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4話

「ねえ、何が書いてあったの?」


 芽生が往人の持つ紙をのぞき込む。そして、往人と芽生は紙を見つめた姿勢のまま二人して固まる。


「これって……どういうこと?」


「いや、俺にもよくわからない……」


 これがゲームの一環で、何かの手違いでここに置かれていたのだとしたら、内容が訳の分からないものだとしても納得はできる。ただ、こんな間違いをすることがあるのだろうか、と往人は考える。


「とりあえずゲームの進捗がどうなっているか聞いてみるか」


「そ、そうだね。もしかしたらゲームと関係あるかもしんないしね」


 往人はケータイを開く。


『今、ゲームの進捗はどうなってる? まだ見つかってない封筒があったりするか? 往人』


 しばらくすると返信が帰ってくる。


『ちょうど誰か戦ってるっぽいよ。ポーカーで勝負になったっぽいんだけど、なんだか周りのみんなも白熱しててすごい感じ! 私たちが電車でやったのとは全く雰囲気が違うよ。だから、もう封筒は残ってないんじゃないかな。あ、実況みたいな人が最終戦って言ってるから、やっぱり最後だよ 結衣』


 結衣からの返信によって、この封筒がゲームに関係しているという線は失われる。


「ということは、次に問題になるのは対象だな」


「どういうこと?」


 芽生が不安そうに聞く。


「ゲームと封筒が無関係だとすると、この封筒はおそらく実際に何かを誰かに伝えようとして書かれたものだと思う」


「そうかな? それで?」


「その封筒がここにあるということは、芽生に何かを伝えようとしているのか、ほかの誰かにこのことを伝えようとしていて、それを誤ってこの部屋に残してしまったかのどちらか、ということになるってことだ」


「えっと、そうかも。でも、あたしに向けられたものだとしたら相手がいなくない? 関係者に知り合いがいるとも思えないし、知ってる人は往人たちだけだよ」


「そうだよな、そこが問題なんだよな。普通だったら封筒を関係ない人の部屋に置き忘れるなんてことをするとは考えにくい。でも、その相手が封筒を受け取る理由がないとしたら、その封筒はどうしてそこにあるのか知りようがないんだよ」


