石塚愁
石塚透と書いていますが、石塚愁に変更しました。
今後の話に出てくる透は、愁と同一人物です。
ご理解のほどよろしくお願いします。
私は別に正義の味方になりたいわけではない。
私が社会を見始めてそう思ったのは何度目だろう。
朝のニュースの中、移動に使う電車の中、車特有の迷惑行為、たまに聞こえる他人の家からの怒鳴り声。
私は他の人より余裕ある人生故か、それらを人一倍感じるし、考えさせられる。
それもあってか、アニメに影響されてか・・・私だって命をとして悪に挑めたいと思ったことはある。
しかしそれは自己満足なのだ。
・・・充実した生活を手に入れるための行動なのだ。
だから弱いものの為に、この世から悪を葬る為に、なんて大層なことを言えるわけがない。
どちらかと言えば私も自分勝手のところでは悪と同じ。
よってこれも私が、私の中にある自由を使って、自己満足のためだけに行っている行動だ。
だからこれは正義ではない。
だからこれは身勝手だ。
だから私は・・・私の中にある力を・・・不条理に振るう。
「かかってこい・・・全員ぶっ飛ばしてやる。」
私は、私の同級生を囲む十五人くらいに向かって手をクイクイとし、挑発した。
私はその日、学校が早く終わったのをいい事に長く学校に滞在していた。
理由は単純、学校のすべてを把握するためだ。
五年生からだっけか?始まる部活は何があるか。
どこにどんな目的を持つの校舎があり、どこの教室なら静かに一人で入れるか、子供向けの本のおいてある図書館と大人向けの本を混ぜた図書館、音楽室、視聴覚室、プール、体育館、運動場、・・・私はすべてを見て回った。
1、2時間はかかったが、梨絵もついてくれたおかげで退屈ではなかった。
先生に話を聞く際子供らしくないと不審がられはしたが、子供の可愛さと無邪気さ故、数分で疑いはなくなった。
・・・ふっ、楽勝。
すべてを把握し、メモした私は帰路を梨絵と辿る。
私の学校は私服登校なので、ランドセルさえなければすぐさま遊びに行ける。
記憶の中で、晴之は指定された制服であった為、遊びで汚して帰ると必ず説教されていた。
やはり、今の法律なのかな?まぁ、学校のルールは縛りが薄い。
私としてはありがたい限りだ。
「ねぇねぇ、私ね、翆ちゃんに置いてかれないように先にピアノの練習してるの。
昨日ね、やっっっと!音は聞いたらどの音か分かるようになったよ!」
「え・・・本当に?・・・私まだそこまで出来てないよ?」
梨絵が嬉しそうな笑顔を見せながらとんでもないことを言う。
分かるだろうか?早くも10歳未満の少女が、もう絶対音感を手に入れたのだ。
私はギターとピアノの操作方法を少しスムーズに出来たぐらいなのに・・・。
あ、ちなみにギターは青谷さんの教えの元、出来るようになりました。
青谷さんマジ神様。
「え?もしかして私・・・初めて翆ちゃん追い抜けた!?」
「うん、本当の本当に私の先に行ってる。
これは私もゆっくりとしてられなくなるかな?」
「駄目だよ!翆ちゃん本気出したら私なんて勝てるわけないんだから!
ゆっくりと成長して!」
・・・なんだろう、私の実力を認めてもらえてるのであろうが、嬉しくない。
ここは『負けないからね!勝負だ!』
と言ってくれる場面じゃないのだろうか。
「・・・ま、私もそろそろある程度出来るように練習するつもりだったからちょうどいいかな?
・・・あ!いいこと思いついた!
小学六年生になったら卒業日に合わせてお互いに曲作って聞き合わせて、二人でどっちが上手か採点しよう!
