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休日エピローグ


 今回の京都鞍馬寺への旅は、椿だけでなく、由利香にとっても、また、『はるぶすと』の面々にとっても、忘れられないものになった。


 あのあと、下鴨神社の神々に順番に紹介されたあと(椿は訳がわからぬまま)、お礼を言ってヤオヨロズとニチリンとはそこでお別れし。

 お昼は誰かさんの「おなかすいたー」で、ガッツリ大盛りラーメン、反動で夜は軽食のルームサービス。

 いつものホテルで、いつものごとくお隣同士の部屋を取り、これまたいつものごとく中から行き来出来るコネクティングルームだったので、5人はシュウたちの部屋で夜更けまで語り明かすことが出来た。

 千年人とはなんぞや、から始まって、彼らの身体的特徴(生殖機能がないこと)や、性格的なこと(妬みやそねみなどの嫉妬がないこと、愛と言えば男女愛ではなく、人類愛的なものだけを持っていることなど)に、椿は真摯に耳を傾け、驚きながらも自分の中できちんと整理して理解をしたようだ。

「まあ、由利香って言う先輩がいるから、わかんないことは聞けばいいよ、ね?」

「え? ……ああ、そうですね」

 冬里がいつものごとくウインクなどしつつ軽く言うので、その時は納得した様子を見せる椿だった。



 そんなこんなから少し過ぎて、今日はレトロ『はるぶすと』の日。

 椿はいつものように日がな一日、お決まりの席でゆったりと時を過ごしたあと、夕飯の準備のために2階へと上がっていた。

「これでよし、と」

 今日もまた夏樹が料理の味見をしたいと言ってから出かけたので、それなら、誰がいつ帰っても温めるだけでいいシチューにしてやれ、と、最近は手抜きも覚えた椿だ。

 今日は由利香も残業だとさっき連絡が入ったし、あとはのんびり出来るな、と、リビングのソファに寝そべっていると。

 カチャ

 と、ドアの開く音がして、なんとシュウが入ってきた。

「わ、鞍馬さん! どうしたんですかこんなに早く。何か忘れ物でも、って鞍馬さんに限ってそんなことはないよな」

 慌ててソファから飛び起きると、照れながらちょっと早口で言う。

 シュウはそんな椿を手で制しながら、微笑んでキッチンへ向かいつつ言った。

「休まれていてよろしいですよ。椿くんにお伝えするのを忘れていましたね。今日は早じまいの日です」

「あ!」

 そう言えば、今日の告知があったときに、いつもより閉店時間が早いんだな、と思った記憶がよみがえる。

「すみません、俺がうっかりしてました。ちゃんと伝えて貰ってますよ」

 そんな風に言って頭をかく椿を、また微笑んで見ていたシュウが、マグカップを2つ手に持ってソファの方へやって来た。

「どうぞ」

 いつもながらの早業で、テーブルに置かれたそれは紅茶のようだった。

「ありがとうございます。お、アールグレイですね、いただきます」

 一口飲んで、うーん、と、変わらぬ美味しさに浸っていると、シュウは自分も一口飲んだあと、ゆったりとマグカップをテーブルに置いた。

「あのあと、千年人のことで、何かおわかりにならない事はありませんか?」

 静かに微笑んで聞くシュウの顔を、椿はまじまじと眺めてしまった。もしかして、今日この時間を取るために、鞍馬さんはわざと? とか思う。

 だったら。

「いえ、わからない事はありません。ただ」

「ただ、なんでしょう」

「ふふ、やだな、鞍馬さんも最近、人が悪いですよ」

「そうですか?」

 少し微笑み合ったあと、シュウが先に口を開く。

「以前、由利香さんと私の間に、何か間違いがあったのでは? と、心配されていましたが、それは解消しましたよね? 私たち千年人に、男女間の恋愛感情はありませんので」

「あ、やっぱり。はい! もう一ミリも疑っていませんので、鞍馬さんもご心配なく!」

「はい」

「けど、前にも言いましたが、俺、鞍馬さんなら仕方がないかな、とか思ってたんで、なんて言うのかな、嫉妬とかやっかみとか、他の奴にだったら、絶対嫌だと感じるようなことなんかも全然思ってなかったですよ」

 そんな椿の言い方に、シュウは少し目を見開いていたが、ふと可笑しそうにうつむいて、また顔を上げる。

「それでしたら、間違いをしておけば良かったですね」

「は? ええーーー!」

「冗談ですよ」

 シュウがまさかそんなジョークを言うとは思ってもみなかったのだろう。

 飛び上がりそうになって驚く椿に苦笑したあと、真顔に戻って話し出した。


「夏樹から、椿くんに嘘をつきたくないから、もうカミングアウトしたいんだと相談されたとき、反対はしませんでした。私も、椿くんに余計な心配をかけているのがわかっていましたから」

「そうだったんですか」

「ええ。で、そうと決まれば、誰とは言いませんが、だったら劇的にドラマチックにしたいなあー、とか言い出しまして。なので、ああいう形になってしまって。本当に驚かれたでしょう、申し訳ありませんでした」

 生真面目に頭を下げるシュウに、椿は慌てて「いや! 大丈夫ですよ!」と、手をブンブン振る。

「由利香からも色々話を聞きましたが、正体? を知ろうが知るまいが、何の変わりもないねってだけで。……ただ」

 と、少し不服そうに腕を組む椿に、シュウが首をかしげて先を促すと。

「何十年かしてもし夏樹にあったら、あいつ絶対、椿ジジイになったな~とか、椿じいさん~とか、面白がって言うに決まってます! それが悔しくて」


 また目を見開いていたシュウが、思わずうつむく。見ると肩が揺れている。

 その時。

「たっだいまー。おう、椿、もう晩飯出来てる?」

 カチャ、とリビングのドアが開いて、どうやら夏樹が帰ってきたようだ。

 それとほぼ同時に、シュウが大笑いをはじめる。


「あっははは、やはりご夫婦ですね。…ハハ、…ハハハ」


「え? なんすかシュウさん! 椿、なにがあったんだよ」

「やーだね、おしえるもんか」

「ええーー!」

 天井に響く夏樹の叫びと、なかなか笑い止まないシュウ。

「あれ? なにがあったのかなあ、ねえ、つ・ば・き?」

 あとから入ってきた冬里にだけ、真相が話されたのは、言うまでもなかった。


 色んな事がありますが、明日は『はるぶすと』、通常モードで営業いたします。





ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

休日『はるぶすと』終了いたしました。

さてはて、とうとう椿にも彼らの正体が明らかになってしまいましたね。とはいえ、何も変わりはなさそうですが(笑)

これからも、彼らの日常はのんびりほっこり続いていきますので、よろしければどうぞ遊びにいらして下さいませ。

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