第3話 フェアリーワールド
あれから夏樹は仕事そっちのけ? になるどころか、いつも以上に楽しそうにランチとディナーをこなしている。
常連客が「何だ楽しそうね、朝倉さん」と聞くたび、「実は!」と、イベントの事を話すので、まるでフェアリーワールドの回し者? いえいえ広報さながらである。
そして店が終わると、すぐに部屋に引きこもるようになった。
不思議に思っていたシュウと冬里だったが、謎はすぐに判明した。
「ちょっと出かけてきます」
今日は定休日。
フェアリーワールドのイベントまでは、あと2週間の猶予がある。
「どこ行くの?」
冬里はただ何気なく聞いただけだったが、その行き先が彼の予想に反していた。
「えーっと、×市にある手芸用品の専門店っす」
「手芸用品?」
シュウがいぶかしげに聞くと、冬里が面白そうに言う。
「なになに、夏樹また何か習い事はじめるの?」
すると、えっへん、と言う感じで胸を反らした夏樹が説明をし始める。
「違うっすよ。えっと、今度、コスプレするじゃないっすか。で、俺そんなの初めてだったんで、どうしようかなって思ってて、ふと思い出したんすよね」
「へえ、なにを?」
冬里が先を促す。
「この前のゲームイベントの時、すっげえ本格的なコスプレ組がいたじゃないっすか。で、そうだ! だったら教えて貰えばいいんだって」
その言葉に顔を見合わせるシュウと冬里。
「でも、教えて貰うって言っても、どうやって連絡とるの?」
首をかしげて聞く冬里に、夏樹はきょとんとしている。
「へ? どうやって連絡とるかって、だって連絡先交換したっすよ」
「え?」
「あの、攻撃力第1位のアイさんと。俺、あんときすっげえ感激して、色々話しして、なかなか話題がつきないから、じゃあ連絡先教えてって、アイさんが言いだして」
「ははあ、なるほど」
冬里はうんうんと頷き、シュウも納得したように笑っている。
さすが、フレンドリーにかけては右に出る者のない夏樹だ。あのとき、あの短い時間で連絡先を交換していたとは。
「で、訳を話したら、アイさんもあのイベント、行くんですって! で、衣装の作り方を伝授してくれるって事で、これからイベント参加組と一緒に買い物してきます」
嬉しそうに言う夏樹を、2人は快く送り出したのだった。
大荷物を抱えて帰ってきたその夜から、夏樹は衣装制作大作戦を繰り広げ、るはずだったのだが。
「シュウさん、もしかしてミシンとか、持ってませんよね」
悲しいことに、夏樹はミシンを持っていない。
ミシンは必須なので、仕方なく買うしかないと思ったのだが、ふと、あまり期待せずに聞いてみた。そしたら、なんと!
「ああ、あるよ」
と言うシュウの答えに、「ええーーっ!」と、大声を上げる。
「なんでー?」
「そんなにおかしいかな」
ちょっと心外そうに苦笑するシュウの横から、冬里が顔を出して言う。
「夏樹、知らなかったの? シュウの裁縫の腕」
「へ?」
「いつだったか、誰かのウェディングドレス作ったことあるよね?」
「え?」
「さすがにあれは、大変だったけどね」
「ええ?! ウエディングドレスぅ?? なんすかそれ、アンビリーバボー!!」
頬に両手をあてて驚く夏樹の姿を、ただ可笑しそうに眺める冬里と、苦笑をさらに深めるシュウだった。
そして、リビングに出して貰ったミシン(さすがに電動)の使い方を、シュウに1から丁寧に教えて貰うと、夏樹の大作戦が始まったのだった!
