最終章
1章から9章までの、長編分割投稿です!
文字数は、ライトノベルの文庫本、約一冊分。
今作の更新日については、毎日一章ずつとなっております。
『2月14日(火)~2月22日(水)』
章ごとに、文字数のバラツキがあります。
また、全体で未熟な部分がございますが、その点を合わせ、ご了承を願います。
覚悟を決めたクラルスは、ブラッドから列車のブレーキを掛ける方法を教えてもらった。そして、
「クラルスお姉様……」
「大丈夫だよ、ユーちゃん。だから、待ってて」
食堂車と四号車のあいだ。
二人の少女は、そこで再会の約束を交わしていた。
「やっぱり、あたしも行かせてください!」
「ダメ、これはわたしとダンの問題なの」
「でも、もしもお姉様に何かあれば――」
「だったらわたしも同じ気持ち。ユーちゃんにもしものことがあれば、わたしはすごく悲しいよ」
「……」
唇を尖らせ、幼子のように不服を表わすユリア。
そんな年下の彼女に、クラルスは安心させるように和やかに微笑んで頭を撫でてやる。
「だから、わたしたちが無事に戻ってくることを祈ってて。一緒に来ちゃったら、誰がわたしとダンを祈っててくれるの?」
「……」
「お願い、ユーちゃん」
「……わかりました」
ユリアはそう言いながらもどこか納得できないような声色で答えると、軽く俯き、自身のカバンからあるものを取り出した。
「だけど、これだけは持っていてください。お守りとして」
そう言ってユリアが差し出したのは、魔石銃アントン。
一度、ユリアの身を守った銃だ、
手渡されたそれにクラルスはしっかりと目を見てお礼を告げる。
「ありがとう、ユーちゃん。大事に使うから」
見つめられた彼女は、じわっと瞳に輝くものを溜めた。
「……大事にしなくてもいいです。だから、絶対に帰ってきてください……」
「最初っからそのつもりだよ、安心して、ユーちゃん」
泣きじゃくるユリアの肩を寄せ、よしよしと母親のようになだめる。そして、
「頑張ってください、クラルスお姉様」
目を真っ赤にさせながら、ユリアはクラルスの背を見届け、別れを済ませるのを確認したブラッドが連結扉を閉めた。
ガゴン、と重厚な音がすると、徐々に食堂車と四号車は暗い闇夜に離れて行く。
連結を外したのだ。
「……」
明かりの無い深い闇。
音は寂しく、人の気配も感じない。
それはまるで、背筋を爪でかき立てるかのような感触。
クラルスは目に捉えられない、無慈悲な存在に纏わり付かれながらも、血に濡れた廊下を踏みしめた。
「ダン……待ってて」
彼女が持つものは、ユリアから預かったアントンと、自分が作成した薬品数種。
彼女の本心を言ってしまえば、今すぐここから逃げ出したい。
ダンを想う気持ちはあれど、それと自らの命が脅かされる感覚はまた別だ。
足は鉛でも入っているかのようにすくみ、心臓は不自然なくらいにざわつき、脳みそは不吉なビジョンをひっきりなしに流す。
それでも前に進めるのは、引き返すことができない強制力が、クラルスにあるからだ。
「大丈夫……わたしならやれる、ダンを見つけられる……」
クラルスはかさつきはじめた唇を微かに動かし、自分を鼓舞する。
そしてようやく、ダンが向かったと思われる車両へと辿りついた。
「話によると、とっても強い人がここを通れないようにしていたとか……」
真っ直ぐに続く廊下を、彼女はジィッと観察する。
「また血……どうして、こんなことをするの……?」
壁や敷き詰められたカーペットに付着した血痕。
医療に関する魔法研究を行っているクラルスは直視することはできるが、気分が良いものではない。
その痕に目を背けたい気持ちに駆られながらも、彼女はダンの手がかりを探すためそれを追う。そしてふと、ある違和感を覚える。
「扉の周辺の方が濃い……それに、ドアノブが……」
客室に出入りするための扉の足下は、不自然なほどカーペットが変色し、ドアノブにはべっとりとした血が付いていた。
「……」
中に入ったらどんな光景が広がっているのか、考えたくもない。
それでも、彼女はその真偽を知るため、ノブを回した。
「……ッ!」
血まみれになった、二つの遺体。
治療を施した警備の男性よりもその姿は凄惨で、顔を確認すると、クラルスは目を逸らして扉を閉めた。
「大丈夫だから……それに、これくらいで折れてたら、ダメ……」
手の甲で額を抑え、言葉を口にすることで喉元まで上ってきた吐き気を発散する。
