前編
三編構成です!
ただ前編までしかストックがありません!
夢を見た。私が<ワタシ>になる前の夢。懐かしさと共によみがえったのは。淡い後悔。四月、私は貴方と違う高校にいた。今までの事がすべて無かったことのように感じてしまう私は、なんて薄情な人間なのだろうか。私は酷く変わってしまった。ねぇ? 真南。私は貴方の何になれましたか? 真南は私にとって全てでした。
ーーー
暑い。直射日光を浴びながら受ける期末考査程、やる気が出ないものはない。マークシートを塗りつぶしながら考えるのは肌が焼けるとかそんなこと。このテストが重要なのは知っているけれども、どーでもよく感じてしまう。勉強なんてしなくても、この学校のレベルだったら半分の順位になんて入るの楽勝。このレベルって馬鹿にするのなら、一位になれよって話だけども。この学校、私がいる普通科のクラスの他に進学クラスってのがある。クラスの雰囲気とかあんまり変わらないって話だけれど。進学クラスの生徒が学年順位の上位を占めている。特に、前回学年一位になった戸松文乃は世界史と現代文が満点。他の教科もすんばらしい点数だった。私は彼女の事は知らないが松さんとみんなに呼ばれていることだけはしっている。私の理想なんだ。私もあのくらい頭が良かったら人生変わってたのかな? いや、変わってないと思う。だって、私は何かと理由をつけて後回しにしてしまいそうだ。
「テスト終了、後ろのやつ回収してこい」
私は待っていましたと言わんばかりに腕を伸ばして、テストを回収していく。取り敢えず喉渇いたから、飲み物買いいこう。なんて思いつつ私はとある問題児の前で立ち止まった。テスト用紙に顔をうつ伏せて寝てる、傍迷惑な金髪。金髪って、どこぞの不良校だよって毎回思う。私は自他認める薄情なやつだから。
「高瀬、起きて頭邪魔」
「……」
私は十秒反応が無いことを確認するとテスト用紙を思いっきり引き抜いた。ドンッて鈍い音が聞こえたが、一応忠告はした。ささっと先生にテスト用紙を渡して席に戻る。取り敢えず、喉が渇いた。今日でテストが終わったからか先生が教室からいなくなると一気に五月蝿くなった。私は私でジュースを買いに行こうとしたら、いきなり目の前に影がさした。
「邪魔、どいて」
「お前さ、少しは遠慮しろよ」
「はいはい」
いきなり目の前に影がさしたのは金髪の高瀬が私の席に来たからだ。そう、金髪の高瀬。リアルで頭に青筋が入るの初めて見た。
「またまた、喧嘩? 高瀬双子」
「ちげーよ」
私とこの金髪は正真正銘の双子である。あと、私は金髪ではない。
「空、私喉乾いてるから先帰るね」
そう言って鞄を持つと教室からでる。すると、怒鳴り声が教室から聞こえた来たがスルースルー。軽い足取りで階段をかけ上がる。途中でオレンジティーを買い、最後の一段をのぼる。そして白い扉をあけた。パッと視界に空が広がって沈んでいた気持ちがはれる。屋上は普段立ち入り禁止なのだが、知る人ぞ知る穴場スポットで気まぐれに開いてある。私はいつもの日陰の場所で空を仰ぐ。私の名前は海、弟は空。私は海より空がよかった。そういえば日焼け止め塗ってないなー。今更だけど。そう思って寝返りをうったときだった。
「スカート、結構際どいことになってるけど」
頭の上から降ってきたその声に私は起き上がった。捲れていたスカートの裾を直すし、声の主に目をやると目が痛いような金髪ではなく、お話の中からでてきた貴公子のようなブロンドが目に入った。
「ありがとう、ございます」
舌足らずながらありがとうと言えたしいいよね。そう思い私は再び横になった。見慣れているのと違う金色に目を奪われた自分が恥ずかしい。
「そっけないね君」
そう言ってその人は何故か、何故か私の隣に仰向きに寝た。私ももう一度空を見上げる。
「あの、どうかしまし、た? 」
「君、生粋の日本人なのにどうしてたどたどしく話すの? もしかして、敬語苦手? なら、普通に話して」
この人めんどくさい。敬語使わなくていいのは助かるけど。普通赤の他人に話しかけるかなー。
「はぁ。なら、どっかいって先輩」
先輩は軽く鼻で笑うと意地悪く笑った。
「先輩じゃなくて、ダシアン・ケェルティーあと、俺が何をしようと君には関係ないよ」
イラっと来たが押さえた。このダシアンさんは空よりましだ。うんうん。それと……
「私だって高瀬海って名前があるし。ダシアンさん」
「ふーん。海ね。いいにくいならダンでいいよ」