が、大方の予想通り、夏樹の衣装のほとんどが、シュウの手によるものになったのは、……シュウの過保護? いや使命感と言うことにしておこう。
さて、当日。
お日柄もお天気も良いフェアリーワールドの入り口は、色の洪水であふれている。
「あ、来た来た」
冬里が手を上げて合図する先には、シャーロッシホームズとアルセーヌルパンが仲良く肩を並べてこちらへ歩いて来る。
「知り合いっすか?」
思わず聞く夏樹に、ふふん、と笑みを浮かべた冬里が言う。
「何言ってるの、夏樹も良く知ってるじゃない」
「へ?」
それでもまだわからない夏樹に、シャーロックホームズが声をかけた。
「よお、変装してきたぞ」
「ハル兄! なんで?」
そう、それはハルその人だった。
隣にやって来たアルセーヌルパンはというと。
「僕までお招き頂いて、光栄です」
「お久しぶりですね、シギ」
「ええ? シギまで! ひどいっすよ、冬里。なんで教えてくれなかったんすかー」
「ギリギリまで来られるかどうか、わかんなかったんだよ、ね?」
「ああ、そうだ。だから許してやってくれ、夏樹」
そう言うと、ハルは夏樹の頭をガシガシ、しようと思ったが、ゲームに登場する戦士の格好をしている夏樹は、髪をムースでガチガチに固めているのであきらめる。
「あ! そうか!」
いきなり声を上げた夏樹に、ハルが何事かと聞く。
「なんだなんだ」
「だから、由利香さんや椿がいない日にしたんすね?」
そう、今回、由利香と椿はシンガポールの椿の両親の所へ行っている。「なんでこの日なのよ!」と、由利香は不満タラタラ、非難囂々(ひなんごうごう)だったのだが、それでこちらの謎も解けた。
「ハルが来るかも、だったからっすね」
そしてもう1人、いや、もうひと組。
「よお」
やって来たのは、ヤオヨロズとニチリンだ。
だが、なぜか2人は普通のカジュアルな服装に身を包んでいる。
「ヤオさん、ニチリンさん、……その格好」
「コスプレだと聞いたからな。どうだ、いいだろう」
モデルよろしく、クルッとひとまわりしてみせるヤオヨロズ。
「もう、いつもの格好で良いって言ったでしょ。それだと入場出来ないよ?」
珍しくガックリしながら言う冬里に、ニチリンが肩をすくめる。
「だから言ったでしょ、ヤオ。私たちのコスプレってこっちでは普通の服なんだって」
「わかってるが、俺だってちょっと遊んでみたかったんだ」
そう言うと、2人はまたクルリとひとまわりする。
すると、ひゅうと舞い上がった風とともに、長い髪に冠をいただき、白い衣装に剣を差したヤオヨロズと、裾の広がった着物に、天女のような羽衣を纏ったニチリンが現れた。
「うん、合格」
「ふん、面白くない」
ニッコリ笑う冬里に、むすっとするヤオヨロズがなんだか可愛く見えた。
「冬里のその格好って、牛若?」
ニチリンが聞く。
「うん、ゲームとかに登場するのじゃなくて、どっちかって言うとオリジナルの義経」
「よね。で、クラマは? どう見ても普通の格好よね」
そうなのだ。
自分たちの事を言われたからではないが、シュウの、胸に赤い薔薇を挿しただけのタキシード姿を見て、ニチリンが首をかしげるのもうなずけた。
すると、シュウはおもむろに内ポケットからオモチャの銃を取り出して言った。
「I am James Bond」
これには冬里を除く全員が、ただポカンとするばかり。
「あ! そうだったんすか?」
「なるほどな」
「でもさあ、007にはセクシーな」
「ボンドカールなら、ここにいるわよお」
ひとり冷静だった冬里のセリフが終わらないうちに、シュウの影から出てきたのは。
「依子さん!」
セクシーなチャイナドレスに身を包んだ依子だった。
ゲッと言う顔で、冬里が言う。
「なんで依子がいるの?」
「私が依頼しました」
シュウがすました顔で言うから、冬里は、ははーんと納得する。無理矢理コスプレとかさせられた意趣返しのつもりなんだろう。
「ま、いいけどね」
ちっとも応えない冬里に、ため息交じりの微笑みを落としたシュウが、珍しく皆を先導する。
「それでは、行きましょうか」
!!!
