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1話

「まもなく、一番ホームに電車が参ります……」


「電車来たよっ!」

 

 結衣は電車の来た方向を指さして言う。


「いや、電車くらい別に珍しくもないっしょ。ちょっとはしゃぎすぎなんじゃない?」


 芽生がはしゃぐ結衣をたしなめる。


「えへへ。でも、これから無人島に行くんでしょ? バカンスでしょ? テンション上がっちゃうよ」


「いや、ホテルだから別に無人島ってわけじゃないでしょ」


「あれ? 確かにそうかも。まあ、別にどっちでもそんなに変わらないでしょ?」


「いや、それ全然違うから。だいたい無人島だったらベッドも食事もないわけっしょ? さすがにそれは生きていけないわぁ」


「う、確かに。じゃあ、ただの離島で」


「ただのっていったらホテルの人とかに失礼じゃないか?」


 悠真も結衣の発言に横槍を入れる。


「うぅ、揚げ足取りひどいよぅ」


「あはは、ドンマイドンマイ」


 結衣はみんなにからかわれて泣きそうだった。

 ただ、結衣にはこう言ったたが、テンションが上がっていたのは往人たちも同じである。

それぞれにこの旅行を楽しみにしていたのだろうという様子は感じ取れる。

 電車に乗り込むと、中はすいているようで、向かい合って座れる席に悠真と匠、芽生に結衣が、通路を挟んで向かい側の席に往人と栞が座った。


「やっぱり、港の方に行く電車はあんまり人がいないよね。夏休みなのに」


「まあ、何にもないしね。反対側は結構人もいるみたいだけど」


 反対側の路線は、街の方へ向かうために毎日多くの人が利用している。それに対して往人たちが乗っている方の路線は、港以外に行く先がほとんどないため、利用する人の数は限られている。


「でも、ぶっちゃけ人少ないほうがいいっしょ? 人が多いと座れないし、疲れるし」


「それもそうだね。それに、貸し切りみたいな感じで気分もいいし」


 反対側のホームのたくさんの人を見ると、なんだか自分が勝ち組になった気分がする。まあ、実際はそんなことはないんだが。


「そういえば、トランプ持ってきたんだけど、みんなでやらない?」


 電車が出発するとすぐに、結衣がカバンからトランプを取り出しながら提案する。


「いいんじゃね? 結構時間かかりそうだし」


「そうだね、もしかしたら船の中でカジノとかあるかもしれないし。練習しとこうよ」


「いや、ないだろ。だいたい、国内の船なのにカジノとかあったら問題だぞ。それに、もし仮にあったとしても未成年は参加できない決まりだからな」


「じゃあ、僕は大丈夫ってことだね」


「私はだめだぁ、残念だな」


 いや、カジノある前提かよ。だからないって言ってんじゃん。と往人は心の中でそっと呟く。


「まあ、それはそうとして、トランプやるってのは俺も賛成かな。でも、どうせやるなら何か賭けたほうが面白いんじゃないか?」


「賭けは賭博法? かなんかでだめなんじゃなかったっけ?」


「別に金をかけるってわけじゃないから問題ないでしょ。それに、現金はだめだけど食事代とかなら大丈夫らしいし。正直曖昧でよくわかんないんだよね」


「へぇ、そうなんだ。なんか難しいんだね。それじゃあ何を賭けるの?」


「そうだな……。賭けるっていうほどのものじゃないが、勝った人は負けた人にお菓子を食べさせてもらうっていうのはどうだ? 確か結衣はお菓子もたくさん持ってきてたよな」


「え? そんなのでいいの? あ、でも意外と恥ずかしいかも」


「まあ、そのくらいなら問題ないんじゃないか?」


 賭けの対象にするにはあまり面白くない内容でどちらかと言えば罰ゲームといった感じだが、あまりにすごい内容にして殺伐とするのもどうかと思うし、妥当な線じゃないかということで悠真に続いて皆もそれでいい、というようにうなずく。


