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第7話 鞍馬の休日(1)


〈由利香の回想〉


「シュウが、とうとう人生の一大決心をしたようだよ」


 ある日、何の気なしに『はるぶすと』の2階リビングにお邪魔すると、冬里がそんなことを言いだした。

「え? なになに、鞍馬くんがどうしたの?」

 私は、もしかして鞍馬くんが店をたたんじゃうの? いえいえ、それじゃあ夏樹が泣いちゃうから、1人でどこかへ行っちゃうのかしら、あ、それも夏樹が泣くわね。

 違うな。

 じゃあ、もしかしてもしかして鞍馬くんもとうとう身を固めるの? それなら夏樹が泣くことはないか、あ、うれし泣きなんてのもあるわね、と、どうしても夏樹が泣いてしまう方向に思考が向いてしまい。

 あげく。

「鞍馬くん、結婚するの?」

 と、何故か思ってもいなかった言葉が口をついて出た。

 もうひとつだめ押しも。 

「以前は、結婚制度に興味はありません、なんてクールに言ってたくせに」

「はあ??」

 夏樹は思いっきり不審そうな返事を返し。

「……うーん、それもいいかもしれないけどね」

 さすがの冬里もちょっと返答に困り。

 ぽかん、としていた鞍馬くんは、うつむいて肩を揺らしはじめる。

「なによ! 鞍馬くんてば、自分の結婚がそんなに可笑しいの?!」

「……あはは、……いえ、相変わらずの発想がツボにはまってしまいまして」

 笑い顔のまま言う鞍馬くんをギロッと睨んでから、プンとそっぽを向いた私は、文句の矛先を冬里に向けた。


「だいたい、冬里がいきなり冒頭のような事を言うからよ!」

「冒頭って、これは小説じゃあるまいし」

 ククッと今度は冬里が可笑しそうに笑ったかと思うと、ぽろっと言った。

「鞍馬にね」

「え?」

「だから、シュウが鞍馬に、だよ」

「???」

 今度こそ頭がクエスチョンマークでいっぱいになった私に、助け船を出したのは、誰あろう夏樹だった。

「鞍馬寺へ行くって事ですよ、京都の」

「あ!」


 ようやく腑に落ちた私は、「もう! とうりー」と、逃げる冬里を追いかけ回したあと、捕まえられないとわかると、あっさりあきらめて宣言した。

「ふう、もうやめた。だったら決まりね。ようやく決心した鞍馬くんの栄誉をたたえ、みんなで行こう、鞍馬寺、よ!」

「へ? もしかして由利香さんも、行くんすか?」

「はあ? あたりまえじゃない。で、いつ行くの、日程調整してよね。椿も私も忙しいんだから」

「またそういうワガママを言う」

 ちょっと眉を上げつつも、椿も行くと聞いて楽しそうになった夏樹。

「ふふ、これでもう逃げられないよ? シュウ」

 ニッコリと笑いかける冬里に、

「相変わらず、画策がお上手で」

 とつぶやいたあと、いつものごとく、ため息と苦笑いを落とす鞍馬くんだった。



 あとでよく話を聞いてみると、鞍馬くん、最初は1人で行ってこようと思っていたらしい。

 しかも日帰りで。

「鞍馬寺って日帰りで行ってこられるの?」

「うーん、始発で出かけて最終で帰って来るとかなら、大丈夫じゃない?」

「ええ?!」

 冬里との会話でもわかるように、京都の山深いところにあるから、中心街からでもかなり時間がかかるらしい。けど、京都日帰りなんてあまりにももったいないわよね。

 でね、なんと都合の良いことに、そのあとに土・日・祝日と3連休が控えていたのよ。これはもう、ここで行くべしってことよね。で、椿と私は土曜日から、あとのメンバーは日曜日から京都入りすると言うことに話が落ち着いた。

