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召喚!

 

 ――気がついたら石造りの洞窟の中にいた。


 別に外から明かりが差し込んでいるわけでも無いのだが、その割に不思議と洞窟の中は明るい。

 何でだろうと辺りを見回すと、七色に輝く光の粒子が飛び回っているのが見えた。

 よく見ると何かの生き物のようだ。

 半透明の羽が生えているようだが……虫か?

 

 虹の鱗粉を撒きながらその小さな羽虫が飛んでくる。


 何となく俺はそれを片手でキャッチしてみた。


 「うわー。ちくしょー。離せー」


 おお? 喋ったぞ。不思議な虫だ。


 そう思って手を開くと、少女が手のひらから出てきた。

 小さい少女だから小少女だろうか……あれ、何言ってんだか自分でもわかんね。

 手のひら大で羽の生えた少女だ。髪は金色、目はサファイア。


 「……おお、昆虫マニアにでも売れたりしないだろうか?」


 「売るなあああああっ!」


 羽少女は俺に向かって絶叫した。耳がキンキンする。

 よくあのサイズでこんな大音量を出せるものだ。


 「……こほん。えっと。自己紹介するね。私はリルリル。神様からマスターさんのサポートを任されたダンジョンフェアリーなのです。えっへん」


 無い胸を張って自称リルリルさんは俺に言った。


 「ふ~ん」


 「うわ、反応薄っ! これでもフェアリー種は希少なのですよ。非常にありがたくないことに、人間の間では数百万ゴールドで取引されてるくらいですから」


 「じゃあ売ろう」


 「だから売るなあああああっ! いいですか。自覚が無いようなので説明します。マスターさんは選ばれし者なんですよ。ダンジョンコアに適合してリンクできる希少な魂の持ち主なのですから」


 「……よくわかんないんだけど。これ夢? 俺、部屋でゲームしてたはずなんだけど。もしかして寝落ちでもした?」


 「いえいえ。現実ですよぅ。マスターさんにはこの世界の平和のために立派にお仕事をして貰わないといけないんです」

 

 「……なるほど。寝ぼけているようだ」


 俺は床に横になる。

 来ている青のスポーツジャージが土で汚れても気にしない。どうせ夢なのだから。


 「あ~っ、起きてくださいよぅ」


 「……いはぁい」


 喋る羽虫リルリルは俺の口の端を掴んでその小さな両手で引っ張ってくる。


 嘘か本当か分からないが、夢の中では痛みを感じないと聞く。

 しかし俺はいま痛いと感じたので信憑性は五割くらいに引き上げてもいいんじゃないだろうか。


 「……仕方ない。話を聞こうじゃないか」


 「えっへん。それでは説明させて頂きますね。そもそもダンジョンマスターというのは……」


 「……ぐぅ」


 「寝るなあああああああっ! まだ話し始めて五秒も経ってないですよっ」


 「……はっ! いかんいかん。で、何だって」


 「ダンジョンマスターとは言うのですね……」


 俺はうつらうつらとしながら長い話を聞いた。

 昔から俺は難しい話とか長い話が苦手なんだ。それだけで眠くなってしまう。

 

 それでも何とか頭に叩き込んだ情報はこうだ。

 

 まず、ここは日本から見て異世界に当たる事。『トルパローズ』と言う名前の世界らしい。

 この世界では地下で無限にエネルギーが増殖し続けているらしい。

 無限に増殖するので減らさないといずれ飽和して爆発するようだ。

 爆発したら世界が間違いなく吹っ飛ぶ。

 そこで神は考えたそうだ。

 無限の地下エネルギーを使って洞窟などでダンジョンを運営し魔物や財宝を作り出す。

 財宝でおびき寄せた人間とダンジョン側が作った魔物を争わせてエネルギーを対消滅させる。

 また、人間や魔物は魔法を使うことが出来るが、その魔法のエネルギーも地下エネルギーから呼び出している。その呼び出しに必要なキーが呪文詠唱となるらしい。 

 で、ダンジョンを運営するに当たって必要なのが神の創ったダンジョンコアと呼ばれる結晶で、特定の条件を満たす存在しか使いこなすことが出来ないらしい。

 その条件が何かは具体的に分かってはいないが、とりあえずそれに俺は適合したようだ。

 