「それじゃあ始めようか。でも、何をする?」


「とりあえず、ポーカーとかかな? 簡単だし、一周にすればすぐに終わるし」


 皆の反応を見るが、特に反対意見は出なかった。


「それじゃあ、カードを配っていくね」


 結衣は、シャッフルを終えたカードを五枚ずつ配っていく。


「私が配ったから、芽生から時計回りってことでいいよね」


「おっけー。じゃあ、あたしから行くよ」


 芽生をスタートにして各々がカードを交換していく。

往人はフラッシュ狙いだったが、外れてノーペアになった。

 結果は、往人と結衣がノーペアで最下位、芽生がスリーカードで一位だった。


「ってことは、結衣と往人があたしにお菓子をくれるってことだよね。それじゃ、よろしくー」


「結衣、何か良さそうなのを一つくれ」


 カバンをあさっている結衣に向かって往人が声をかけると、結衣は往人にクッキーの小包らしきものを手渡す。


「じゃあ、私から行くよ。それじゃあ、……あーん」


「……ん」


 結衣の差し出した菓子を芽生が食べる。

なんだか背徳的な光景だ、と思いながら、同時にこれを次は自分がやるのか、と往人は緊張していた。


「うわー、これは百合警察案件じゃん」


 悠真が突っ込みを入れると、百合とか言うなよーと結衣は照れ、芽生は匠を睨みつける。


「あははっ、わりぃわりぃ、怒るなって」


 悠真は軽い口調で謝る。


「別に怒ってないし」


 何ともやりにくい状況になったもんだ、と往人は心の中で嘆くが、罰ゲームはやらないとゲームが成立しないので仕方ないと腹を決めて、結衣からもらったクッキーを芽生の口元まで運ぶ。


「ほら、……あ、食べろよ」


 さすがに、あーんは恥ずかしくて断念した。

 芽衣の方を向くと、少し顔が赤くなっているのが分かった。


「お前も、照れたりするんだな」


「う、うるせぇよ。悪いかよ」


 見かけとは違う芽生の純粋な反応に、往人は少し面食らう。しかし、それと同時に懐かしさのようなものを感じて少し安心していた。


「……ほら、食べないと次に進めないだろ」


「わかってるって」


 そして、往人と芽生のお互いが照れながら、一回戦は終了する。


「それじゃあ、もっかいやろっか」


 結衣はノリノリといった様子でもう一度カードを配り始める。

 その後、何回かポーカーをして、その後はババ抜きやブラックジャックなどで戦った。気づくと、車窓からは海が見えていた。


「やっと海が見えてきたな。意外とここまでが遠いよなー」


「そうだね。でも、それももうすぐで終わりだね」


「それじゃあ、トランプはこのくらいにして、降りる準備をしようか」


 悠真の提案をきっかけにして、各々に電車を降りる準備をする。

 それからほどなくして、電車は俺たちの目的とする駅に着いた。


「確かここからバスで港まで行くんだよね?」


 周りを見回すと、ほかの車両からも降りてきたのだろう。数人の人が俺たちと一緒に降りてきた。見ると、俺たちのような若者はほとんどいないようで、年が近い人でも十歳くらいは離れていそうだった。


「今降りた人はみんなおんなじところに行くのかな?」


「たぶんそうだろうな」


 この近くには特に目的地にするような場所がない。だから、この駅で降りた人はほとんどが今回のプレオープンのイベントに参加する人なのだろう。


「まあ、車なんかで来る人もいるだろうしもう少し人数は増えるだろうけど、そんなに人数はいないんだな」


「そうだね、そんなとこに私たちが行ってもいいのかなぁ?」


「まあ、チケットは持ってるんだし、大丈夫……じゃないかな?」


 結衣と匠は不安げな様子だった。

 確かに、周りを見るとなんだか人生で成功してそうな人が多く、往人自身も少しビビっていたが、それと同時になぜ自分の家にそんなチケットが六枚ももらえたのか疑問にもなった。


「まあ、このことは考えても仕方がないだろ。せっかくもらったんだから、これを楽しまない手はないだろ」


 悠真はそう言うと先陣を切って進んでいく。

 バスが止まっているところまで行くと、スタッフらしき人が待っていて人数確認をしているようだっ


「藤崎往人さん、でご予約の六名様ですね? それでは、大きいお荷物はお預かりしますので、バスの方に乗ってお待ちください」


 俺たちはバスに乗り込む。乗客を見ると若い人もいくらかはいるようだったが、やはり歳のかなり上の人が多い、という印象だった。

 それからしばらく経つと、全員揃ったらしくバスは進み始めた。

 バスに揺られること数分、前方に大きな船が見えてきた。


「うわー、おっきな船」


 結衣の口から感嘆の言葉が漏れる。

 周りの静かな雰囲気を察して結衣は恥ずかしそうにするが、周りの大人たちもその多くが驚きの表情を浮かべていた。

 船の側面を見ると、英語でムーン・ツリーと書かれていた。 


「それでは、準備のお済みになったお客様から船内へと案内させていただきます。尚、大きいお荷物は我々の方で客室まで運ばせていただきますが、ご要望のある方につきましては、対応いたしますので、係員までお申しつけください」 


 アナウンスが終わると、順番に船内へと案内されていく。


「こんなおっきな船、初めて乗るよ」


 匠が言う。皆一様にワクワクしているようだった。

 そして、往人の名前が呼ばれると、案内のスタッフとともに六人は意気揚々とムーン・ツリー号の大きな船体の中に足を踏み入れた。


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