ここでまた冬里を除く全員が目を見張る。
シュウが依子を引き寄せると、セクシーに腰を抱いてピッタリとくっつきながら入り口の方に歩いて行ったのだ。
「アワワワ、し、シュウ、さん?」
夏樹などは真っ赤になって焦っている。
「ふふ、なんだかんだ言って、けっこう楽しんでるじゃない?」
「クラマ、ようやくお前も一人前になったかー」
「まあ、今日は無礼講だ」
「ですね」
「まったく、男って単純ね」
そのあと、ひとり置いてけぼりになりそうになった夏樹が、「ま、待って下さーい」と、勇者とはとても思えないような声を上げながら、入り口へと走っていくのだった。
まあ、慣れとは恐ろしいもので、そのあとシュウが依子とラヴラヴ? していても、夏樹もどうにか気にとまらなくなった頃。
大賑わいの園内で、奇跡的に巡り会ったアイさん一行は、さすがというか、ハイレベルの装いで、まわりから一目置かれていた。しばし再会を喜んだあとは、夏樹のコスチュームに高評価を貰ったりもした。
「やっぱ、シュウさんが手伝ってくれたおかげっすね」
「っていうか、ほとんどシュウが作ったよねー」
などとワイワイしながら、園内を巡る。
「ちょっと、夏樹! 今度はこれ乗りましょ!」
コスプレしていても、乗れるアトラクションは多数ある。依子はチャイナドレスから、ピッタリ身体に沿ったライダースーツにお着替えしたおかげで、アトラクション攻略に命を懸けられるようになった。
「で、なんでシュウさんじゃなくて、俺なんすか? 俺こんな格好なんすけど」
「つべこべ言わない!」
依子に首根っこを捕まれてアトラクションに消える夏樹を見送ると、他のメンバーは、各々自由に散策をはじめた。
その場に残ったのはヤオとニチリン、そしてハルだ。彼らは通りのカフェに席を取る。
「それにしても、春夏秋冬が揃うのを見るのは久しぶりだな」
ヤオヨロズがなんとなく楽しそうに言う。
「だな。由利香のおかげで、なかなか集まれない」
「あら、さすがにそれは由利香さんが可哀想よ? 5人を会わせないのは貴方よ、ハル」
「ああ、すまない」
と言いつつ、ハルは少しもすまなさそうではない。それどころか、反対にふたりに問いかけた。
「前から思っていたんだけど、ヤオとニチリンは、知っているよな?」
「なにを?」
ニチリンが聞く。
「春夏秋冬とそれを知る百年人が出会うと、何が起こるか。ずっと続いている春夏秋冬に、同じ事がなかったとは思えないからな。太古の昔からいるおふたりなら、経験したことあるだろ?」
すると。
顔を見合わせて、しばし無言のヤオヨロズとニチリンだったが、2人はハルの方を向くと、同じように首を横に振った。
「ない」
「残念ながら、今まで一度もなかったわ」
「え?」
2人が言うには、ここまで完璧に春夏秋冬を知って、ここまで深くかかわりを持つ百年人は、これまで1人もいなかったそうだ。
「だったら、今のこの状態は」
「そう、世界が始まって以来かも」
「大丈夫だ。俺らはお前さんたちがなにをしてどうなろうが、絶対にお前さんたちを見捨てたりしないから」
「なんだよそれ」
可笑しそうに笑うハルだったが、今のヤオヨロズの言い方からすると、彼らにはおぼろげに何かわかっているのかもしれない。
「ハル。5人が揃ったところで、天地がいきなり崩壊したり、システムがなくなったりはしない。それどころか、よ。……安心して」
ニチリンに言われずとも、ハルの中には世界崩壊だとか終末思想だとかはこれっぽっちもない。ただ、ニチリンの表情から、5人が揃うと、物事が良い方向に向かうことは確からしい。
ハルは頷いたあと、気持ちを切り替えて、目の前のスイーツに舌鼓を打つのだった。
さて、その頃、春夏秋冬の秋は。
「うわあん」
また、人助けをしているようだった。
「どうしたの? お母さんとはぐれたのかな?」
「う、うえ、うん、ママがいなーい」