「それにしても、ひとりで行こうなんてずるいわよ、鞍馬くん」

 そんな風に文句を言うと、鞍馬くんは苦笑しつつもさらりと言う。

「春や秋ならともかく、冬は寒いだけでしょうから。それならいっそ1人で、と。それに1人でしたら日帰りでも充分行ってこられますし」

「とにかく! 私が知ったからには、同行して貰うわよ」

「私に、同行するのですよね?」

「なに言ってるの、違うわよ、私に同行するの!」

 いつものごとくごり押しの私には勝てないと悟ったのか、鞍馬くんはそのあとちょっと可笑しそうに笑いながらも、仕方なく頷いてくれたのだった。




〈本編〉


 ディナー営業を終えて最後の点検をすませると、シュウは裏階段から2階へ上がる。

 リビングに入ると、冬里がソファで携帯をヒラヒラさせながら言う。

「ちょうど良かった。お姉様から指令が入ってるよ」

 シュウは苦笑しつつ「待ってて」と、自分の部屋へと入ると、携帯を手にして操作しながらまたリビングへ戻ってきた。ちょうど夏樹もやって来てソファへ腰掛けるところだった。

「(冬の京都もステキよおー! それから相変わらず紫水の料理は最高! 倫ちゃんも総一郎さんも元気だったわ。冬里、ありがと。で、明日なんだけど……)」

 と、メールに明日の予定を事細かに書き綴ってある。

「相変わらず、勝手なお姉様っすよねーまったく」

「ま、いいんじゃない?」

 面白そうに言って、テーブルに携帯を置く冬里。

「あーでも、楽しみっす。色々調べてみると、あのあたりはハイキングコースになってるみたいなんすよね」

「そだね。鞍馬寺と貴船神社を回るコース。けど、雪深い所だから通行止めになってるかもね、なんて冗談。でも苦労が嫌いなお嬢様が、雪をかき分けていくなんてイヤって言うかもしれないしね」

「うっわー言えてます。ま、そうなったらもう一回行くって楽しみができていいかも、っすけどね」

 2人の話を聞きながら、シュウも、今回はゆっくり鞍馬山と話も出来そうにないので、再度行くというのもまたありかなと思ったのだった。




「お待たせしました」

 京阪電車の出町柳駅の改札を抜けると、すぐ前に叡山電鉄の改札がある。シュウたち一行は、そのあたりで秋渡夫妻と待ち合わせをしていた。

 鞍馬には色んな行き方があるが、夏樹が「この、叡山電鉄って言うの、乗ってみたいです!」と、イチ押しし、珍しく反対意見を言う者がいなかったので、そこに落ち着いたと言うわけだ。

