、考える翆。
俺はその翆に一つだけ尋ねた。
「前、何かで見たことあるんだが、作家が物語を書く時、自身の過去だったり望みを書いたりするんだよな。
・・・お前って・・・ノアみたいになりたいのか?」
翆は目を真ん丸にしていた。
驚いたのか、目を丸くして口を少し開け、俺を見た。
そしてその表情はいつも通りのからかう様な悪魔の笑顔となり・・・
「かもね。」
そう一言だけ発した。