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短編集  作者: 深海魚
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奴隷から卒業したけど最強騎士に拾われた

草木が生い茂る鬱蒼とした森。

聞こえてくる鳥や獣の声。

目を覚ました僕は気付いたら、そこに居た。


見慣れない景色と身に覚えの無い状況に慌てて自分の記憶を探る。


一体、僕は何をしていたのか。

何故、知らない場所に居るのか。


目が覚める前の記憶を辿れば、簡単に答えは出る。


そうだ、僕は殺されたんだった。


先輩達に脅されていた後輩を逃して、僕が脅される。

きちんと持っている現金は渡したけれど、そこを先生に目撃された。

脅していた先輩達は先生に怒られ、それを僕のせいにしてきて階段の上から……。


随分と呆気ない人生だったと我ながらに思う。

好きな人も居なければ、親友も居ない。

話せる人は結構居ても、その人達は話せる人止まり。


皆に合わせるとかが苦手だったからかな?


とにかく、あまりに何も無い空っぽの人生だった気がする。

だからと言って充実した人生が何かと問われれば答えられない。


見知らぬ森に居る理由は良く分からないけれど動かずに、ここで夜を迎えるのは良く無い事な気がする。

勘、とでも言うのだろうか?


何処へ向かえば良いのか分からずに僕は歩き出した。


近くの茂みから狼のような生き物が出てくる。

僕を見て唸っているという事は……。

考える時間も与えられない間に僕は狼に押し倒されていた。


喉を喰い千切ろうとしてきたのを、咄嗟に右腕で庇う。

鋭い痛みが走る。

思わず左で拳を握って顔を殴るけれど、びくともしない。


訳が分からないまま死ぬ。

それは流石に嫌だ。


何か使えないかと辺りを見回したら小石があった。

それを掴むと今度は弱そうな鼻を殴る。

怯んだ隙に無理矢理退けて慌てて距離を取った。


狼は激しく唸っている。

流石に怒らせちゃったよね、そりゃあ……。


狼が襲いかかってきた。

思わず小石を投げるけれど当たる訳も無い。

僕は思わず逃げ出した。


獣の足に人の足が敵う訳が無い。

そんな事は知っていた。

けれど咄嗟に逃げ出してしまう。


途中で小石を拾って狼に投げつつ、走る。

小石は当たる事も無く、狼との距離が詰まっていく。

もう、駄目だ……!



「伏せろ!少年!」



その声に従って伏せると僕の上を何かが通った。

一体、何が通ったのだろう?



「……もう大丈夫だぞ、少年。」



男性の方が近寄ってきて僕に手を差し伸べてくる。

僕は手を取り、立ち上がった。



「先ほどは、ありがとうございました。」


「貴重な人を失うのは私の損だった。たった、それだけの事さ。」



言葉の意味を正しく理解する暇も無く、僕の手首に手枷が付けられる。



「……あの、これは一体?」


「今日から君は私の奴隷。私の元で働いている奴隷達と協力して家を建てて貰うよ。そして終わったら君を売らせて貰う事にしようか。貴重な黒髪だ、高く売れるだろう。」



この世界の事は良く分からない。

ここが何処なのかも知らない。

けれど確実に分かったのは、僕に自由は無い事だった。


他の奴隷達が居る汚れた部屋に案内されて奴隷の烙印を押され、男性の指示に従って動く。

最初は物を上手く運べなかったり、遅かったりして体罰を結構食らった。

けれど次第に慣れてきて体罰を食らう数も減って、男性の理想の家が完成する。


出来上がった建物は大層立派で見ているだけでも嫌な気分になってくるような物だった。

こんな物の為に僕達は苦労させられたのかと思うと怒りが沸いてくる。

それを無理矢理飲み込んで男性が用意した馬車に乗った。


奴隷市場と呼ばれる場所に着く。

そこで僕は商品として売り出された。

どの奴隷よりも高額がついて、男性は満足そうな顔をする。


人の気も知らないで。


僕を買ったのはフードを被った人。

その人は壇上に上がるとフードを下ろした。


綺麗な銀髪に赤い瞳。

僕よりも年上だけれど成人はしているか、微妙なくらい。

正直、奴隷市場という言葉は似合わなさそうな人だった。


その顔を見て主催者も周囲に居た人々も騒ぐ。



「俺は王を護る帝の一人、ラヴィーン・ルケスヤーナ。ある貴族の報告で違法とされている奴隷市場を取り締まりにきた。全員覚悟しておけ。」



会場に同じ服を着た人々が入ってきて次々と捕らえられていく。

やがて奴隷以外は全員、縄で縛られてしまった。


奴隷達は帰る場所がある人々が大半だったみたいで、殆ど残らない。

残った人々も色んな人が違う場所へと連れていってしまった。



「助けて下さって、ありがとうございました。」


「どう致しまして。君も奴隷だったみたいだね。何かされたかい?」


「慣れない頃は体罰を食らっていました。殴ったり蹴ったりの暴力です。他の奴隷達の中には、したくない事までされた人も居たみたい……ですけど。」


「そうか。無理に敬語使わなくて良い。君さえ良ければ俺の家に来ない?本も沢山あるし、身を護る術だって俺が教えてあげる。」


「……言葉に甘えさせて貰おうかな。これから宜しくお願いします、ラヴィーンさん。」



こうして僕はラヴィーンさんの家にお世話になる事になる。


これから、どうなるのか。

ここが何処なのか。

きっと、分かるだろうから。


どうしてラヴィーンさんが僕を気にかけたのか。

その理由を僕は知らなかった。




ラヴィーン・ルケスヤーナは黒髪の少年に恋をしてしまったのだ……。


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