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僕が死んだら、不幸を下さい。  作者: 春夫
『透の物語』
12/41

変わりだす日常

失敗した。


私は教室に入るなり、そう思った。

一応、表情には何も出さず自分の席にドスリと座る。


「・・・ま、こうなるよね。」


私は肘をつく。

今や私は学校内では注目の的だ。

その理由としては2日前に起こったあの喧嘩。

私が相手していたのはこの小学校で有名な子だったらしく、それを圧倒した私はたった一日で知れ渡ることになった。


・・・・関わらなければよかった。


後悔先に立たず。とはまさにこの事だろう。

とりあえず今はこの現状をどうするか、だ。




・・・・。





あれ?別に良くね?


私としては目立たなくて楽だし、こっちのほうがいつでも望めば安静に人生過ごせるじゃん。

それに世間で言う陰キャのほうが・・・多くの出会いがありそうだし・・・


「・・・問題があるとすれば・・・」


さっきからオロオロと私の方をチラチラと見る梨絵だ。

友達とそのことについて話しているため私の所に行きたいが行けないという複雑な心境の中にいるのだろう。

ん〜、梨絵には普通の学校生活送ってほしいからなぁ〜。


私は梨絵に関しても悩んでいると・・・


ガラガラ、バンッ!


「翆ッ!!!!!!」


教室に康が扉を勢い良く入ってきた。

うわ〜、嫌な予感がしてきた。

康は怒ってるような表情しながら私に近づいてくる。


「お前、ちょっと来い!」

「ヤダ。」


康の命令は聞かない。

ここで聞いてしまうのは嫌な予感がする。


「〜〜〜ーーっッ!?」


康は私が拒否ることを想定していなかったのか、むぅ〜と頬を膨らませる。

前なら手を勝手につかみ連れて行こうとするのだが、前に投げ技喰らわせたらそれ以来しなくなった。


「いいから来い!」

「断る。」

「・・・。」


あ、目尻に涙溜まってる。

と、少し笑いたくなると、康は私の耳元で・・・


「泣き喚くから。」


なるほど、脅しではなく、もう行動確定ですか。

こいつ、頭良くなったな。


「・・・昼休みにね。そっち行くから待っといて。

もう授業始まるから戻りな。」

「よし!絶対だからな!」


康は嬉しそうな顔をして戻っていった。

こいつ、賢くなってきたんだよなぁ〜。

よし、後で上下関係叩き込んでやろうっと。

私は康が教室を出るのを確認して、机に突っ伏す。

寝るふりをしながら考える。

今後をどうするかを考える。

兄弟に、梨絵に、何をすることで迷惑をかけずに済むかを考える。

色々と思いつきはするものの、実行に移す事が面倒臭くて叶わない。

静かにため息をついていると・・・


コンコンっ。


頭の上で机が突かれる音がした。

誰だろうと顔を上げると・・・


「あの時は・・・ありがとう。」


見たことのある瞳の下に隈のある少年がいた。

誰だろうと思い返して見る。

あの時、私が助けた透君だった。


「別に・・・私がしたのは無責任なことだから。

で、用事はそれだけ?」

「・・・あの・・・その・・・」


目の前の少年は見るからに私になにか言いたげだった。

こんなおどおどした様子なら文句ではないだろう。

これでも私は自称80歳の女性だ。

男のはっきりとしない性格は何度も見たのでわかっている。

こう言うのは理解してあげるか、喋ってくれるまで待つのが得策。

私は待つ。

透くんが喋ってくれるのを。

透くんは1分ほど考え込んで、深呼吸をした。

そして・・・


「お願い。僕を強くしてください。」


頭を下げてきた。

・・・驚いた。

いやはや、純粋に驚いた。

私の予想では、この子は耐えながら自分を鍛えるか、先生にでも助けを求めるかと思ってた。


いや、どちらかといえば私のほうが先生より信用に足りる存在となっているのだから、私に頼り始めるのは普通のことか。


・・・いいね、私が誰かの先生になり、その子を強くする役目を持つのは当分先かと思ってたけど・・・悪くない。

・・・楽しくなりそうだ。


「いいよ。教えてあげる。」


私はそう答える。

透くんの顔は嬉しそうな表情になった。


「でも覚悟しとくんだね。

私が鍛えるなら生半可な辛さじゃないよ。

文字通りの苦痛も与えるから。

それでもいいのなら・・・教えてあげる。」

「大丈夫。・・・痛いのも苦しいのも慣れた。」


彼は悲しむことすらせず、簡単にいとも容易くに・・・私にそう答えた。










彼は思う。

どんなに人生が辛いものでも、苦しいものでも、痛いものでも・・・僕は生きたい。

夢はない。

やり遂げたい事も掴み取りたいものも何もかもがない。

思い馳せる未来は存在しない。

疲れた。耐えて耐えて耐えて、その先にある未来も耐えるだけの世界に生きるのはもう嫌だ。

面倒臭い。なぜ僕は生きなければならない。

なぜ僕がこんなくだらない世界で生きていなければならない。

出来るのなら永遠に寝ていたい。

柔らかい布団の中にくるまって寝ていたい。

それはとても落ち着くし、安らかにいられるから。






・・・・あぁ、死のう。







・・・そんな訳あるか!

何が死のうだっ!

死ねば苦しみから逃れられると思っているのか?

そんなこと・・・そんなことある訳がない!

死んだ先には何もないんだ!

苦しみも安らぎも有りはしない無の世界が・・・それだけが、その先に広がっているんだ!

苦しみから逃れられるわけがない!

安心が手に取れるわけじゃない!

何かを取れるのは僕が生きているこの世界・・・この現実だけなんだっ!





だから・・・こんな僕でも・・・日常を嫌だと泣き散らす僕でも・・・進み出す勇気すらない僕でも・・・他人に縋るしかない僕でも・・・こんな無様と笑える僕でも・・・















死ぬのは御免だ。

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