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僕が死んだら、不幸を下さい。  作者: 春夫
『透の物語』
11/41

一人は生き方を知り、一人は目標を得て、一人は狂気をもちながら楽しみを見つけた。

僕は目を疑った。


僕の目の前に強さがある。

僕が探し求めてた力がある。

意味なく僕を痛めつける理不尽に逆らうための力。

それがそこにある。


僕の中で恐怖の対象は大人だった。

毎日の暴力、煙草で焼かれる痛み、水に顔を押し付けられる苦しさ。

記憶の中にある痛みという痛みを与えたのは親とその仲間達だったから・・・僕は力ある大人が怖くてたまらなかった。


僕は無力だった。


なされるがまま大人に痛めつけられる現実を受け入れてた。

逆らえないと、逆らったところで殺されるだけだと恐怖に負け、何もしなかった。

僕自身が、僕自身の心を痛めつけていた。


僕は愚かだった。


もう愛されなくなったのは分かっていたのに、最初に感じた家族の愛の暖かさなどもう感じれないなんて分かっていたのに、“戻る。僕が我慢すれば戻る。”と思い続けていた。



僕は何一つ・・・現状を変えることなんて出来ないんだと知った。



しかし人は自然と苦しみから逃げようとする生き物らしい。

殺人鬼が欲の埋まらない苦しみから逃れるために人を殺すように僕も逃げる方法を無意識のうちに考えていた。

そこで思いついたのが大人の持つ、僕が散々知ってきた暴力にもなれる純粋な『力』だ。


でも僕は恐れた。

もし大人を倒せる力を手に入れて、僕は今の心を保てるだろうか。

力を使うとき、それは快感を感じることになるだろう。

今までの怒りを、痛みを溜め込んできた者にとっては、それは人一倍感じることになるだろう。

だから僕は怖いのだ。

いつも視界に映る拳が、僕の拳に変わり、身近な人の瞳に映ることが・・・。


だから僕は・・・




力を求めても手に入れることはしなかった。




だけど今日はなんだ?

なぜ新たな敵を見つけてしまった瞬間に、求めていた大人とは違う優しさに溢れた力が僕の目の前にあるんだ?


まるで等価交換のようだった。


大人以外に苦しみを与えられる代わりに、僕は僕の手は・・・その力に触れることができた。








僕は目の前でヒーローのように戦う少女を目に焼き付けた。










う〜ん・・・


私は唸る。


(弱い・・・弱すぎる。)


向かってくる男の子たちを転がしたり、殴ってくる子には宙に浮くというサービスとしてあげながらそう思う。


いや・・・まぁ、仕方ないとは思うよ。


私は言わば約80年ほどの経験を積んでいるプロなんだから。

そんなプロ相手に素手で挑むのだ。

何一つ相手にはならないに決まってる。

でもね・・・少しは期待していいじゃん。

少しは強い相手がいていいじゃん。

若さに期待してもいいじゃん。

私は武器として持った枝が片手を塞ぐ邪魔なものと成り果てたことに悲しみを感じた。


「・・・よっ!」


私は馬跳びの形で飛び込んでくるデブ・・・ゲフンゲフン!

・・・体の大きい子を躱す。

うん、図体でかいのは得だけど、体を自由に動かせないんじゃ意味ないね。


「・・・はぁ〜。」


戦いの余裕さに溜息をつくしか出来なかった。

ま、アニメのような戦いは所詮フィクションか。


「・・・。」


私はふと後ろの愁君を見る。

透君は真っ直ぐな目で私を見ていた。

うん、なに?その憧れる少年のような純粋な目は?