そうでもしなければ今頃、彼女は倒れこんでいたことだろう。
(しっかりしなきゃ……)
早くも心が負かされそうになりながらも、クラルスは足を前へと進めると、壊れた扉が視界に映り込む。
「ここだけ扉が……どうして?」
グッと、クラルスはユリアからお守り代わりとして受け取ったアントンを両手で握り締め、恐る恐る半身だけで薄暗い部屋を覗くと、そこには……、
「ダン!」
床に血まみれで倒れるダン。
クラルスは周りに目を配ること無く、彼に駆け寄り両膝を付く。
「ダン! 起きて、起きてよ!」
再会できた喜びと、力無く倒れる姿に、彼女はただ無意識に肩を揺すって呼びかけた。
それでも目を覚ます気配は無く、クラルスは思い出したかのようにそっと彼の首筋に手を添えた。
「脈はある、よかった……」
安堵の笑みが堪らずこぼれる。
しかし、すぐそれはある人物の声で打ち砕かれた。
「――やあ、クラルス君」
「っっっ!? コレット……先生?」
声に反応して振り返ると、そこには彼女の恩師である、コレット・グランドフットが立っていた。
「どうして、あなたが……? それに、なんでこの車両に……」
突然の再会に、瞳孔を開き、困惑するクラルス。
「ふふっ、君なら訊かなくてもわかっているはずだが?」
そんな彼女の問いをあざ笑うコレット。
その表情の上には、優しかった恩師の面影は無かった。
それでも信じることができないクラルスは、否定的な要因を彼にぶつける。
「でも、わたしたちの方が先に出発したはずです。なのに、先生がこの列車に乗り込むことなんて……」
「郵便列車に忍び込んだのさ。そこのベッドに寝ている、エレナ君と一緒にね」
「えっ……」
ベッドを血で濡らし横たわる、艶やかなブロンドの髪をした少女。
残酷なことに、彼女の姿からはまったく生気が感じられず、すでに絶命していることが一目で理解できてしまった。
「エレナ……エレナ! こんなの、こんなの嘘でしょっ!」
一度抜けた力を、振り絞るような悲鳴。
冷たくなったエレナに寄り添うクラルスは、こらえていた涙を洪水のように溢れさせ、むせび泣く。
そんな悲しみに打ちひしがれる彼女に、コレットはただ無情な事実を告げた。
「私も悲しい気持ちは同じだ。だが、必要な犠牲だったんだ……マリンを生き返らせるためにはね」
「何を、言っているの……?」
クラルスは振り返り、涙でにじむ瞳でコレットを見つめる。
「言葉通りさ」
「言葉通りって、死者を生き返らせることなんて、できこっ――」
「できるんだよ。君の、クラルス君の身体があればね」
「わたしの身体で……?」
「ああ。簡単さ、なにせ――」
そしてコレットは、彼女に語った。
記憶をいじり、姿をいじり、亡くなったマリンの、面影を取り戻すという、他人をかえりみないような、盲目的な計画を。
「――理解、してくれたかい?」
人好きするような、優しげな笑みで訊いてくるコレット。
「理解……? そんなのできるわけがありませんっ!」
普段温厚な性格であるクラルスは、嫌悪と軽蔑を持って、恩師を……恩師の姿をした、悪魔に怒りをぶつけた。
「ほう、どこか不服な点が?」
それでも彼は動じることなく首を傾げ、意見を求めてくる。
クラルスはその返しに、今度は怒りではなく吐き気を催すような気持ち悪さを覚えていた。
「不服な点って、コレット先生は根本的に間違っています。先生がしようとしているのは、亡くなったマリン先生を蔑ろにする、最低な考えです」
真っ向から否定するような言葉を投げかけられたコレットは、浮かべていた柔和な笑みをガラリと崩し、無言のままクラルスに近寄ると、無言のまま彼女の頬を叩いた。
「きゃっ!」
「……口を慎め」
クラルスが手にする魔石銃はベッドの足に滑り込み、クラルスは床に倒れる。
そんな彼女を、彼は教師とは思えない、愛情も信頼もない、ただ怒りに燃えた瞳で見下す。
「傷や記憶を消すのは簡単だが、私も妻となる身体をわざわざ傷つけたくはないんだ。わかってくれるね、クラルス」
そして吐き出されるのは、私利私欲にまみれたセリフ。
固い信頼に結ばれていたクラルスとコレットの絆は、暴力と短い言の葉で、容易くも崩れていった。
「そんな……コレット、先生……」
絶対なる信頼と、辛い過去を乗り越えるための要因、そしてわずかながらも、女性としての好意を抱いていたクラルスにとって、その決別の言葉は心に大きな亀裂を作った。
(どうして……? どうして……先生……?)