怪獣の格好をした男の子が、涙で顔をグチャグチャにして泣いている。
「そう、それじゃあ」
と、シュウはその子をヒョイと肩に担ぐ。
「わ」
「そこから、ママを大声で呼んでごらん」
いきなり視線が変わって驚く小さな怪獣だったが、シュウの言葉にひとつ頷くと、力の限り咆哮した。
「ママぁーーーーー!」
近くにいた人が驚いて振り向く中。
「シンちゃん!」
少し離れたところで、声がした。人混みの間から、ママ怪獣がぴょんぴょん跳び上がるのが見える。
「あ! ママだ!」
彼が指さす方向に、シュウが移動して。
ママも人をかき分けながらこちらへと向かってくる。
「ママー」
「シンちゃん!」
感動の対面を果たした親子を微笑んで見て、クルリと背をむけたシュウの手を、小怪獣がつかむ。
「ありがとう! ねえ、おじさんはだれ?」
「私ですか、私はただの料理人……、あ、いえ、今日は007です」
「ダボーセブ?」(シュウのネイティブ発音のダブルオー・セブンが、彼にはそう聞こえたらしい)
「はい」
きょとんとしてつかんだ手が緩んだところで、シュウは微笑みを残してその場をあとにした。
ハッと我に返った彼が言う。
「カッコイイー! ママ、今度は僕、ダボーセブになる!」
さて、またその頃、春夏秋冬の冬は。
♪♪~
♪~♪~、――。
演奏が終わると、まわりからヤンヤの喝采が巻き起こる。
冬里と同じく、若き義経の格好をしていた彼女は、ダンサーだと名乗った。
「だったら、その華麗なダンスを披露してよ」
と、冬里が懐から取り出したのは、横笛だ。
「へえ、貴方横笛なんて吹けるの? 本当に義経みたいね」
可笑しそうに言う彼女に、冬里は、
「うん、たぶん義経より上手だと思うよ?」
と、また煙に巻くようなセリフを言って、余計に彼女を可笑しがらせた。
だか、演奏が始まると、彼女はそれを認めざるをえなかった。
「……すごい」
そして、その音色に促されるまま、彼女の身体は舞を舞っていた。
拍手の渦から抜け出した冬里は、いつの間にか隣に立っていた人物に話しかける。
「で? なんで僕なの?」
それはシギだった。
「まあまあ、それはどこかでゆっくり話そう。そのために今日は来たんだから」
彼らは、その場から、本当に煙のように消えるのだった。
それからしばらくして。
フェアリーワールドの某アトラクション。
ワールド全体が見渡せる高い屋根の上に、シュウがいる(なんでそんなところに上れるの?! っていうのはこの際置いといて)
シュウは、屋根の平らな所に腰掛けて、静かにフェアリーワールドを眺めている。
「こんな所で、ジェームズは休憩?」
すると、後ろで声がした。
振り向かなくてもわかる。冬里だった。
しばらく無言で佇む2人だったが、ふとシュウが独り言のようにつぶやいた。
「意外だと思うけど、こういうタイプのイベント、実は好きなんだよ」
「?」
「誰かさんの、かなりな無茶ぶりがなければね」
「あれ、誰のことかなあ」
クスクス笑う冬里に、こちらは苦笑いを返してシュウは話を続ける。
「純粋な好きの気持ちが集まってくるから。たまにハイレベル組に嫉妬したり、妬まれて何か言われて落ち込む人もいるけど、ほとんどが心の底から楽しんでいる」
「そうだね、心地いいよね」
風に乗ってやって来る、人々の喜びの気持ちが、2人を優しく包みこむ。
「ただ、悲しい思いをしているのは、見過ごせないから」
そうつぶやいたシュウのまわりがかすかにボウッと光り出す。よく見ると、小さな小さな光がいくつも浮かんでいるのがわかる。
シュウがフイ、と、目を上げると、それらはフェアリーワールドのそこここへ飛んで行き、イベントを楽しむ人々に吸い込まれていく。
喜びを隠さずに表している者は、よりいっそう楽しそうに。
ちょっと恥ずかしがったり躊躇したりしている者は、心がポウッと温かくなって、うつむきつつも嬉しそうに微笑んだり、素直に笑顔が出てきたり。