負けたほうが罰ゲームとして・・・何でも言うことを一つ聞く!」
私は提案する。
退屈な人生を華やかにするための一つの試合を。
「5年後?長くない?私達忘れるような気がするけど。」
「それなら自分の机にこのこと書いて貼っとけばいいんだよ。
そしたらいつでも思い出せるでしょ?」
「お、その手があったか・・・。
分かった!勝負ね!必ず・・・勝つ!」
梨絵の目に炎がつく。
私は後から知ることになる。
この約束が私と梨絵の絆を、何よりも厚く、切れないほど硬くしているかに。
私は知らなかった。
梨絵がこの約束のお陰で、どれほど成長することになるか。
もう私を追い越しているのに・・・もっと遠くまで行ってしまう事に。
「残り5年間、存分に自分を磨かないとね。
私に時間を与えたことを後悔するがいいわ。」
「あ・・・ず、ずるい!来年に・・・!」
「ダーメ、小学六年生になったらって決定したもん。
お互い頑張ろうね〜。」
私達は笑いながら帰路をたどる。
やはりこういう普通の時間は楽しい。
幸せを感じる。
私は一度しかないかもしれないこの時間を楽しんだ。
「あれ?あの子達何してるのかな?」
二人出歩いていると、結構広い公園の横につく。
そこで目に入ったのは・・・
「・・・いじめか?」
弱々しい少年と、その子を囲む何人かの男の子たち。
見るからに少年は怯えていて、囲む数人はそれを見て笑っている。
「あ、愁くんだ。」
「あの怯えてる子のこと?」
「え?覚えてないの?同じクラスだよ?
あの子は石塚愁君。いつも下向いて暗そうにしている子だよ。
周りの子たちは誰だろう?
私は知らないなぁ〜。」
私は梨絵の話を聞きながらどうするか考えていると・・・
透くんという子が蹴られた。
「・・・梨絵・・・私、行くわ。」
私は気づけば駆け出しいた。
そしてまた透くんを蹴ろうとする子に・・・
「ダラッしゃァァァァァァ!!」
飛び蹴りをした。
私より身長の高い男の子はぶっ飛ぶ。
私は透くんの前に立ち、男の子達を見る。
「・・・ねぇ、君たちは何してるのかな?」
「・・・あ?お前誰だよ?」
「あ、私は翆です。この子の同級生で見た限りこの子をいじめてたみたいですので助けに来た次第です。
なので大人しく家に帰ってくそして寝やがってください。」
私は丁寧な言葉遣いで自己紹介をする。
これが精神大人の対応だ。
「何だよ、俺達は遊んでただけだぞ?
女子のくせに邪魔すんなよ!」
「阿呆か、私の中では美少年と美少女は愛でるものときまってんの。
愛でてないのなら私は何時でも邪魔をするぞ?
私はこの世界の宝を守る!」
「「「何言ってんの?」」」
「・・・。
・・・おホンっ///!」
う〜ん、この年の子どもたちには伝わらないか。
このネタは数年間封印しよう。
少し恥ずかしかった。
「てゆうかなんで君らは愁君いじめてんの?
何?この子なんかしたの?」
「いじめてないよ。ただこいつは可哀想な子だから遊んでやってんの。」
「可哀想な子?」
「や、やめ・・・「あぁ、こいつはな、自分の親に愛されてないんだぜ。」・・・。」
透くんを見る。
その顔は下を向いていた。
表情は暗く、悲しみがあるように見える。
「愛されてないわけない・・・愛されてないわけがない・・・。
僕は・・・僕は・・・!
嫌われてなんか・・・ない・・・!」
透君は立ち上がろうとする。
そのおかげでわかった。
コイツらの愛されていないという意味・・・。
透君の服の下に痣が見えた。
・・・多分親からの体罰かな。
子供の情報網凄ぇな。
私ですら気づかなかったぞ?