それに加え、目を覚まさない想い人と親友の死は、傷づいた彼女を壊すには十分すぎるほどだ。
頭をもたげ、ぐったりと座り込んだ彼女の腕を、コレットはニコニコ笑顔で掴み弾んだ声で告げる。
「いい具合に、雨も止んだ。さあ、帰ろうか我が家に」
無理やり立ち上がらせようと、腕に力を込める、その時だった。
「――バカを言ってんじゃねぇよ、コレット」
乱暴、粗暴な声。
「……本当に君は、興味深いことをしてくれるね――ダン君」
クラルスの腕を掴んでいたコレットはパッと手を離し、声の主、のっそりと窓のふちに手を遣りながら立ち上がるダンを、笑顔で迎えた。
「けっ、笑わせんな。てめぇを殺すのが惜しくなるだろ」
「殺す? 君が、私をかい? くくっ、面白いジョークを教えた覚えは、私にはないぞ」
「本心で言っているのが、わからないのか? 頭のイカレタ魔研者は、これだから困るぜ」
「……ダン?」
その人を小馬鹿にした物言いを聞いたクラルスは、俯いていた顔を持ち上げ、生気が感じられなかった瞳に一縷の輝きが灯る。
「クラルス……約束を破ってすまねぇ」
赤く腫れた彼女の頬を目にしたダンは、申し訳なさそうに目を伏せ謝罪を口にする。そして、
「それでも……それでもまだ、俺のことを信じてくれ! 格好と口が悪くて、戦うことしかできない、クソ不器用な俺を!」
「――ッ!」
か弱かった少女の瞳に、強い光が灯る。
裏切られ、生きる目的の全てを失いかけたクラルスの心に、新しく生まれた、信じる気持ち。
そばでそんなやり取りを見せられたコレットは、初めて不機嫌に歯ぎしりをし、血まみれのダンを睨み付ける。
「死にぞこないめ。だが、どうやって助かった? 私の毒で君は……いや、待てよ」
そう言って、コレットは何かを思い出すかのように顎髭を撫でる。
「……もしや昔、私が君に施した治療……それが毒物に反応して、君を助けたとでも言うのか!?」
「さあな。魔法学に関してはさっぱりなんだ。ただまあ、例え全身に鉛玉をぶち込まれようが、はらわたを抉られようが、うかうかと寝てるわけにはいかないんだ。俺はクラルスを守るって、約束したからな」
「君も、あのときの貴族どものように、私の野望を砕くというのか?」
「クズ野郎どもと一緒にするんじゃねぇよ。俺は、俺のために戦う」
「それが同じだと言うんだ。奴らは私利私欲のため私たちの家を焼き、妻を、子供たちを嬲った。奪われたみんなを取り戻したくはないのか、ダン君はっ!」
コレットの本心。
彼が変わってしまうきっかけとなった、根本となる過去。
話を正面から投げかけられたダンは、当時の痛ましい光景を思い出し、業火のように煮え切った想いに駆られるも、それに囚われず、自分が出した答えを口にする。
「そんなこと、俺は一度も考えたことはねぇ。俺は守りたいだけだ、今の、大切な時間を」
「ダン君……どうやら、私と君の意見は、相容れないようだ。これが人を変える、時間と言うものなのか」
コレットは頭を横に振り、悲しむよう額に手を当てた。
「さあ、どうだろうな」
対して、ダンは血で汚れたコートを薄笑みを浮かべ脱ぎ捨てると、腰に提げたダガーを引き抜く。
「まあいいさ、君がいくら強くても、私がこれまで築き上げてきた魔法研究の真髄に、敵うわけがない」
そう口走ると、コレットはニィッと不気味に笑って指を鳴らす。すると、
「キシャァアアアアアア!」
「なんだ!?」
ダンの背後、窓ガラスを叩き割って飛び込んできた、全身が赤い筋に覆われた、人型の怪物。