ふっとダンの方を向くといつからか私の事を見ていたのか目があった。さっと視線をすぐ空に戻した。ほんのり顔が温かい。顔まで整っているなんて反則だ。自分がこんなに面食いだとは知らなかった。
「プリーズアフターミー、ダン」
「ダン」
私はこのとき知らなかったダンが有名人だってこと。
―――――
お風呂上がりベランダでアイスを食べながら涼んでいると空が私の隣にどかっと座り込んだ。目に痛い金。空が髪を染めたのは高校に入ってからだ。なにかと私を頼っていた空が私に反抗的になったのもこの頃。心当たりが無いわけでもないけど、もしそうなら。この金色は私のための。守るための金色だ。
「ねぇ、空」
「あぁ? 」
相変わらずのイラつく態度。ねぇ、私ちゃんと現実と向き合うからね。やることなす事に理由なんて求めないよ。いちいち空に突っかからないし、回りのことも気にするようにするよだから。
「もう、大丈夫」
綺麗な星が万華鏡のように見えた夜。私は告げた。
「だから、空が守ってくれなくても大丈夫」
私は久しぶりに空が泣いたのを見た。ねぇ、真南。私はちゃんと自分と向き合って、みんなと同じ場所にいくから。
―――――
次の日私達のクラスはプチパニックになっていた。高瀬双子の金髪の方が黒くなったからだ。朝から空はいろんな人に囲まれて大変そうだ。私には関係……なくはない? まあまあ。私は自分の席でカラーの生徒会紙を捲った。三ページを開いた瞬間私はブロンドに目を奪われた。
「あ! 海ちゃんそのダシアン・ケェルティーって人新生徒会長だよね? あーカッコイイ」
カッコイイ。認める。この人はイケメンだ。あれ? これ、ダンだよね?
「上北さん。この人、有名人だったりする?」
彼女は有り得ないものを見たような顔をすると、ダンについて始業のチャイムがなるまで続いた。上北さんによると中学のときに日本にきた生粋のイギリス人で、その美貌で全学年の女子を虜にしているらしい。そのお友達の下見雅人さんもこれはまたモテて二年のビューティフルボーイと呼ばれているらしい。……ネーミングセンス。あと、下見雅人先輩の弟は進学クラスの人気者下見ヒロらしい。人気者らしが、私は松さんしか進学クラスの人知らなかった。私は改めて生徒会紙の中のダンをみる。イギリス育ちのイギリス生まれに日本語で負けた私はどうなってしまうのだろうか。というより、私はある一つの決心がついた。この学校の頂点に私はなる! ちょっと中二病っぽい台詞だが私はいたって真面目である。打倒ダン? いやいや。私の打倒は戸松文乃。彼女からしたらいい迷惑だろうけど。私がこっそりやってるぶんにはね? 大丈夫だよね。うんうん。
「それと、金髪じゃない方の高瀬……いや、今はどっちも黒髪か。海の方、放課後生徒会室いけよー」
は? ごめん先生。なんにも話聞いてなかった。打倒松さん掲げてたよ。まぁ、生徒会室行けばいいんだよね? なにか悪いことしたかなー。もしかして、生徒会長に敬語使わなかったから? いやいや、それはダンがいいって行ったし。うむむ。謎だ。先生が教室からいなくなると心配そうな顔をした空が私の席にきた。目に優しい髪の空はなんだか違和感。
「お前、なにしたんだよ?」
「なにもしてないよ。打倒松さんとは考えてたけど」
あれ、最後の一言余計だった? まあ、昨日まで私ならそんな馬鹿げたこと言わないんだけども。
「……お前、前より馬鹿になったんじゃね? まあ、頑張れ。ってなんかしたから呼び出されるんだよ!」
「知るか!」
髪の色が変わっても、高瀬双子はいつも通り。っと周りが安心していたのを二人は知らない。けれど、険悪な雰囲気は無くなり、微笑ましく思えてしまうそんな日常。私屋上に行くのと同じくらい軽い足取りで生徒会室に向かった。
ーーーーー
普段はいかない三年生の教室がある棟の一番後ろにひっそりとある生徒会室。いつもの癖で屋上まで行ってしまったが今日は閉まっていた、残念。取り敢えず生徒会室の扉をノックするとガラガラと扉があいた。私を出迎えてくれたのは艶々の黒髪美人さん。
「えっと、あなたが高瀬海ちゃん?」
「はい」
たぶん先輩であろう彼女は笑顔で私を中に入れてくれた。奥の机にダンは座っていて、近くには下見先輩らしき人がいる。
「ダシアン、海ちゃんきたよ」
「麗香、それは見ればわかる」
「そーですね」
美男美女とはこう言うことを言うのだろうか。にしても、ダンはダンなんだなー。会ってまだ昨日の今日だけど。
「失礼します。一年の戸松です」
「どうぞ、入って」
私が入って来てすぐ、まかさの戸松さんがいらっしゃった!