 「……ぜぇ、はぁ。ぜぁ、はぁ。お分かりいただけましたか?」


 「うん、何となく。でも何か息切れてない?」


 「……はぁ。それはマスターさんが三十回以上も寝るからなのです! 起こすこっちの身にもなって下さいよぅ。あ~叫んだから喉痛い。で、ここからが本題」


 リルリルはどこかへ飛んでいく。その先を視線で追うと透き通った無色透明の結晶が浮かんでいるのが見えた。大きさはリルリル二つ分くらい。

 


 「……んっしょ。おもいー」


 その結晶を抱えてふらふらとリルリルは飛んでくる。


 その様子を俺は温かく見守ってやった。リルリルはやがて重力に負けて地面に着地。

 半べそでこっちを見た。


 「……て、手伝ってよぅ」


 仕方が無いので俺はリルリルがへたり込んでいる辺りまで歩いて行った。


 「んっとね。これがダンジョンコア。だけどまだ未覚醒状態なのです。マスターさん。手を触れてみてください」


 「……やだ」


 「何で!」


 「なんか魂吸い取られそうだ」


 カメラに撮られると魂が抜かれるって死んだじっちゃが事あるごとに言ってた。

 じっちゃは死ぬまで1枚も写真には写らなかった。遺影は似顔絵だった。

 得体の知れないものには触れてはいかんと言っていた。

 今こそその教えを守るときだろう。


 ……と、言うのは半分冗談。

 リルリルの反応があまりにいいから悪戯半分で言ってみただけ……なんだけど……?


 「…………」

 

 リルリルは沈黙こそが金だと言わんばかりに口を真一文字にぎゅっと結んでいた。


 「何故答えない?」


 「……いやー。それはなんといいますか……その」


 「もしかして……マジで魂抜かれる?」


 「……い、いやー、抜かれると言いますかそのー……」

 

 リルリルは何とかはぐらかそうとしているが、その額の尋常じゃ無い汗が真実を物語っている。


 「まぁいいや。なんか話進まなそうだし」

 

 俺はリルリルの抱えていた結晶に手を伸ばした。

 

 ま、少し触れたくらいで害があるわけでもあるまい。

 どうせ静電気だとか酷くても蕁麻疹が出るとかが関の山だろ。

 

 ――そして、俺が触れた途端結晶は静かに蒼い光を放ち始めた。淡く優しい光だ。


 ――ドクンッ!


 心臓が跳ねた。一瞬意識が飛びそうになる。

 そして手の先から何かが引き抜かれていくような感覚を覚える。


 「……ほっ」

 

 俺の様子を見てリルリルはあから様に安堵した表情をした。

 やっぱ俺があの結晶に触れなかったら困ったんだろうな。


 「触ったんだから話して貰うぞ。何が起きた?」


 「えっとね、魂の共有化だよ。以降、マスターさんはあの結晶と一蓮托生なのです。あの結晶が破壊されればマスターさんは死んじゃいます。あ、そうそう逆にマスターさんが死んでも結晶は破壊されちゃいます。だから気をつけてくださいね」


 ほう。なるほど……早まったかもしれん。

 願いも叶えて貰えなかった上、どっちがやられても死ぬ分、某魔法少女の契約より悪辣だぞ。


 「……先に言っとけよな」


 「え、でも言ったら触らなかったでしょ? 事実を語らないうちに触らせるのが本来のセオリーなんですよぅ」


 たしかに。自ら進んで弱点を増やしたいと思う奴はいないだろうなぁ。

 

 「ま、いっか。触っちゃった物は仕方が無い」


 「……い、意外とあっさり受け入れるんですね」


 「ああ、あまり悩まないところと後悔しないところが数少ない俺の取り柄なんだ」


 「そーなのですか。おかげで私は助かったのですけど。ではダンジョンコアと認証が済んだので次はコアの使い方を説明をしますね」


 「え~、まだあんの」


 「こ・こ・か・ら・が。いっちばん大事なんですよぅ」


 「……わ、わかったよ。聞くから。そんな睨むなよ」

 

 「まずは『カタログ』って言ってみて下さい。地下無限エネルギー……いえ、わかりやすくDPダンジョンポイントと言い換えましょうか。このポイントで交換できる商品がずらーっとならんでいるんですよ」


 「……へぇ。んじゃ、『カタログ』」


 手にしていたダンジョンコアから半透明のウィンドウが現れた。

 大きいウィンドウに賞品と思わしき品目が並んでいる。

 右上には保有DPが表示された小さなウィンドウがある。

 なんと、いきなり10000DPあるらしい。 

 

