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6話

 白い砂浜と、エメラルドグリーンの海。

 まだ誰も来ていないようで、広いビーチは往人たちの貸し切りだった。


「うわぁ! やっぱりきれいだぁ! それじゃあ、着替えたらここにもう一回集合ね」


 結衣は走って更衣室のある建物へと向かう。往人たちもそれに続いて更衣室へと足を向ける。

 往人たち男子が先に着替え終わり、しばらくすると結衣と芽生も更衣室から出てきた。


「栞はもうちょっと時間がかかるみたいだって」


 結衣が往人たちのもとに駆け寄ってきて告げる。


「鹿本さんも羽山さんも、スタイルが良くてすごいね、ねえ悠真?」


 匠が駆け寄ってきた結衣とその後ろから歩いてきた芽生に言葉を投げかける。


「ああ、そうだな。いいと思う」


 悠真も匠の意見に賛成の様子だ。


「え? そうかな。えへへ、ありがと」


「ちょっと、いきなり何言ってんの。馬鹿じゃないの?」


 女子たちはいきなりの賞賛に戸惑いの表情が見えたが、銘々に返答をする。

 さすがはかっこいい男になると豪語するだけのことはある。よく気が付くというか、抜け目がないというか。ただ、おそらくはこれは彼の素の行動だろうと往人は思う。まあ、それはそれで恐ろしいような気もするが。