 普通だったら封筒を受け取る理由が実はあったと考えるのが妥当だが……。


「うーん、あたし何か忘れてたかなぁ? 忘れてることはたくさんあると思うんだけど、こんなことされるくらいとなると、かなりすごいことを忘れてると思うんだけど」


「芽生には特に思い当たることはないんだよな?」


「そう思うけど。まあ、絶対とは言い切れないけどね」


「でも、わからないものはわからないし、とりあえずは芽生にあてられたものじゃないってことにしてその先を考えてみようか」


 芽生に届くはずのなかった物だったとしたら、最も可能性があるのは一緒に来ているメンバーだろう。 部屋も隣通しになっているし、一番確率は高いはずだ。


「とりあえずみんなを呼んで、心当たりがないか聞いてみよう。不安をあおるようなことはしたくないんだが、もし重要なことだったら困るだろうしな」


『そっちは終わったか? もし終わってたら、部屋に戻ってからでもいいから俺の部屋に一度集まってくれないか? 往人』


 往人はケータイを開いてチャットを送信する。


『さっき終わって今帰ってるとこ。結局謎は解けなかったみたい。相当難しかったって言ってた。それじゃあ、お菓子持っていくね。あと、みんなもわかったって 結衣』


「それじゃあ、芽生も俺の部屋に来てくれるか?」


 芽生は不思議そうな顔をする。


「えっと、自分の部屋にたくさん人が来るのは嫌かもって思ったんだが、こっちのほうが良かったか?」


 往人が説明すると、納得して芽生も往人の後をついていく。

 そして、往人の部屋の鍵を開けて中に入る。


「ごめん、待ったかな?」


 急いで戻ってきたらしい結衣が少し息を切らせて近寄ってくる。

 そして、往人たちと一緒に部屋の中に入る。


「やっぱり、どこの部屋も広いねー」


 結衣が部屋を見回している時、往人と芽生はまるで時が止まったかのように一点を見つめ、身じろぎ一つせずに立ち尽くしていた。


「どうかしたの? 体調でも悪くなった?」


 突然の二人の静止に、結衣が心配そうに聞く。


「これって……」


 芽生が感情のない声でつぶやく。


「あれ? これってさっきのゲームで使われてた封筒じゃん。どうして往人の部屋にあるの?もうゲーム終わったよね?」


 結衣は訳が分からないといった様子だった。

 それもそのはずである。当人である往人にも何が何だかわからないのだ。


「とりあえず中を見てみるか」


 そして、往人が封筒を開けて中を見ようとすると、外から匠たちの声が聞こえてくる。


「あれ? その封筒悠真も持ってるの? もしかして、部屋の中に置いてあった?」


「そうだけど、俺もってことは匠もこれを持ってるのか?」


 匠はポケットから封筒を取り出して悠真に見せる。


「あれ? 二人の部屋にもあったの? 私も部屋に戻ったら机の上に封筒が置いてあったんだけど。中に何が書いてあるか見た?」


栞もまた、封筒をもっているようだった。


「いや、見てなないけど。匠はどうだ?」


 匠も見てないと首を左右に振る。


「そう。それじゃあ、藤崎君の部屋に入ったら開けてみようか」


 三人が話しながら往人の部屋に入ってくる。


「おつかれー、なんか部屋にさっきのゲームのっぽい封筒があったんだ……けど」


 部屋の異様な空気を感じ取って三人とも黙る。

 しばらくの間沈黙が続いた。


「やあ、もうみんな気づいてるようだけど、みんなのところに封筒が届いているね」


 往人がいつもとは違う口調で切り出す。

 往人自身もこの状況にどう対処するべきか戸惑っているようだった。


「とりあえず、封筒の中身を確認させてもらえないだろうか」


 皆往人の言うとおりに黙って封筒を開ける。


「えっと、お前たちは忘れている……って書いてあるな」


「僕のもそうだね」


「私のも同じ」


 往人の封筒の中身にもやはり同様の文言が記されていた。


「そうか……振出しに戻ったな」


 往人が苦しげにつぶやく。


「振出しってどういうこと?」


 栞が聞く。

 往人は事の顛末を皆に説明した。


「こうなってしまうと、私たち全員が忘れていることが必ずあるってことになるよね」


「そうだな、栞の言うとおりだと思う。ただ、俺たち全員が忘れていることなんてあると思うか?」


 そういって往人は全員に問いかける。しかし、皆一様に首をかしげるばかりだった。


「わざわざ部屋の中まで持ってくるってことは、大した事のない用事ではないと思うし、いったい何があったんだろう」


 匠は頭を抱える。


「そういえば、結衣は封筒を持ってないけど、結衣の部屋にはなかったの?」


「えっと、あたしはまだ部屋に帰ってないからわかんないけど……」


「とりあえず結衣も部屋の中を確認してくれるか?」


「うん、わかったよ」


 そういって結衣は部屋に戻っていく。戻ってきた結衣の手にはやはり例の封筒が握られていた。

 やはり六人全員に配られていたものらしい。


「もしかして次のイベントのための準備とかじゃない? そう考えた方がすっきりすると思うけど」


 確かに匠の言った通りなら、説明として筋は通っている。

 しかし、そんなに大掛かりなことをする意味が往人にはどうしてもわからなかった。

 確かに説明は可能だし、ありえない話ではないが、往人は何か見落としているようなことがあるような気がしてならなかった。


「とりあえず、それで納得できるならそういうことにして、とりあえずはこのままにしておかないか? もう時間も遅いし、それに芽生は風呂に行きたかったんだろ?」


 悠真が場をまとめる。

 皆もそれに賛同し、全員で大浴場に行くことになった。

 浴場は時間も遅いせいか、人は一人もいなかった。

 そして、往人たちは湯船につかりながら再び先ほどの話をする。

 そして、六枚の封筒から考えられる様々な結果について話し合った。

 そして、一日の疲れか、または考えるのに疲れてしまったのか。浴後はすぐに、全員が部屋に戻って眠りについた。


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