 「……お、これいいな。ぽちっと。あ、これも……あとこれも」

 

 「……はい、右上に10000DPと表示されていますね。これは新米ダンジョンマスターへの神様からのご祝儀です。準備資金としてしっかり計画を立てて大事に使って下さいね………ってええええええええええっ! 何でもう買ってるんですかぁ!」


 「何って名刀村正。いやー。まさか手にできる日が来るとは思わなかった。刀剣ってやっぱり男のロマンだもんな」


 俺は手元に現れた日本刀を自慢げに見せつける。


「あと、炎魔法ライセンス。んで、一番高かったのが無詠唱ライセンス」


 我ながらいい買い物だろう。炎魔法ライセンスがあれば炎魔法を自由に使えるようになる。

 この世界の魔法はわかりやすく言うならば、プログラミングのコードだ。

 この世界の魔法使いは自分の識別コードと魔法コードを組み合わせ更に位置情報や発動のタイミングなどを適宜付加しながら特定の手順で言葉を紡ぐ。それが正しく認められれば結果として地下エネルギーから必要な分が割り当てられるのだ。

 

 ちなみに俺に割り当てられている個人識別コードは『ラ・ヴィエ・アンルゥ・レイル・ミ・ランカード』らしい。長い。長すぎる。

 しかも更にこれをアナグラムのように特定の順番で魔法コードと組み合わせなければいけないんだから全く恐ろしい。

 例えば炎を意味する基本魔法コード『ラギ』やら、大きさや単位の指定をするコードやらだ。

 

 あ、そうだ。説明がちょっと抜けたから捕捉する。

 俺が何故炎の基本コードを知っているか。それは炎魔法ライセンスを取得したからだ。

 ライセンスは才能。カードのように目に見える形じゃ無いよ。

 持っていると炎魔法が使えるようになりますよって権利。

 オプションで一番基本の魔法コードが理解できるようになる。

 それ以上使いこなしたかったら一生懸命魔導書を読み込んで魔法を覚えるしか無いというわけだ。

 交換リストには魔法スクロールって言う裏技もあったみたいだけどポイントが足りなかったから今は説明はいいだろう。

 

 さて、もう一つ。

 俺が何故自分の識別コードを知っているかというと、この世界では自分の体と同じように万遍なく与えられている物であるからだ。

 腕の動かし方が生まれつき本能的に分かるように、これも本能的に分かるのだ。


 ここまでが魔法の基本理論の説明。

 あとは無詠唱ライセンスの説明をしようと思う。

 つっても、無詠唱ライセンスを取得したときにおまけ程度で生えた知識だけどな。

 なに、そんな難しい話じゃ無い。

 難しかったら俺が使えないからな。


 無詠唱ライセンスは俺が知っている魔法コードをプログラミング部分……言い換えるならば詠唱を一切省いて結果だけ取り出すというものだ。

 いわゆる演算結果のショートカットだと思ってくれればいい。

 俺は『ラギ』の基本コードを知っている。だから俺は『ラギ』の結果演算を瞬時に行うことが出来るというわけだ。


 俺は無詠唱ライセンスを試してみる。長ったらしい識別コードを唱えることはしない。

 ただ、「火」をイメージするだけだ。それだけで無詠唱アクセス権が自動で最適化して魔法を形作ってくれる。


 指先にマッチの火程度の炎が灯った。大きさや温度の調整は現時点で不可能だ。

 俺は魔法の単語を『火』の一つしか知らないからな。

 アメリカでハローしか喋れない日本人のようなものだ。応用も何もあったもんじゃない。


 え、これだけなら単純にマッチを買えば済むって?

 いいんだよ。俺は魔法が使いたかったんだ。


 「ほら、すごいぞ。魔法だ……あ、消えちゃった」


 「ほら、じゃないですよぅ。DP全部使っちゃってるじゃないですかぁぁっ!」


 「ん、まずかったのか?ぴったり買えたと思うんだけど」


 「まずいも何も初期投資どうするのですかぁ! 今、魔物や冒険者が攻めてきたらおしまいなのですよ。こ、こっちも防衛戦力として魔物を作らないと」

 

 「……ん、ちょっと待て。魔物が攻めてくると言ったか?」


 「い、言いましたよぅ」

 