そんな目を私に向けないで。

恥ずかしくなっちゃう。


「・・・愁君。これは力の中の一つ、技術というんだ。

この技術には筋力と知識と努力と自信と覚悟という5つの力が重なり合って出来ている。」


目の前にガキ大将君がゆっくりと歩いてくる。

無闇やたらに来ても無駄だと理解したのだろう。


「正直最初の3つは誰にでも出来るんだ。

さっきまでしてたようにね。

でもね、最後の2つがとても難しい。

今は意味わからなくてもいいから、覚えといて。

まず一つ、自信。

これは簡単に言うと自分でも出来ると、必ず成功すると思うことだよ。

これが気持ちが揺るがなかったら・・・」


私はバッと一歩でガキ大将君の間合いに近づく。

それを予想していなかったのか、ガキ大将君は私の想定どおりに拳を振り上げた。

私の顔に向かって振り降ろされるのが見える。

梨絵と透君が危ないと心配する表情になるのを確認して・・・


私は当たる2センチ付近で、体を横にずらした。


ガキ大将君の拳は私に当たらず空振る。

驚きによる反発的な攻撃だったからか体が制御しきれていない。

私はそれを利用し、体を軽く押す。

予想通り、ガキ大将君は転けた。


「自信があれば大抵の恐怖は掻き消せる。

これは今の君が一番欲しているんじゃないのかな?」


私はガキ大将くんに手を差し伸べる。

その手は掴まれる。

そして、ガキ大将君はもう一方の手で私を殴ろうとする。


「恐怖を消せば・・・いつでも冷静になれる。

こんなふうにね!」


私は左手で殴ってくる拳を横から掴む。

掴まれた手は胸ぐらを掴む。

勢いに任せて、私の体重の倍のあるガキ大将君を投げた。


「最後は覚悟。これが一番大事なんだ。

傷つけるなら、殺される覚悟。

これが力の持つ者の最低限持たなければならない覚悟だ。」


私はわざと・・・男の子の殴ろうとする拳を防御の形で受ける。


「これを失ってみ。

その時は君が知っている大人になる事になるよ。

そうは・・・なりたくないだろう?」


記憶の男の晴之は知っていた。

自分が何かを理解しており、物事をする時に理性を持つことにより幸せになるための信頼を持つことが出来ることを。

だから私はその記憶を元に、透君に言う。

人生で苦労している透くんに私なりのアドバイスをする。


「ちょっと!女性の体に気安く触らない!」


私は後から行動を止めるためか抱きついてくる子を投げ技で地面に叩きつける。


「・・・そろそろかな。」


周りを見渡し、全員が勝てないと怯えていることを確認する。


「・・・おい、小僧。

最後の忠告だ。私の機嫌が悪くならないうちに帰れ。

さもないと・・・殺すよ?」


私は殺気を出す。

地面に倒れさした子の顔の直前まで拳を下ろす。

これを振り下ろしたらこの子の顔面は潰れるだろう。

今の私にそれを躊躇優しさはない。

これで帰らなければ・・・本当に潰す。


「ヒッ!?」


倒れている子は小さく悲鳴をあげ、走り去っていった。

ふむ、やはり小さな子には純粋に恐怖を与えるのが一番従順になるかな。

って、逃げた子たち、先生に泣きつくかな? 

泣きついたらいろいろ厄介なんだけど・・・。

・・・怪我させてないし、襲われたのはこっちだから正当防衛で説明つくし、問題になっても大丈夫か。

考えないようにしよう。


私はたった一人戦闘を楽しんでいたガキ大将君と透君、梨絵が乗ったことを確認すると・・・


「・・・愁君。さっきまでいろいろ言ったけど。本当の最後に一つアドバイスしよう。



技術も自信も覚悟もこのよでいきるならどれもが必要になる。

けどそれらはこの世で生きるから必要になるんだ。

・・・でも私達はまだ子供。

すべてを手に入れられるほどの経験は積んでない。

だから今は・・・迷惑をかけようとも・・・だらかに憎まれようとも・・・






・・・好きなように生きてみろ。」






私はニッと笑って見せて・・・


「嫌なことがあれば、くたばれと言ってやれ。

罪悪感に押しつぶさせそうなら返せるほどの力をつけろ。

生きるんだったらこんぐらいはしろ。

どうせ暇なんだからさ。」


私はガキ大将君のもとまで行く。

そして肩に手を起き耳元でこう言う。


「彼を助けてみせろ。

それが成功したら今度は一対一で戦ってやる。」


ガキ大将君は私に挑むとき笑っていた。

多分この子は戦いが大好きなのだろう。

その上、私に負けて悔しいはずだ。

もう一度挑みたいと思ってるはずだ。

私はそう確信した。

そして、そう言い残し、梨絵のもとまで走った。

逃げるように走る翠は知らなかった。

この出来事が少なくとも三人の心境を変え、翠の未来に良くも悪くも影響を与えることになることを。

翠はわからなかった。

未来でこれが影響し、数十人の命が救われ、数十人の命が奪われることを。







一人の少年は木の影から走る翠を見た。


「見〜つっけた。」


彼の表情は子供のように無邪気に笑っていた。








〜〜走ったときの私の心境〜〜〜


やっべぇ〜!マジやべー!

私すごいこと言ってる!ガチ恥ずかしぃ〜!

な〜にが「好きなように生きてみよう」だよ!

ノリに任せて言うんじゃなかった!

もう黒歴史化だよ、こんちくしょぉぉぉ〜〜〜!



私は顔が焼けそうなほどの羞恥心を隠すために、全力で走っていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ·······お前、子供の自覚有るか? 何処ぞの小学生探偵みたいな事成ってるぞ
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