嫉妬やねたみに苦しむ人には、大丈夫だよ、と言う思いが胸の隅々まで広がっていく。
彼は園内のすべての人が見渡したくて、ここへ来たのだろう。
「さすがは愛の贈り人、シュウ・クラマだね」
その様子を見ていた冬里が微笑んで言う。
「なんだろうね、それは」
「あれ、珍しく感心してあげたのに」
「それは、ありがとうございます」
ふふ、と2人は可笑しそうに笑い合う。
「さっきさ、シギと話しした」
「そう」
先を急がせないシュウに、冬里はしばらく空を見上げていたが、
「サグラダファミリアのことは、ずっとそこに住むとかじゃなくて、ただ、僕と一緒にお祝いしたいだけなんだって」
と、ちょっと可笑しそうに言った。
冬里自身も、まだ他に行くような感覚はちっとも沸き上がらないのが、正直な気持ちだ。
「だからそのうち、長めの休暇を頂きます。いいよね、オーナー?」
「スタッフの要望に応えるのも、オーナーの大事な仕事です」
胸に手を当てて慇懃に言うシュウに、ふふ、と微笑み返す冬里。
「彼は僕のことを、観察者だって言ってた。でさ、シギも同じように観察好きなんだけど、彼はそれを記録するのも好きなんだって」
「ああ、それで似ていると」
「だね」
2人はそれだけの会話をすると、また黙って空やワールドを眺めはじめた。
どれくらい過ぎたのか。
ジェットコースターのうねり音と、キャーッと言う楽しそうな声がかすかに2人の耳に届く。シュウは今それに気がついたと言うように顔を上げ、
「さて、そろそろ夏樹を助けに行こうかな」
と、アトラクションを見回した。
「そうしてあげて」
ニヤッと笑う冬里に頷くと、静かに言った。
「ヤオヨロズさん、お願いします」
その声に応えるように、フッとそこから彼の姿が消えた。
閉園の合図である幾発もの花火が上がると、楽しかった今日のイベントもおしまい。
入場者は三々五々、出口へと向かう。
出口前に設置されたお着替えブースから出てきた人々は、また日常へと帰って行くのだ。
「楽しかったわ。また何かあったら誘ってね」
「うむ、こんなに多様性あふれる所に住んでいるのに、それ以上に多様性を求めると言うのが、人の面白いところだな」
各々の感想を述べたヤオヨロズとニチリンは、またひゅうと舞い上がる風に乗って、空の彼方へと帰って行った。
「楽しかったー。また誘ってねー、特に、夏樹」
「ひえっ。い、嫌っすよ。あ! そうだ、今度は由利香さんと来て下さい。きっと良いコンビっすよ」
目の回る忙しさでアトラクション制覇させられた夏樹が、依子の誘いを断っている。その依子の今日のお宿は、『はるぶすと』ではないようだ。
「夏樹がしきりに、すげえすげえって言うから、うっかり予約しちゃったわ、エンタープライズホテルのジュニアスイート。でも1人じゃもったいないから、シギと一緒に、ね?」
「そうですね、楽しみだ」
ポカンとしながら2人を交互に見ていた夏樹は、そのあと本当に嬉しそうに言った。
「うわっ、いいっすね。うーんと満喫して下さいよ。特に朝食!」
「ありがと」
「満喫するよ」
そのあと、2人はシュウや冬里、ハルにもしばしの別れを告げて、タクシー乗り場へと向かうのだった。
「さて、じゃあ俺は、由利香が帰るまで、お前さんたちの店でアルバイトだ」
「うーうれしい! ハル兄としばらく過ごせるなんて、夢にも思ってなかったっすよ」
「だね。じゃあ帰ろー」
その言葉通り、ハルは何日か『はるぶすと』に滞在を決め込んでいる。
シュウがハンドルを握る車は、今日も湾岸線を滑るように進んでいく。
それを見守るように、丸い大きな月が海の上で微笑んでいた。
わかっているとは思いますが、
ここで各自のコスプレをおさらい!しておきますねー。
シュウはジェームズボンド
夏樹はゲームキャラ
冬里は牛若丸
ハルはシャーロックホームズ
シギはアルセーヌ・ルパン
ヤオさんとニチリンさんはそのまま
依子がボンドガール
でした。