 「もしかしてゲームとかに出てくるあれか。ゴブリンとかスライムとか」


 「ゲームが何か分からないけど。ゴブリンとかスライムはいるのですよ。特にゴブリンは洞窟に巣を構える事も多いですからね。ここなんか条件にぴったりだし、見つかったらすぐにターゲットにされますよぅ」


 「だったら任せておけ。俺が斬る。丁度村正さんの切れ味を試したかったところだ」


 「……ええええっ。マスターさんが直接戦うのですかっ? そんなの聞いたこと無いですよっ。普通はマスター産はダンジョンの奥で引きこもってどっしりと構えているものなのですよ。マスターさんが負けてしまえば全てが終わりですからね。だから、初期投資と言ったらマスターはセオリーとして自分が戦わないようにまずDPをありったけつぎ込んで配下を作るんですよぅ!」


 「そうだったのか。でも、もうポイント無いぞ」


 「後先考えないで使っちゃうからでしょおおおっ!」


 喉が痛いとさっき言っていたのにまた叫んでいる。

 大音量が変わらないただ一つのフェアリー。

 ここまで来ると流石にプロ根性としか思えないぞ。

 

 「流石、ツッコミ妖精リルリルだ」


 「だぁれがツッコミ妖精ですか! 私はダンジョンフェアリーです。神様に選ばれて派遣されてきた優秀なフェアリーなんですよ」


 「ああ、なるほど。正社員になれなかった自称優秀な派遣社員みたいなもん?」


 「何のことだか分かりませんが、今、そこはかとなく馬鹿にされた気がしました。しかし、こらえましょう。仕事は仕事です。神様から賜った大事なお仕事です。私の仕事はマスターさんのサポートなのですからね」


 「……ああ、頑張って。それより腹減った。飯にしない。この辺にどっか美味い食堂あったりする」


 「……こんな僻地にあるわけないでしょう……ああ、神様。リルリルはもう疲れました。何でリルリルの担当のダンジョンマスターはこんなにアホなんですかぁ? もう、フォローのしようがありませんよぅ」


 リルリルの羽はしなしなとしなびてしまった。心なしか光の鱗粉が少なくなった気がする。

 泣きべそを掻きながら恨みがましい目でこっちを見てくる。


 「ほら、元気出して光れ。洞窟が暗くなる」


 「……う、ううっ」


 「仕方ないな。ならこれでどうだ。泣きリルリルとかけましてーこの洞窟の中と解きます。その心は……どちらも暗い(Cry)です」


 うむ。ドシロウトが一瞬で作った謎かけにしては中々上出来じゃ無いだろうか。

 まぁまぁ面白い自信がある。さぁ笑え。

 と、自画自賛してみる。


 「……」


 リルリルの反応が無い。何故かこの世の終わりのような絶望した顔をしていらっしゃる。

 まだまだ俺の異世界生活は始まったばかりだというのに。


 ――グギャ。グギャギャッ。


 唐突に不気味な声が洞窟の中に響いた。


 「……そ、そんな。まさか。うわあああああんん。も、もうおしまいなのですよぅ」


 そしてその不気味な声に追従するようにリルリルの叫びがこだまする。


 「……何があった?」


 「あの声は多分、ゴブリンですよぅ」

 「……斬ってもいいのか?」


 「はい。でも……勝てればの話ですよぅ。マスターさんの世界は争いの無い平和な世界だと神様に聞きました。マスターさんの世界よりも危険なこの世界に住む人間でも鍛えでもしていない限りはまず魔物にまず勝ち目は無いのですよ」


 「……なら問題ないな。俺は不本意ながらそこそこオヤジに鍛えられているし。こう見えても古流剣術道場の跡取り息子なんだぜ」


 俺はそう言うと泣いているリルリルをひっつかんだ。


 「な、何をするのですか!」

 「ん、暗いからランタンの代わりにでもしようと思って」

 「……わ。私は光源じゃないですよぅ!」

 

 リルリルはわーわーと俺の手の中で喚いていたが、無視して先程不気味な声が聞こえてきた方へと駆けだした。


 石造りの通路をリルリルをかざして進む。

 角を一つ折れたところで俺は何者かの気配を感じ取って足を止めた。

 

 グギャッ!