これは、奇跡だ。ミラクルだ。……でも、このメンバーってなんなんだろう。
「二人に集まってもらったのは他でもない、来年の生徒会についてだ」
あぁ、だから松さんが呼ばれたんだね。……あれ? 私は何で呼ばれたの? 私の疑問を感じ取ったのかダンがなにか言おうとしたが、それを遮るように松さんはさも当然の様に言いはなった。
「私が優秀な図書委員だと言うとこはそこのモテ男から聞いてると思うのだけれど。……このお話は速やかにお断りしたはずです」
先輩を前にして怖じけずに物をいう松さん。でも、目線はダンではなくその隣にいる下見先輩。そして、なんだか睨んでいる。
しかも、下見先輩はなんだか嬉しそう?? 顔はかっこいいのに。
「聞いているよ。人を使うのが上手いそうじゃないか。それは、上に立つもの素質だ」
そして、続けるように言った。
「二人は生徒会長に立候補していることになっている」
爆弾をおとした。うん。落ちてきた。
いやいや、立候補しないかって言うお誘いだと思っていたら斜め上を行く展開だ。
松さんの目の上、青筋走ってる。
「まあまあ、そんなに怒らないで。これはもう、伝統のようなものだから」
そう付け足したのは最初に私に声をかけた麗香先輩がそういった。なんと言うか、とても空気が重い。なんでもいいから早く帰りたい……
「ねぇ、私達で勝手に話を進めてるけれど彼女はそれでいいの?」
不意に松さんが私に話をふった。
た、確かに私全く会話に参加してなかったけど。
意見とか有るわけでも無いんだよなー。
「海、君からはなにかあるかい?」
ダンが私の事を下の名前で呼んだとき、凄い麗香先輩の視線を感じた。わ、私何かした?
もー、早く終わらせたいのに。
「えっと、なにかあるって訳では無いんですけど。松さんと選挙で競いたいなって思ってます。松さんは私の憧れだから」
シーンと生徒会が静まった。あれ? また、私変なこと言ったかな。もー、勘弁して。そう思った矢先、今まで静かにしていた下見先輩がガタッと音をたて、思いっきり立ち上がった。
「わかるっす! ねぇさんはすげぇですもんね! ここぞって時に頼りになるって言うか!」
わ、わかる。凄く共感できる!
「そうなんです! 私も打倒松さん、松さんをこえる事が目標なんです!」
下見先輩と私、すっごく松さんトークで盛り上がれる自信ある!
「そう言われているけど、どうする。ここまできて、引き下がるかい?」
笑いを堪えながらダンが松さんに問う。松さんは少し困ったような顔をして、私の方を見て花が綻んだように微笑んだ。
「こんな私でよかったらライバルになるわ。正々堂々、悔いが残らぬ様にお互いに頑張りましょう」
「は、はいっ!」
この時、私はダンがしめたとばかりに笑っていたのを横目で見ながら松さんと顔見知りになれたことに喜んだ。
その日はそれで解散になった。
「ちょっといいかな。えっと、海ちゃん」
帰ろうと玄関に行こうと思ったら松さんに呼び止められた。
「どうしたの、松さん?」
松さんは何かを決心したかの様にゆっくり、ゆっくり話し出した。その話す口はとても重そうで、少し心配になる。
「私は皆の松さんじゃ、ないよ。海ちゃんと一緒で、ただの高校生。だから、私に憧れなんて幻想見ない方がいい。私だって人並みに卑怯で弱虫だから」
壊れ物を見るように切なそうにそう言った松さんに私は思いっきり抱きついた。私には松さんが何を悩んでいるのか、抱えてるかなんて到底理解出来ないけれど、少しでも力になりたい。そう思った。
「私が好きな松さんは何事にも一生懸命取り組む姿勢とか、友達を大事にしてるところだよ。私はまだ、松さんのこと噂でとかでしかちゃんと知らないけど、これがら知っていくから!」
そんな私に松さんはふっと微笑んだ後にありがとうと一言私に囁き教室に戻っていった。
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「で、結局なんの呼び出しだったわけ?」
「んー。生徒会長やりませんかって」
はぁー!と驚いた声を上げる空。そんなの私だって意味わからないし。
「うわぁ。その反応傷つく。しかも、ライバルいるんだよー。誰だと思う?」
「ま、まさか、戸松文乃さんか」
「そうなんだよねぇ。嬉しいんだか、困ったんだか」