幕間 スーパーブルーブラッドムーン
シュウは、月を眺めるのが好きだ。
それは、特に今日のような「スーパーブルーブラッドムーン」でなくても。
「さあーて、もう皆既になってるかな?」
午後10時少し前。
ディナー営業を終えた『はるぶすと』のメンバーは、ベランダに出て、「消えた」月を探す。
「あ!」
最初に見つけた夏樹が、嬉しそうに指さす先には。
「ああ、赤銅色だね」
暗めの赤に染まった満月が、ぽっかりと浮かんでいる。
「あの色を、日本語ではそんな風に言うんすねー」
「うん、覚えておくといいよ」
「はいっす!」
キラキラしたまなざしで、嬉しそうだった夏樹がふと真顔になる。
「あれ? けど前にもこれと同じ色の月、見たことあるなあ」
「うん、アジアの一部では35年ぶり、北米とかでは150年ぶりだもん」
冬里の答えに、夏樹はポンと手を打った。
「あ、そうか、だからっすね。空のイベントってけっこうあるんすよねー」
「僕たちにとっては頻繁にね」
ふふ、と微笑む冬里に、ニイッと笑顔を返して、夏樹はまた月に視線を移す。
千年人の彼らにとっては、150年ぶりだろうが200年ぶりだろうが、それはしょっちゅうの範疇に入るのだろう。
「……」
あれこれ語り合う冬里と夏樹の隣で、シュウは静かにただ月を眺め続けていた。
「うー、さすがに寒かったっすね」
部屋に入ると、夏樹が少し震えたように言う。
その言葉を聞いたシュウは微笑んでキッチンへと入ると、「夏樹は何がいい?」と、オーダーをとる。
「え? あ、飲み物なら自分で……」
言いかけた夏樹は、なぜかそこで言葉を止めて、ちょっと照れたように続けた。
「と思ったんすけど、身体が冷えてるんで、ものすごーく温かくなるのが良いです!」
宣言したあとは、ニイーッと楽しそうに笑う。少しあっけにとられていたようなシュウだったが、苦笑しながらおどけて手を胸に当てた。
「かしこまりました。しばらくお待ち下さい」
アルコールは入っていないが、本気がたっぷり入ったハーブティーで湯上がりのようにほっこりポカポカしている夏樹。
向かいのソファでゆったりとタブレットを見ていた冬里が、顔を上げて可笑しそうに彼に話しかけた。
「それにしても、こういう珍しい天体イベントの時って、必ず出てくるよね」
「なにがっすか?」
「人類の滅亡とか、世界の破滅とか」
「うわっ! 受けますよねそれ! そういや、前んときも、赤い月は世界の終わりだ! とか言って騒ぎ立ててる人がいましたよ。150年たっても世界終わってないっすけど」
夏樹が受けるーと言うように笑いながら言う。
「だよねー、僕たちにしてみれば、そんなに早く世界が破滅してもらっちゃ困るよね。少なくともあと600年は存在しなきゃならないんだから」
「言えてますよね~」
すると、自分用のお茶を持ってきたシュウが、冬里の隣に腰掛けて話に加わる。
「太陽も月も、そのほかの惑星も、ただ狂いなく宇宙を巡航しているだけなんだけどね」
「そうだね。そこになにがしかの意味をつけたがるのが」
「百年人の性、なんだろうね」
彼らにとって、天体イベントは日常茶飯事。宇宙が見せてくれる不思議はとても美しいし、楽しみはするが、そこに大きな意味はない。
また元通り白々と輝く月が、彼らの話に頷くように、少し距離を縮めた? ような気がした。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
さて皆さまは、2018年1月の天体ショーは楽しみましたか?
著者は、こういうイベントの時に、なぜものすごーく悲観的な考えが浮かび上がるのかが不思議で、ちょこっと嫌気がさすのでこういう話になってしまいました。江戸時代や明治時代じゃあるまいし。
著者は長く生きてますので、世界なんか滅べばいいのにと呪ったり(ごめんなさいごめんなさい、ゴメン100回!)、自分など消えてしまえばいいと思ったり(ごめんなさいゴメン100回!)そりゃあ色々悲観的になったこともあります。
終末思想は陥りやすい誘惑ですが、それは地球さんに対して失礼じゃありません? 勝手に決めつけるなーって地球さんも思ってるかもです、と、最近は思います。
おっとー、あとがきのほうが長くなってしまいそうですね、すみません。
と言うわけで、幕間のちょっとしたお話でした。