 間の抜けたような驚いたような叫びが上がった。まさか先客が居るとは思わなかった。そんな反応だ。

 ま、ラッキーだ。そんなに隙だらけなら三回は殺せちまう。


 俺は邪魔なリルリルを投げ捨て片手を空ける。

 まぁ、飛べるから捨てても問題ないだろうとの判断だ。

 そのまま瞬時に間合いを詰める。

 相手は小学生ほどの背の高さで頭部だけがやたらとずんぐりとでかい。

 顔や体など細部などは見えないが、暗い中おおよそのシルエットは確認できた。

 さっきの不気味な声もそうだが、やはり人間じゃない。

 ……なら斬ってもいいんだよな。

 

 村正の柄に手をかけると、刃を滑らせるように鞘から抜き放った。

 そして、ただそれだけの動作で目の前のシルエットからポロリと首が落ちた。


 戦いにすらならなかったとはこういう事を言うのだろうな。

 それにしても村正さんマジチートだわ。

 振った感覚も羽のように軽いし、物を斬った感覚すら殆ど無かった。

 素振りしたのと変わらない感覚なのに斬れている。超すげぇ。 

 こりゃ、以前に俺がオヤジからくすねて練習用に振り回していたなまくら刀の比じゃないな。

 あれは重いばっかりで斬れない最悪な代物だった。

 帯刀状態から一気に抜刀して、空中にに放り投げたリンゴを真っ二つに斬る遊びもこの刀なら出来る気がする。


 「超楽勝!」


 「何が超楽勝ですかぁ! 人を明かり代わりに使って、挙げ句の果てには投げ捨てて!」


 「……いいだろ。おかげで窮地は乗り切ったんだぜ」


 「良くないですよぅ! DPが無かったら何も出来ないのですよ! ダンジョンの拡張も配下魔物の作成も全部です!」


 「……あ~、それは悪かったよ。でも流石に増やす方法はあるんだろ」


 「……一応、ありますよぅ。初期状態のコアならばダンジョンに設置すれば日に50DPは地下から吸い上げられます。方法はダンジョンコアを好きな位置に持ってきて『設置』と言うだけで完了します。もし空中にあった場合でも、空間に固定されるので手を離して落ちるって事はないですよ」


 「なんだ、方法あるじゃん」


 「……足りないんですよ。魔物を創る場合最低クラスでも100DPからです」


 「ああ、なるほど。でも、別に俺は配下の魔物はいらないぞ」

 

 「……い、いらないんですか。じゃ、じゃあ仮に魔物はいらないとしましょう。ですが、DPを使って当面の食料品を買うことも出来ます。ちなみに一日分の食材パックが50DPです。お分かりかも知れませんが、吸い上げたDPで食料を買った場合いつまで経っても増えません。なのでいつまで経ってもトラップなどの防衛設備が増やせません。ダンジョンの拡張も出来ません」

 

 「……ふぅん。よくわかんないけどダンジョンの拡張って必要なのか?」


 「はい。ダンジョンを地下に広げればその分地下エネルギーとの距離が近くなって、吸い上げ可能なDP量が増えます。一番最初にこれをやっておけば日に五十以上はDPを稼げてその分が利益になったんですよ。なのに、それを全部無駄使いしてしまうんですから!」


 リルリルさんはぷりぷりと怒っていらっしゃる。本当に感情豊かだなぁ。


 「……他にに方法無いの?」


 「……一応、ありますよ。ですがこれはダンジョンの本来の役割を逸脱した行為です。DPを使って物を作り出せますよね。その逆に物をDPに換えるのですよ」


 「へぇ、何でもいいのか。例えばそこに転がってる魔物の死骸とか?」


 「野生化していた個体とは言え魔物は本来ダンジョンで作り出される存在ですからね。還元率はそこそこ高いと思いますよ。ですが、その方法でDPを増やしても地下エネルギーは減らないのです。その点で見ればダンジョンマスターのお仕事を放棄しちゃっているとも言えるのです」

 

 「なるほど、よくわからんがDP増やす方法あるじゃないか! どうやればいいんだ?」


 「方法は二通りあります。まず、この洞窟を先程言った設置の手順でダンジョン化します。そうすればこの洞窟を介して内部の非生物は自在に吸収還元できるようになります。一応補足しますが生物は死んだ時点で物質扱いになります。生きた生物は吸収できないのでご注意を」


 「じゃあ、もう一つは?」


 「ダンジョンコアを翳して直接物質を吸収することです。尤も、ダンジョンコアは設置されていることが普通でこっちの手法は滅多に使われないのですが」


 「ほう、こうか?」


 俺が先程の魔物の死骸にダンジョンコアを翳してみると、死骸は光の粒子へと変化を始めた。

 ものの数秒で原型は無くなり光の玉となったそれは、そのまま俺の手の中のダンジョンコアへと吸い込まれていった。


 「んじゃ、早速『カタログ』」

 

 カタログの項目には25DPと表示されている。

 魔物の項目にある『ゴブリン』が100DPとあるから、還元率は四分の一って所かな?