「あ、一ノ瀬さんも……うん。悪くないと思うよ。シュッとしてて、かっこいい感じだね」


「えーっと、何かな? 来ていきなり馬鹿にされたような気がするんだけど?」


 後からやってきた一ノ瀬にも匠は声をかけるが、上手く褒められていない。はやくもボロが出た、といったところだろうか。栞はご立腹の様子だった。


「いや、そんなことないよ。褒めてるよ。ね? 往人?」


 ここで急に往人に火の粉が降りかかる。


「まあ、そんなにこだわることでもないし、重要なことでもないんじゃないか? 一ノ瀬のスタイルだって悪くないと俺は思うぞ」


 往人は少し考えた後に答える。

 フォローになってないことは、往人自身が一番わかっていたが、彼の辞書にはこういったときにどう対処すればいいかについては書かれていなかった。


「まあ、別に気にしてないから、どうでもいいことなんだけど」


 栞は明後日な方向を向いて答える。やはり怒っているようだ。


「それで、これからは何をするんだ?」


 往人は、話の輪の中に入っていなかった結衣に問いかける。


「えっと……何しよっか?」


「何かしようと思って海に来たんじゃないのか?」


 聞き返す結衣に往人は再度尋ねる。

 若者の中ではいわば信仰の対象ともいえる海だが、往人には普通の若者は海で何をするのか見当がつかなかった。


「えっと、とりあえず泳ぐとか?」


 結衣の返答は拍子抜けの内容だった。お前も知らないんかい、と往人は心の中でツッコミを入れる。

 結衣はこういったことには詳しいと往人は踏んでいたが、実際のところはそうでもないらしい。中身は意外と子供っぽいところは昔から変わってはいないようだった。


「あたしは寝たいから、シートとパラソルを誰か借りてきてよ。借りれるってさっき書いてあったから、借りれると思うんだけど」


「あ、私も読書したいから、ついでに借りてきてくれないかな? もちろん私も手伝うけど」


 こっちのほうが正解らしい回答だ。読書というのは特殊かもしれないが、ビーチで寝っ転がっている人々の様子はテレビなどでもよく見るし、想像できる。


「それじゃあ、男子でじゃんけんして負けた人が借りに行くってことで、それじゃあせーの、じゃんけんぽん」


 匠の掛け声に合わせて手を出す。


「えーっと……俺の負けみたいだな」


 往人の負けでじゃんけんは決着する。


「それじゃあ、ちょっくら行ってきますかね」


「私も手伝うよ」


 栞が往人の後をついていく。


「それじゃあ、先に遊んどいてくれ。後から合流するから」


 往人は悠真、匠、結衣の三人に声をかけ、パラソルとシートを借りに行く。

 そして、借りてきたものを栞と二人で手際よく設置していく。


「ほら、終わったぞ。それじゃあ、俺も少し泳いでくるからゆっくりしててくれ」


 そう言って、往人は海の方へと足を向ける。

 そして、往人はとりあえず泳いでみることにした。悠真たちには後から合流するとは言っておいたものの、往人は海では一人で泳いでいるほうが楽しいと感じる性分である。

 家から持ってきた水泳用のゴーグルをつける。海ならシュノーケルのほうが一般的のような気もするが、往人はいつもゴーグル派である。


「さすがは離島だ。遠くまでよく見える」


 ビーチから見えた通り、海は透明度がとても高く、泳ぐのはとても心地が良かった。往人はしばらく穏やかな波に揺られ、綺麗な海を満喫する。

 そして、泳ぐのに満足すると、他のメンバーのもとへ行く。


「あれ、往人じゃん。今まで何してたの?」


 そう言いながら匠はソフトバレーボールを往人の方に打ち上げる。


「すまん、少し泳いでた。っと」


 往人も飛んできたボールを結衣の方へと打ち上げる。

 そして、四人でしばらくボールを打ち合いながら、他愛のない話をする。

 どれくらいたっただろうか。ビーチで寝ていた芽生からお昼にしないか、いう声が飛んでくる。気づけばもう十二時を超えていたらしい。


「ごめん、全然気づかなかったよ」


「いや、別にいいんだけど、あんまり遅くなったら結衣たちも嫌かと思って」


「確かに、あんまり変な時間には食べたくないよね」


 そして、皆で昼食を取りに移動する。どうやらビーチでは海の家のような感じで昼食の販売も行うらしい。そして、今回はアンケートに答える代わりに自由に利用していいとのことだ。

 ありがたくいくつかのメニューを注文させてもらう。変わったメニューはほとんどなかったが、どれもできは文句ないもので、往人たちはビーチでの昼食に舌鼓を打った。

 昼食の後は、少し休憩してからまた遊びに戻った。ビーチフラッグをやってみたり、砂のお城を作ってみたりと思いつく限りのことをしてみた。 

 気が付くと、数時間が経過していた。


「そういえば今日は確か花火を見る人のために浴衣を貸してくれるんだったよね? もうそろそろ戻って借りに行かない?」


 結衣が提案する。一同も賛成して水着を着替えて部屋に戻る。

 部屋に戻ると、女子たちはそろって浴衣を借りに行き、男子は部屋で場所の確認などを行っていた。しかし、その中で一人だけ異なる行動をとっていた者がいた。それは往人である。往人ははなから花火に参加するつもりはなかった。


 往人は部屋に戻ると準備しておいた釣り道具を担ぐと部屋を出ていく。行く場所は皆との少し先にあった磯で、少し危険かもしれないという思いもあったが、それよりも良さそうなポイントで釣りができるというワクワクのほうが勝っていた。

 往人は陽炎が揺らめく炎天下の道路を目的地へと歩いていく。往人の他に炎天下の中を歩いて釣りに行こうとする者はいないらしく、往人は道中誰とも出会うことはなかった。

 ポイントに着き、往人は釣りを始める。表層、ボトム、中層と丁寧にルアーでさらっていく。

しかし、どれだけ投げてもポイントを変えても一向に魚は気配を現わさない。


「いいポイントだとは思うんだけどなぁ」


 往人は唸る。見た感じではかなり良さそうなポイントなだけに、何もつれないというのは少し残念ではある。この苦しみがあるからこそ釣れたときの喜びはひとしおではあるが、やはり釣りをしている以上釣れたほうが嬉しいというのは当然の感情である。


「ん? あれはなんだ?」


 どうしたものか、と考えながら往人が海の方を見やると、何やら遠くに流木のようなものが見えた。しかし、それは往人の目には人工物のように見える。


「よく見えないが、たぶん木の破片か何かだろうな」


 どこかで木材でも使っていたんだろうか。などと往人は考えるが、すぐに自分がまだ何も釣っていないということを思い出し、竿を振り始める。

 それからしばらく釣りを続けていたが、結局往人の竿に魚がかかることはなかった。

 日も落ちて、往人はあきらめてホテルに帰ろうと支度を始める。しかしその時、往人のいる場所の近くの茂みから突然ガサガサ、という音がして、そこから何かが出てくるのが見えた。


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