「君は殺されるんだ。私が作り出した、怪物にね」
「キシャァアアアアアア!」
「くそっ、離しやがれ!」
中に侵入してきた赤い怪物は、不意を衝いたダンの背中に引っ付き、刃物のように鋭い爪で肩をひっかいた。
「がはぁっ!」
「ダンっ!」
「くくっ! そいつは人と魔力石を合成した、鋼以上の硬度を持った生物兵器だ。運よく私の毒から逃れられたとしても、君もこれで終わりだ」
腕を広げ、高笑うコレット。
ダンは諦めず、手に握るダガーを、自分自身を貫く勢いで怪物に刃を立てた。が、高高度の硬さを持つ怪物の赤い肌に阻まれる。
「チクショウ……」
「無意味だよ、ダン君。並みの武器で倒せるほど、柔ではない」
「並みの……?」
そのフレーズを耳にしたクラルスは、はたかれた拍子に床に落としていた魔石銃、アントンを見つめる。
(この武器なら、あの怪物にもダメージを与えられるかもしれない……っ!)
クラルスは力が抜けた身体に力を込め、這うようにして銃を取ろうとするが、
「どこに行こうというのかね、クラルス君?」
「っ! は、離して!」
コレットの足元から離れようとしたクラルスは彼に腕を掴まれ、柔和な笑みのまま問い掛けられた。
「逃げよう、なんてことは考えない方がいい。次は君の腕を、へし折ってしまうかもしれない」
掴まれた腕に力を込められ、クラルスは額にしわを寄せた。
しかし、このままダンを助けなければ、記憶も身体も違う、別のものになってしまう。そんなこと、死んだも同然だ。
ギリッと、クラルスは奥歯を悔しげに噛みしめると、目を細めてコレットを睨む。
「離してください、先生!」
「面と向かって、自分の意見を口にするのは良いことだ。だが、それは時と場合による」
そして彼はまた、クラルスに向かって手を上げようと振り被った瞬間、
「クラルスに触るんじゃねぇ!」
ダンは背中に纏わり付く赤肌の怪物を抑えながら、コレットが構えた腕に向かってダガーを投げ付けた。
「痛っ!」
赤い雫が宙を舞い、コレットの腕からはポツリポツリと血が流れる。
「ふぅ……やってくれます、ね」
傷を負った彼は痛みを和らげるよう、深くを息を吐きながら傷を圧迫。
その隙に、クラルスは転がるようにしてベッドの足下に近づき、アントンを掴んだ。
「ダンっ! これを受け取って!」
「っ! こいつは!」
放られたアントンを掴んだダンは、ただ引き金に指を掛け、怪物の横腹に銃口を押し付け、
「くたばりやがれっ!」
「ピキャッ!」
赤い肌の怪物はバンザイの格好で吹き飛ばされ、ダンの指は反動によって若干赤く腫れていた。
そして弾丸を放ったアントンもまた、自身の役目を果たしたかのように部屋の隅へと跳ねた。
「……クソ、まだ生きてんのかよ」
怪物はひっくり返った四肢をゆっくりとした動作で持ち上げると、目鼻は無いのっぺらの顔をダンに向ける。
「キシャァアアア……」
しかし、その声には力は感じられず、動けないほどでは無いが、弱っていることは確かにわかった。
「……オーケー。んなら、付き合ってやる」
拳を握り締め、ファイティングポーズを取るダン。
「えっ、ダン……?」
「何をするつもりだ、ダン君……?」
その姿に、味方のクラルスはもちろん、敵であるコレットまでが疑問の声を上げた。
「俺が一番得意なやり方をするだけだ。銃とか魔法とか、意味がわかんねぇもんじゃない、俺のやり方を、な」
そう言い切ると、赤い肌の怪物は叫び声を上げてダンに飛びかかる。
彼は回転するように右足を一歩後ろに引き、後ろ回し蹴りのカウンターを怪物の頭部にぶち込んだ。
