久しぶりのペン
<久しぶりのペン>
翌日 日課を終え、言われた通り森に向かう。
すると彼はすでに絵を描いていた。
横にはペンとスケッチブックが用意されていた。
彼は俺に気がつき「来たな!坊主!」と声をかけてくれた。
結構離れているのによく気がついたな。
「ペンと紙用意してやったから、好きなもん描け!」
渡されたのはペンとスケッチブック。
紙に触るのも、ペンを持つのも。
あぁ懐かしい。
最高のものが描きたい。
でも紙は一枚。何にしよう。
すると「ガキなんだから好きなもん描けよ」と言われてしまった。
確かに普通のガキなら迷わず描きだすだろう。
でも俺はこのペンの価値、紙の価値を知っている。
すぐに手が走らない。
「まぁ、あとで見せてくれや」
彼は少し離れたところに行ってしまった。
そして顔が一瞬で変わる。
特に怖い顔をしているわけではないのだけれど怖みがそこにはあった。
それでも空間は壊さず内の中に秘めている。
そんな彼の姿こそなんだか描きたくなった。
気がつけば俺も手が進んでいた。
1年間描いていないはずなのに、久しぶりの絵のはずなのに。
そこには自分の今まで描いてきた中で最高傑作を書き上げていた。
描き終えると俺は放心状態になっていた。
動けなかった。
うわぁ 気持ちいぃ。。。。
この体では耐えきれない、そんな仕事をした感覚だ。
男は俺の横にやって来て
「ここまで描けるのか。どうやってそれだけの技術を身につけた?」
「練習です。でもこんな絵をかけたのは生まれて初めてです」
前世では描いて描いて描きまくっていた。
自分でもわかっている。俺は天才ではない。練習をして維持して耐えて少しでも高みに一歩ずつ。
でもそれは子供の頃から19までの17年くらいの結晶であって今の俺は8歳のガキ、
練習なんて言っても信じてもらえないだろうな。
「そっか。たくさん練習したんだろうな。いろいろ考えて 感じたんだろうな。いい絵だ。」
「俺はジム。サートの街で画家をしている。絵を描きたくなったらいつでも来い。
俺は明日には街に帰らないと行けないんだ」
この前連れて行かれた街はサート。あの教会で見た絵の画家もジムだった。
思わず「街の教会の絵はジムさんが描いたのですか?」と尋ねた。
するとジムは少し難しそうな顔をして「あれを描いたのはオヤジだ。
オヤジは5年前に死んだ」
思わず「すいません」と答えると。
「お前なんだか大人みたいだな」と。
「俺は仕事があってあと2年はあの街にいる。そのあとは別の街に行かないといけない。
だからそれまではいつでもうちに遊びに来い。一応住所を教えておこう」
そう言うとカードを一枚渡してくれた。
なんだか立派な家紋と一緒に名前と住所が書かれていた。
「ありがとうございます」とカードを受け取ると
「あの絵もらっていいか?その代わりこのペンやるから」
「喜んで」とペンをいただくことにした。
教会に戻ると神父さんに今日あったことを伝えた。
神父はその素晴らしい出会いを神に感謝しましょう。とだけ言って嬉しそうに去っていた。
この日からペンは俺の宝物になった。
たかがペンだけど本当に嬉しかった。
前世では筆箱に当たり前のようにあったペンだけど今はなんだか特別に感じる。