「ほんっと、お待たせされたわよ」

「申し訳ありません」

「なーんてね、冗談よ。私たちもさっき着いたばかり」

「重々承知の上です」

「!」

 いつものことながら、たわいないやり取りを見せる由利香とシュウの隣では、椿と夏樹が恒例になった片手ハイタッチで挨拶を交わしている。

「いよっ久しぶり」

「おう! 2日ぶりかな」

 その隣で、珍しく静かだった冬里の横に、由利香の攻撃から逃れてきたシュウが立って声をかける。

「なにかある?」

「ふふ、わかってるくせに」

 ふい、と、鴨川デルタと呼ばれている三角州の、そのまた先にある糺のただすのもりのあたりに視線をやる。

「帰りに寄ろうか」

「そだね」

 微笑んで叡山電鉄の改札へ向かう冬里に続いて歩いていると、遠く彼方から「待ってるぜえ」と、ヤオヨロズの声が聞こえたような気がした。


 ちょうどホームに止まっていたのは展望列車で「きらら」と言うそうだ。一部の座席が窓に向かって備え付けられているタイプのものだった。

「あ、開いてますよ、ここ」

 夏樹が由利香たちに窓側を向いた席を示し、自分たちは反対側の1人用にそれぞれ座る。

「ありがとう夏樹、あとで変わってあげるわね」

「へーい、期待しないで待ってます」

 と夏樹が言ったとおり、由利香は外の景色に夢中になって、とうとう終着まで席を明け渡すことはなかった。

 鞍馬の少し前あたりから、ときおり雪がちらついていた。

「やっぱり雪が残ってるわね」

「そうだね。うー寒い!」

 こんな所にも自動改札が、と感心して駅舎の横を通り抜けると、そこは少し広めの広場になっており、駐車場があって。

「あっ、天狗よ!」

 と、由利香が指さす先には、赤いお顔で立派な鼻を突き出した天狗さんが置かれている。かなりな大きさだ。

「へえ、鞍馬天狗って本当にいるのね」

「伝説だけどね」

「でも、牛若丸に修行をつけたのは、天狗だって噂よ」

 由利香の言いぐさに、思わず吹き出す夏樹。

「噂って、いったいいつ頃の話しっすかー」

「うーんと、えーと、牛若丸っていつの時代の人だっけ」

「平安時代末期だね。けど、さすがのシュウも牛若丸には会えなかったよね」

「へ?」

 椿のいるところでなんてことを、と、冬里の言葉にアタフタする夏樹と、驚いたように目を見張る由利香。その横で、シュウはまたため息をひとつ落としながら言った。

「私は鞍馬寺は初めてだよ。それに」

 と、由利香たちの方に向き直る。

「牛若丸ならこの間会いましたよ」

「「「ええっ?!」」」

 三者三様に驚く、由利香、椿、夏樹に微笑みかけると、シュウはスタスタと彼らを置いて、鞍馬寺の参道へと向かうのだった。

「ちょっとーどう言う意味?」

「このあいだって、……あ!」

 慌ててシュウを追いかけようとした由利香の後ろで、夏樹が何かを思い出したように声を上げた。

「どうした?」

 椿が聞くと、夏樹は「ハハッ、わかったー」と笑い出す。

「冬里っすよ、冬里」

「冬里?」

「そ、このあいだ、由利香さんたちがいないときに、フェアリーワールドのコスプレに参加したじゃないっすか。そん時、冬里が牛若丸のコスプレしてました」

「なによそれ!」

 由利香はあきれるどころか、よりいっそう憤慨したように、冬里と並んで歩くシュウに突進していく。

 けれどそのあとに出てきたセリフは。

「鞍馬くん! 冬里も! あとで冬里のコスプレ牛若丸の写真見せてよね!」

「はあ?」

「訳わからん」

 乙女? の思考にとうていついて行けない青年2人は、可笑しそうに笑いながら前を歩く3人に続いていった。


 山門をくぐると、途中から鞍馬ケーブルと言うのがあって、それを使っても山頂近くまでは行けるのだが、今回は珍しく由利香が歩いて登ると宣言した。

「ええ? 大丈夫っすか由利香さん」

「言えてるねー、途中で挫折したらそのあとおぶっていく椿が可哀想だよ」

「いや、俺も頑張るっす。だから2人で担いでいこうぜ」

「ひど! あのね、見てみてよ、本殿まではたったの1㎞よ。歩けないわけないじゃない。今日はそのために、バッチリスニーカー装備よ」

 その言葉どおり、由利香はきちんとパンツスタイルで頑丈なスニーカーも履いている。

「本人が調べて、覚悟も出来てるみたいなので、大丈夫です」

 椿が苦笑しながら、由利香を擁護するように言う。

「だったらいいんすね。そんじゃまあ、本殿目指して行きましょう!」

 ケーブルの駅を横目に『はるぶすと』御一行様は、山道へと入って行くのだった。

 ゆるゆると坂道を登っていくと、川沿いの道とその隣には、大通り? が並行している。彼らは川沿いの遊歩道のような階段道を上っていく。

 すると行く手に池があり、中を除くとこの寒いのに魚が泳いでいた。

「わあ、冷たくないのかな」

「冷たくないんじゃないっすか」

 よく見るとその向こうに「魔王の滝」の石碑がある。見上げると、かなり高いところに作られたお社から、水が美しくしたたり落ちていた。

「魔王の滝ですって。さすがは650万年前に魔王が舞い降りたってだけあるわよね。……ところで」

 と、由利香は、なぜか後ろにいたシュウを振り返る。

「鞍馬くんって魔王だったの?」

 本気かジョークが、ニッコリ笑う由利香を、あきれたように見ていたシュウの横から、すかさず冬里が答える。

「うん、愛の魔王だよ」

 こちらはいつものようにニーッコリと。

「へ? 愛の魔王って、……アッハハハ、変っす!」

「あははは、いやだ冬里ーおっかしいー」

「そ、そうだよね、……いくらなんでも」

 大笑いする由利香と夏樹と、少し控えめに笑う椿に、「あれ? そんなに受けるようなことかな」と面白そうに言いながら、冬里は皆を先へと促す。シュウは? と見ると、珍しくため息ではなく、こちらもただクスクスと笑っているだけだった。