 しかし、改めてカタログを見るとまだまだ欲しい物はいっぱいある。

 魔法ライセンスもそうだし、膨大なDPだが伝説の剣エクスカリバーなんかもそうだ。

 家や発電所。ゲーム機なんかも揃えれば以前と変わらない生活だって送れるかも知れない。

 むしろ、この世界には修行オタクのクソオヤジは居ないし、前よりものびのびとやれる可能性だってある。

 あのオヤジは俺を強い男にすると言い張っていつも無茶ぶりしかしないからな。

 自力でほどけないようにと手錠をされた挙げ句、油でひたひたになったロープを巻き付けられ更にの先端に火を付けて、焼け焦げたくなければ死ぬ気で町内一周してこいと言ってきたり、命綱無しで断崖を上らされたり。修羅場を経験してこいと、ヤから始まってザで終わる三文字の組織の事務所に放り込まれたり。病気に負けないように強くなれとと真冬に半袖短パン1枚で過ごさせてきたりとほんと無茶苦茶だった。

 そんな非常識かつ非科学的な修行に、毎日とってつけたような腹筋スクワットを朝昼晩千回づつの三セット。おまけにランニング三十キロ。素振り三千本。

 そんな俺の修行風景をオヤジはいつも楽しそうに見ていて、少しでも手を抜いたりサボろうとすれば真剣抜いて追って来るからな。端から見たら虐待だぞ。

 更にあのオヤジが非常識なのは自分も俺と同じメニューをこなすことなんだよな。簡単だろと言わんばかりに涼しい顔でさ。

 拒否すればゲーム機を取り上げられるし、俺はオヤジには物理的に勝てないので泣く泣く修行に従うしか無かったわけだ。

 この世界の住人が魔物に対抗するべく、どれくらい自主鍛錬しているのかは知らないが流石に俺は修行量で負けてないと思うんだよな。

 あの化け物みたいなオヤジと真剣で毎日と斬り合いをしなくていいのならばこの世界で生きる方がきっと楽しいはずだ。

 唯一の気がかりは俺の家が父と子一人の父子家庭な事だが、殺しても死なないような親父だし、まぁ放置でもいいだろう。きっと一人でもたくましく生きるに違いない。

 

 と、なれば俺がするべき事はDP稼ぎだ。

 魔物を狩ればDPを稼げることも判明している。


 ならば、やることは一つじゃないか!


 俺はこの暗~いジメジメ洞窟とオサラバして外に魔物狩りに行くのだ。

 そうと決まれば、ジャージの上着ポケットの中にダンジョンコアを無造作にぐいと押し込んでから俺はリルリルへと聞いた。


 「出口ってどっちだ?」


 「……あっちですよ。この洞窟は一本道なので迷うことは無いと思います」


 俺はリルリルが指さした方へと歩き始めた。

 

 「あ、ま、待ってくださいよぅ。そっちに行ったら『外』にでちゃいますよぅ」


 「……そりゃ、俺は外に出るんだからな!」


 「ま、マスターさん。待ってくださいよぅ。この洞窟から出たら神様から頂いたお仕事を放棄することになっちゃいますよぅ」


 「いいか、リルリル。俺はダンジョンマスターとして穴蔵に引きこもる気も無ければダンジョンマスターになる気も無い。だから俺の事はマスターではなく名前で呼べ。いいか、俺の名前は龍宮衛虎りゅうぐう えとらだ。いずれこの世界の遺伝説になる男の名前だ。覚えておけよ」


 「えっと、エトラさん。これでよろしいですか?」 


 「おう! じゃあいくか。俺の冒険の始まりだ!」

 「始めないで下さいよぅ!!」


 ――洞窟を抜けると新鮮な空気を風が運んできた。

 まるで、新たな旅立ちを風が祝福してくれているようだ。

 

 リルリルが未だぶつくさと言ってはいるが、こうして俺の異世界冒険生活が幕を開けた。


タイトルのつけ方は某ライトノベルのまんまパクリです。ごめんなさい。多分内容までは被ってないと思います。

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