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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

山の手伝い

作者: 千月

俺は小学生の頃、よく夏休みを利用して祖父の家に遊びに行っていた。

その年も、挨拶もそこそこに祖父自慢の裏山をクワガタを求めて駆け上がった。

母はそんな俺を咎めたが、俺は振り返りもせず走った。

ここのクワガタはとにかく大きい。東京のペットショップの比ではない。

大物を狙って奥へ奥へと進む。


慣れた足取りで山を登っていると、何か異様な臭いが漂ってきた。

一歩一歩登るにつれて臭いが濃くなってくる。

朝飯に食べたジャムパンを、地面に食わせることになりそうなくらい。

しかし、ここまで来て引き返すという選択肢は、この頃の俺には存在していなかった。

ただひたすらに、クワガタのために。

鼻を摘まんで歩き続けた。


しばらく歩いて目に留まったのは、細い獣道。

これだけ臭いが強いなら、クワガタも集まっているかもしれない。そんな安易な考えだった。

大きいクワガタをゲットできれば、夏の間街のヒーローだ。

デパートの弱っちぃのとはわけが違う、天然のノコギリクワガタやミヤマクワガタ。

背に腹は代えられない。

俺は構わず進んだ。

前へ、前へ、前へ。

「うわっ」

いきなり開けた場所に出たと思ったら、俺の視界に謎の物体が飛び込んで来た。

何かある…いや、いる?

怖いながらも好奇心が上回り、近づいてみた。

白い塊だ。木からミノムシのように垂れ下がっている。

大きさは1メートル半くらい。

白いものは毛のようで、木漏れ日に反射してテラテラと光っている。

質感は、なんだかぶよぶよの肉といったかんじだ。

どうやら臭いの発生源はこれのようだ。

モゾッ

「うわぁ!!」

塊が動いた。

俺は驚き、飛び退いた。

大声を上げて刺激したからか、塊の表面は風邪もないのに波打ち始めた。

今まで生きてきてこんなものは見たことも聞いたこともない。

言い知れぬ恐怖を感じた俺は、一目散に来た道を引き返した。

「なんだよあれ、なんだよあれ! なんなんだよあれ!!!」


逃げ帰った俺は、祖父に今起こったことを話した。

「山にデカくて白いミノムシみたいなのがいた!」

少年の語彙力は乏しい。

だが、祖父はその拙い説明で全てを察したのか、どこかに電話をかけた。

電話のボタンは3回しか押さなかった。それが意味するのは最悪の結末だった。


程なくして制服の警察官が祖父の家を訪ねて来た。

俺は警察官にあの白い塊のところまで案内を頼まれたが、祖父に場所だけ伝えて、行かなかった。

当然だ。あんな気持ち悪いもの、もう二度と見たくない。

俺は祖父と警察官を玄関まで見送ると、祖母に抱きついて情けなく泣いた。


しばらくして警察官と一緒に帰って来た祖父は

「あれは山のお手伝いさんだ。生き物が山にかえる手伝いをしてるんだ。」

と言った。

その後、たまにあることなんだよ、と祖父は寂しそうに洩らした。

しかし、それ以上のことは教えてくれなかった。


それから数年後、俺はだんだんと祖父の家に近づかなくなっていた頃、母からあの塊は奥さんに逃げられて自殺した向かいのおじさんだと聞かされた。

捜索願は出されていたが一向に見つからず、死後数週間が経っていたらしい。

本当は薄々わかっていたさ。

長時間ロープで吊されていた遺体、それにまとわりつく白いもの、山にかえる手伝い。これら3つから導き出されるのは…



そういう…ことだよな?

あれは…奴じゃなくて、奴らだったんだ。

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