最弱国家の勇者召喚は失敗したらしい
木が生い茂る深い森の奥。
木々に隠れる様にあるツリーハウス達。
その一軒でフードを被り、杖を持つ人が魔法陣の前に立っていた。
杖とは反対の手に持つ本を読んでは魔法陣を眺める。
本を勢い良く閉じると魔法陣の中心に杖を向けた。
「我々は追い詰められた者達が集まる国の偉大なる魔術師、フィーラ。世界よ、この声が聞こえるか。我々の怒り、悲しみ、苦しみ、痛みの声が。」
ゆっくりと中心から魔法陣が光っていく。
「神は人を見捨てぬというのならば、どうか我々を助ける勇者を……!強くて凄い人を我々の元に寄越したまえ!来たれ!我々の勇者よ!」
魔法陣が強く光り、暗い部屋を明るく照らす。
強い風が吹けばフードが捲れ、自信満々な表情を浮かべる女が露になった。
やがて光が収まる。
そこに居たのは……。
「ふぇ?」
幼い男の子だった。
そんな事態に女は固まる。
暫く見つめあうが男の子の方が泣き始めてしまった。
「うわーん!暗いよぉ!ママー!パパー!」
「え、えっと今明るくするから!」
男の子の訴えに我に帰った女は、あっちこっちにぶつかりながらも部屋を明るくする。
「ママー!パパー!どこぉー!?」
「た、多分君のママとパパはここから遠い所に居る!ここはイーナ国の首都、イームルだ!」
「会いたいよぉー!」
「お、送り返すから!君の故郷は何処か言ってごらん!?」
「ぐすっ……東京しか分からない……。」
「トウキョウ……?はて、この世界には無かった地名だ。まさか……。」
女は本を開いて魔法陣と見比べる。
そして硬直した。
「ねぇ、帰れる?僕、おうちに帰れる?」
「……どうしよう。間違えるなんて。」
「ねぇー!帰れるの?」
「……済まない。今すぐには無理そうだ。」
「ママとパパに会えないの?」
「無理だ。」
男の子は再び泣き出してしまう。
「ええい!泣くな!これから私が、ちゃんと君を元の場所へ返せる様に努力する!今すぐとはいかないが、必ず元の世界に帰す!約束するから、泣き止んでくれ!」
「ほんとに?」
「本当だ。破ったら針千本でも飲んでやる。帰る為の魔法陣が出来るまでは私が君の面倒をみる。だから泣き止んでくれ。」
「……分かった。約束だよ、おばさん。」
「うぐっ……私は、おばさんに見えるか……。まあ……好きに呼べ。勝手に呼んで帰せない私が悪いのだ。取りあえず、これから暫く宜しくな。」
「うん!」
こうして最弱国家の片隅で魔術師と男の子の生活が始まったのだった。