 そのまた少し先にあったのが、鬼一法眼というお社。

 ここは牛若丸に兵法を伝授した、鬼一法眼と言う武芸の達人(架空の人物とも言われているが)が奉られている。立て札には、武芸の上達を祈願する人も多いと書かれていた。

 そして、そこからすぐ上に、鞍馬の火祭りで有名な由岐神社がある。

 鳥居をくぐると、急な階段があり、その半ばあたりにご神木の大杉がそびえ立っている。

「わあ、すごいわねえ」

「うん、荘厳っていうか……」

 秋渡夫妻は見上げてため息をついている。

「樹齢800年だって」

 椿が何気なく言ったセリフに、冬里がこちらも何気なく返す。

「僕らより、ほんのちょっと長生きだね」

「え?」

 今度も驚いた表情の由利香と、その横では椿が苦笑しながら言う。

「またまた、冬里は。ほんのちょっとどころじゃないですよ」

「だね」

 ニーッコリしながら階段を上る冬里に、由利香は不審を抱きつつも、椿がいるので問い詰めることも出来ずにいた。


 さて、由岐神社を出て、ここから本殿までが鞍馬の九十九折り。

 中門をくぐると途端に空気が変わると言う人までいるように、ここには結界が張られているらしい。残念ながら由利香にはさっぱりわからなかったが。

 さっきまで登ってきた道は、地面がむき出しでその上に雪が降ったため、ぬかるんでいたが、ここからはきちんと舗装? されて、と言うか石畳が続いていく。

 まわりの雪山景色や、空気の冷たさを美しく感じつつ歩いていく。けれどなかなか山頂へは到着しそうにない。しばらく何かとおしゃべりしていた由利香も、途中からどんどん口数が少なくなっていた。

