山羊男と魔法使い
レンガで出来た道と建物。
道を歩く者達の容姿は様々だ。
通っていく者達を窓から眺めながらも紅茶を啜る者が居る。
その者は頭は山羊だが、首の付け根辺りからは男の人の体をしていた。
壁に飾られた時計をチラリと確認する。
「さて、仕事の時間だ。」
紅茶を飲みきると洗い、食器籠に置く。
そして荷物の入ったバックを持って家の外に出ると鍵を掛けた。
「おはよう、山羊男さん。今日も仕事?」
「ええ。リコリスもですか?」
「私はやりたい時にやってるの。山羊男さんは決まった時にやってるじゃない。」
「確かにそれもそうでした。」
隣の部屋から顔を覗かせたのは少女。
彼女は魔法使いとして便利な道具を作ったり、良く効く薬を作っている。
「……頑張ってね。」
魔法使いのリコリスからエールを受け取ると山羊男は職場へ向かう。
彼が働いているのは郵便局。
魔法がある世界だが、手紙は温もりがあると誰もが誰かに何かを伝える時に使っていた。
山羊男は手紙を配達するのを仕事としている。
山羊だから手紙を食べたくならないか、と山羊男は問われた事があった。
だが、山羊男の鼻は少々特殊で思いの籠った手紙を食べたいとは思えないのだ。
例えば悲しい感情が籠っていれば海の匂いが、愛情が籠っていれば甘い匂いが手紙からする。
山羊男は草や紙本来の匂いに食欲を刺激されるので、手紙は論外なのだ。
魔法で動くバイクに手紙を乗せて配達する。
その行為は山羊男にとって楽しみな時間でもあった。
様々な者と触れ合う事が出来るのが好きだったのだ。
今では顔馴染みの配達先も増えて、会話も良く弾む。
それが違う悩みの種にもなっていた。
手紙を時間通りに配達する事と様々な者とのコミュニケーションを両立させるのは難しいのだ。
仕事を終えて帰ってくればリコリスが顔を覗かせる。
まだ昼間だが、これがいつもの時間だった。
「何か発明出来ましたか?」
「んー、後少しが遠いかな。」
「気分転換でもしますか?貴方のお気に入りのパンケーキを焼きましょう。」
「本当!?じゃあ、言葉に甘えちゃお!」
山羊男は家の扉を開けて慣れた様にリコリスを家に入れる。
そして山羊男は手慣れた様にパンケーキを焼いて紅茶と共にリコリスの前に出す。
「いただきます!」
「どうぞ、召し上がれ。」
山羊男の主食は草や紙。
パンケーキなどは人が食べる物だ。
けれど山羊男は人の食べ物を作るのが上手だった。
「ご馳走さまでした!美味しかったよ!」
「後粗末さまでした。喜んで貰えた様で何よりです。ところで今日は新月の日。約束を覚えていますよね?」
「新月の日の夜には山羊男さんに会わない、だよね。」
「そうです。」
「……なんでって聞いても、また答えてくれないよね。」
「これだけは答えられません。」
「……そう。パンケーキありがと。元気出た。頑張るね!」
「ええ。お役に立てた様で何よりです。」
「また明日!」
「ええ、また明日。」
リコリスは出ていく。
だが、彼女は諦めてなんかいなかった。
新月の夜。
山羊男との約束を破り、魔法を使って扉を開けて中に入る。
そして、そこには美しくも長い銀髪を束ねた青年が立っていた。
金の瞳がリコリスを見て大きく開く。
リコリスが、その青年が山羊男だと知るのは後少し……。