でも、親というのは馬鹿で無駄に賢い生き物なんだよな〜。
外にバレるようなヘマをするだろうか。
「・・・あぁ、そういう事か。」
数人の男の子達をみる。
中に一人、異様な笑い方をする男の子がいた。
皆の見下す様な笑みではなく、まるで幸福に包まれているかのような笑み。
もし私の予想が正しいなら・・・
「愁君、君は君の家庭のことを誰かに話したのか?」
「・・・っ!?」
透くんは悔しそうな顔になった。
なるほど、やっぱりか・・・。
「馬鹿だな。
君はそんな簡単に自分の痛みを他人に話すのか。
それなら皆に可哀想と思われても仕方がないぞ?
少しは人を疑うということを覚えろ。
自分が信じられる人の見分け方ぐらい鍛えとけ。」
私は後ろの弱々しい男の子に冷たく言い放つ。
別に私はこの子の味方というわけではないのだ。
だからこの子が傷つこうが関係ない。
「あー、まぁ、私も愁くんが愛されてないという意見には賛成なんだが・・・だからといってそれは彼のせいではない。
彼が暴力を受けていいわけでもない。
だから君た・・・お前ら・・・さっさと帰れ。」
私はわざと挑発するような態度を取る。
「あ、なんでだよ。
俺達は遊んでるだけなんだよ。
女子は邪魔すんな。」
一人のガキ大将っぽい男の子が私の前に立ちはだかる。
その子の手が私の肩に向かってくる。
ふむ、このままだと肩を押されて私は倒れるな。
ま、私が普通のか弱い少女ならだけど。
「え・・・。」
私は突き出される手を横からつかみ、地面に向かって引く。
そして足をちょっと引っ掛けると・・・ガキ大将君は地を背に倒れた。
ガキ大将君は抗おうにも動けず地に背中をつけて一言漏らす。
私は彼の胸に足をおく。
これで起き上がれないだろう。
「う〜ん、やっぱりみんなこんな感じか。
少しサボっても困らないかな。」
う〜ん、普通に記憶の中にある合気道の技を使ったのだが簡単に決まってしまった。
子供相手だから仕方ないけど、これなら少し鍛える時間を下げても困らないな。
「あれ?皆どうしたの?」
自分の強さを確認して、皆の方を見ると・・・梨絵までも驚いた顔をしていた。
「あ、そっか、こんな事できるのは私ぐらいだもんね。
・・・よし。」
私は足を離し、ガキ大将君を自由にさせる。
ガキ大将君は苛ついた様子で距離を取る。
殴りにかかると思ったがこの子は意外と冷静にモノを見るね。
頭のいい子だなぁ〜。
「愁君。あのガキ大将君は君より優秀だ。
君よりちゃんと自分をわかっている。
正直に私の見解を言うなれば、君がこんな状況の中心にいることになんの疑問も感じない。
これは君が弱かった証拠だ。
私としては否定ばかりして変わろうとしなかった事に愚かだと彼らに混ざって言いたいぐらいだ。」
・・・私は一体何様なのだろう。
こんなこと言える立場なのだろうか。
でも・・・まぁ、こんな台詞、こんな時にしか言えないしね。
ここまで来たら、勢いだ。
カッコつけよう。
「だけど私は優しい。
だから一つ、君に強さを教えてあげよう。」
私は私を警戒する全員を見回して、拳を構える。
「さて君たち、そろそろ準備は整ったかな?
アドバイスとして言っとくけど、ヒーロー番組の見様見真似で連携を取ろうとしてるけど意味ないよ。
結局、君たちはどんなに連携をとっても一人ずつしか来ないんだから私に適う訳がない。」
私は公園内の木の根本に落ちてある、手頃な枝を拾いあげる。
15人対1人で私は女の子なんだから武器ぐらい構わないだろう。
まぁ、私なら手だけでも怪我させないで無力化簡単だけど。
枝を肩に置き、右手をクイクイと曲げて挑発した。
「お前ら・・・かかってこい。
全員・・・ぶっ飛ばしてやる。」
私の今日は激しい一日らしい。