「由利香さん、静かっすねー」

 夏樹が茶化したように言うと、由利香はハアハアと息を切らしながらもめげずに口答えした。

「う、煩いわね、なによこれくらい。ハア、……あ!」

 すると、行く手に何かを見つけた由利香が急に元気になる。

「これ見て! 貞明皇后御休憩跡ですって。ほら、やっぱり」

「やっぱりって、なんすか?」

 こんどは夏樹が不思議そうに聞くと、由利香は偉そうにふんぞり返る。

「やんごとなき人はね、途中で御休憩するものよ。ちょっとひと休み!」

「はあ?」

 ああつかれた、とか言いつつ立ち止まる由利香。けれどあとから来た人は、誰も止まらずに次々先へと進んでいく。

 ちょっとすまなさそうにシュウと冬里に会釈した椿が、由利香の背中を優しくポンと叩いて言った。

「さ、休憩はもういいでしょ。行くよ、由利香」

 椿の言葉に、由利香は「はあーい」と良いお返事を返して、また歩き出した。


 本殿、と書かれた立て札を見つけたのだが、その横にさらなる階段が続いていた。

「また階段ー?」

 由利香が悲痛な叫びを上げるが、他の一行はお構いなし。急な階段をズンズン登っていく。

 そしてそして。

 とうとうご本殿がその姿を現したのだった。

「え? ついたの? やったー!」

 思わず両手を挙げて喜ぶ由利香。「お疲れ」と、ねぎらう椿。

 その先では、

「へえー、ここが本殿なんだ」

「うわあ、雪で曇ってなけりゃ、どこまで見渡せたんですかねー」

 向かいの山々は、雪で煙っている。けれど彼らが到着してすぐ、雪が降っているにもかかわらず、太陽がうっすらと顔を覗かせはじめた。

 本殿はそこに凜とした姿で佇んでいる。

 そして本殿の前庭には、石で六芒星を形作った、金剛床と呼ばれるものがある。これが知る人ぞ知る、宇宙のエネルギーを受け取れるという場所だそうだ。

「真ん中の三角形の上に立つのよ」

「でね、四方の三角をひとまわりするのよ」

「でね、でね……」

 などと楽しそうに語りあいながら、何人もの人がパワーを貰おうと順番待ちをしているほどだ。

 『はるぶすと』ご一行は、混み合うそこは後にして、先に本堂へお参りする事にした。

 ここの狛犬は、戌ではなくて虎だ。きちんと、あ・うんをしているのがなんとも「可愛いー」のだ。

 本殿の中はどこのお寺もそうであるように、薄暗い。

 まずは正面で手を合わせる。

「愛の魔王が来ましたよー」

「由利香さん、護法魔王に失礼ですよ」

「はい、反省してます。申し訳ありません」

 はしゃぐ由利香をたしなめるシュウの一幕が見られたあとは、向かって左側におられる毘沙門天、右側におられる千手観世音菩薩にお参りした。


 そのあとようやくすいてきた金剛床へと向かう。

「まずは由利香から」

 そこにいた全員が勧めるので、由利香は「それでは遠慮なく」と、床の真ん中へと向かう。

「よいしょっと!」

 なんとも大げさなかけ声をかけて、三角へピョンと飛び乗った。

「……」

 椿と夏樹のふたりは、ちょっと固唾をのんで出てくる言葉を待っていたのだが、しばらくして由利香の口から飛び出したのは。

「……あれ?」

 と言う疑問符のみ。

「どうしたの?」

「なんか変なんすか?」

 2人の質問に、由利香はエヘヘと首をかしげて言った。

「なーんにも感じない」

 ガクッとずっこけそうになる2人。

「さすがは霊感ゼロどころかマイナスの由利香」

「ひどいわね! じゃああんたが試してみてよ、冬里」

 由利香が三角から出たあとに冬里が立つ。

「うーん」

 またくだんの2人は固唾をのんでいる。由利香はともかく、冬里だよ、と言う感じで。

「なーんにも感じない」

 またまた、今度はふたりしてほぼずっこけた。

「なんすか! 冬里まで!」

「そうですよ、由利香ならともかく、冬里が」

「何よ椿、その言い方」

「あ、ごめんごめん」

 頭をかく椿を、冬里が手招きした。

「じゃあ、椿立ってみる?」

「あ、はい」

 続いて椿。

「え、あれ?」

「どうした?」

「なーんにも感じない」

 今度は夏樹1人でずっこけて。

「だったら俺が乗ってみますよ!」

 と、意気揚々と乗ったのだが、結果は。

「なーんにも感じない」

 だったのだった。


 シュウはもともと乗る気はなかったのだったが、他のヤツらの反応に業を煮やした由利香の「じゃあ、最後は鞍馬くん!」という一声に逆らえず、円の真ん中へと歩き出す。

 すると。

「え?」

「あれ」

「おわっ」

 シュウが三角の前に立ったとたん、いきなり大量の雪があたりを舞い始めたのだ。

 どんどん降り出した雪は、金剛床の中央にいるシュウの姿を包み込んで、まるで彼を隠しているかのようだった。

「え? なに? 鞍馬くんが見えない」

「すごい雪!」

「シュウさん!」

 心配になった夏樹が叫んで一歩踏み出したのと、雪が晴れたのがほぼ同時だった。

 中央の三角形の上で、ふっと微笑んだシュウが発したのは。

「なーんにも感じませんね」

 だった。

 3人がずっこけたのは言うまでもない。


「で、どうします? 奥の院とか魔王殿って言うのがあるみたいっすけど。けど、ここからがけっこう難所みたいっす」

 そのあと、夏樹が一応聞いてみたが、お姉様の返事は「行かない」と、誰もが予想したとおり。

「シュウはいいの? せっかくここまで来たのに。1人で行ってくる?」

 と、珍しく冬里が優しい事を言うので、夏樹はかなり驚いていたが、少し考えたあとにシュウが返事を返した。

「いや、いいよ。それは次の機会に」

「また来るんすか? シュウさん」

 夏樹の問いかけに、

「今度は本当に誰にも邪魔されずに、1人でね」

 と、ちょっと可笑しそうに答えたシュウに、約2名がギャアギャアと文句を言い出し、そのあと「はいはい、帰るよー」と、ニーッコリ微笑んだ冬里にたしなめられたのも、またいつもの通り? だと言うことにしておこう。



休日シリーズ第7弾、その1です。

鞍馬くんがとうとう鞍馬へ行くことになりました。ひとりひっそり、だとお話しにならないので、作者の都合により皆さんで行く事になりました。ついこの間、作者も取材を兼ねて訪れてまいりました。冬の凜とした鞍馬寺をしばしお楽しみ下さい。


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