初めての、死。
ピー!ピー!ピー!
私の視界に、家族が映る。
皆が泣きながら、しわくちゃになった手を握ってくれる。
・・・やっぱり私は幸せものだ。
手から感じるぬくもりがそう思う。
私は85年と言う長い年月を過ごした。
その間、私は人に恵まれた。
もう現世にはいないけれど、私の親は私に人生の全てを、最大の愛を私にくれた。
だから私はひねくれることもなく、絶望に溺れることもない性格になった。
あの時のお礼だけじゃ足りないな。
もう届かないかもしれないけど、一応言うよ。
ありがとう、お父さん、お母さん。
目の前で優しい笑顔を向けてくれる妻を見る。
君は私を愛してくれたね。
たまに喧嘩して、柔道技喰らったっけ?あれはいい思い出だよ。
・・・私が落ち込んで立ち直ろうとするとき、君は必ず勇気づけて背中を押してくれたよね。
私に最大の最高の人生をくれて・・・ありがとう。
私の息子は正義感を持って、勇敢に育ってくれたね。
私は何もしていないないのに、ここまで立派に、自慢できる子に育ってくれて私は嬉しいよ。
それに今では警察官のお偉いさんになったんだってね。本当にお前は最高の宝物だ。
息子の奥さんも私の世話を快く受けてくれて、毎日清潔にしてくれて、そして笑顔を沢山くれたね。
息子にはよくできた奥さんだと思うな。
もし息子が浮気をしようものならビンタの一発とは言わず、ボコボコにしてやってな。
貴女が息子の奥さんになってくれたから、私は安心して老後を暮らせたよ。
お礼の一つで済ませるのは、私では出来ない。
孫も他人に気を使える優しい子になってくれた。
いじめられていた子を、家に連れてきたときは、本当に涙がでそうになったなぁ〜。
今では大手企業に務めるサラリーマンだもんね。
定年退職するときには私より給料高くなるから羨ましいよ。
早く結婚してひ孫の顔を見せてくれとは思ったが、これは私のわがままかな。
・・・あー・・・駄目だ。もう音が聞こえない。
そろそろお天道様の元へ行くことになるかな。
視界の中に、昔からの友人数人が映る。
朝日、どうだ?
昔、君は言ったよな?
「俺たちは生涯独身だ!
今モテないのが最大の証拠だね!」
笑いながら言われたっけ・・・。
でも残念だったな、あいにく私は結婚してこんなにも幸せになったよ。
絶対、君より百倍は幸せになってやったな。
君も結婚して私よりではないけど、幸せになったんだからさ、お孫さんの結婚、認めるよう息子さんにいったらどうだい?
死ぬ前に、ひ孫の顔は拝めるように生きろよ。
誠司くん。
君には何度もお世話になったね。
医者である君に今まで何度、病気を直してもらって、私の宝物達の命を救ってもらったっけ?
数えきれないな。
本当に、本当にありがとう。
君がいたから、私はここまで幸せになれた。
美紀さん。
貴女には何回、妻との喧嘩の仲裁を頼んだっけ?
今思えば、あなたが居なければ私達はここまで来れなかったかもしれない。
本当、貴女の女の感には救われたよ。
息子達もお世話になったね。
相談、乗ってくれたんだってね。
本当に・・・ありがとう。
一人一人の顔をよく見て、人生を思い返す。
あぁ、私は幸せだった。
こんなにも人に恵まれ、笑って自慢できるほどの人生を送れて、最後にはベットの上でみんなに看取られて静かに死ねるのだ。
これほどの幸福があっていいのかな?
逆に申し訳ないよ。
でもありがどうございます、お天道様。
貴方様が見守ってくださったおかげですね。
私は最後にと手をゆっくりと上げる。
息子達がその手をギュッと握ってくれる。
・・・最後だね。お礼ぐらいは言わないとな。
最後の言葉、何にしたらいいかな。
あれだな。うん。あれしかない。
掠れた声を出す為に、力の入れずらくなった顎に最後の力を入れる。
「あ・・・・り・・・が・・・とう・・・。」
ピーーーーーーーーーーーー。
あぁ、なんて心地よいのだろう。
とても・・・安心する。
次 の生 は ドウ し たイ ?
ん?声が聞こえる。
誰かいるのかい?
すまんね、眠いのか瞼が重くて上がらないんだ。
あな た のネガ いは ?
私の願い?
なんのことだい?
コタ えろ !
あらら、怒られてしまった。
そうだねぇ〜、私の願いか・・・。
もう神谷晴之としてのせいには後悔なんてないんだよね。
だから願いという願いも・・・
なら ナイ で いい ナ ?
ん〜、そうなるかなぁ〜・・・。
ワ かっ タ 。 なラ
あ、待った!あったあった!私の願いあった!
メん どう 言って ミろ。
今、面倒だっていいかけなかったかい?
まぁ、いいか。
それで私の願いだったよね?
私の願いは・・・神谷晴之の生の中の幸せを他人に分けることだ。
ドウ して ?
私は凡人なのにこれ程と無い幸せを貰えた。
もう満足なんだ。
だから今度はこの幸せを・・・不幸の人に渡したい。
今度は私が人を幸せにしたいんだ。
それに孫にアニメというのを見せてもらったが、生まれ変われるなら今度はクール系と言うのかい?そんなキャラで生きてみたい。
恥ずかしい話だがね。
それ ハ 本音 なの カ ?
・・・もしかして貴方は神様なのかい?
確かにさっきのは私の願いの建前だよ。
嘘はないけどね。
ホン とは 何 だ ?
・・・私の幸福を他人にあげていい。
だから私を不幸にしてくれ。
な ゼ ?
私はバンジージャンプが好きでね。
危険の中から達成感を勝ち取ることにと喜びを感じるんだ。
故に私は不幸という壁を乗り越えたいのだ。
だから私は不幸に・・・なりたい。
あい ワカ った 。
そ れでは ね ムル が ヨイ 。
ん?・・・あぁ、そういうことか・・・。
85年生きてきたがこんなことは初めてだね。
本当に、人生ってのは不思議なものだ。
・・・わかった。もう眠ろう。
次 の 人生に 幸 あらん ことを。
私は暗闇へ意識を戻した。
更新は一週間に一回です(確実ではない。
長くても二週間に一回は投稿します。
他にも小説を書いていますので読んでいただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。