怪物は割れた窓辺へと引っかかり、上半身だけが外に投げ出される。
それでもまだ健在のようで、怪物はガラス片を腰に食い込ませながらも立ち上がり、ダンと対峙。
「良い根性だ」
ダンは不敵に笑うと、真っ直ぐ凝視しながら歩み寄る。
近づこうとする彼に、赤い肌の怪物は唸り声を漏らし力尽くで押さえ込もうと急接近。
そんな相手を、ダンは真っ向から受け止め怪物の爪のあいだに自身の指を食い込ませ、足を踏ん張らせ、力の限り押す。そして、
「オラァアアアアアア!」
獣のように、力強い雄叫びを上げると、ダンは一気に全身の力で怪物を窓の外へと押し出した。
「キシャッ!?」
高速で走る列車の風は、冷たく強い。
そんな外気を感じながら、ダンは清々しく笑う。
「これで終いだ」
グッと掴んでいた怪物の手を離し、ダンは列車の外へ落とした。
怪物にとどめを刺したダンは、クルッと踵を返すと、コレットを見つめて愉快に笑う。
「待たせたな、コレット」
「馬鹿な……。こんな、こんなことが、ありえるのか……?」
その笑みに、命の危機を覚えたコレットはじわりじわりと後退り。その際、エレナが使っていたナイフを踏んづけた。
コレットは咄嗟にそれを拾い上げ、切っ先をダンに向ける。
「まだだ、まだ私の計画は終わっていない!」
「終わったよ、お前を守るものはもういない。全部、お前が捨てたんだからな」
「ぬかすな! 私が生きている限り、終わりなどありえないっ!」
焦りで目を見開き、肩を上下させながらコレットは感情のまま怒鳴った。
瞳には泥のように濁った輝きを持ち、温厚だった彼の面影はすでになくなっていた。
ダンはその豹変ぶりを見て、わずかに心を痛めるも、すぅーと息を吸って想いを吐き出す。
「……これは、欲望に駆られたコレット・グランドフットではなく、俺たちの恩師である、コレット・グランドフット先生に聞きたい」
そしてダンは、床に落としていたコートの裏からマチェテを引き抜き、コレットを目付き悪く見つめた。
「先生、心とは自分自身の本当の姿だ、って言っていたが、マリン先生を蘇らせるその計画は、心から成し遂げようとしていることなのか? エレナを殺しても、クラルスを犠牲にしても、無関係な奴らを巻き込んででも、叶えたいことなのか?」
「そうだ。マリンを生き返らせるためなら、私はどんなことだってやる」
その答えに、ダンは「はっ……」と嘲笑したかのように笑い、感謝の言葉を口にする。
「ありがとうございます、コレット先生。それを最後に聞けて、よかったよ」
「どういう意味だ?」
コレットは不服げに眉をひそめ疑問をぶつけるも、ダンはお構いなしに彼に駆け寄り、マチェテで心臓をひと突きした。
「けはぁっ……」
口からしたたる血。
反応してコレットも防ごうとしたが、武術を嗜んでいるわけではない彼が、それを防ぐことはできなかった。
だがそれでも、彼の手はダンの腕を力強く、憎しみを込めて握り締めていた。
「……これが、答えだ」
ダンは目を伏せ、コレットが掴むナイフをはたき落としてから、膝を折らせて座らせる。
「コレット先生は、俺の心――正しいと思ったことを行う、素直さと行動力を褒めてくれた。だから、言葉よりも先に、先生を真っ先に止めてやりたかった」
「……」
「もう、見ていられなかったんだ。憎しみと欲望に溺れて、誰かを傷付ける先生の姿を」
ダンは静かにそう語るも、コレットからの返事は無い。
彼はマチェテをゆっくりと引き抜くと、コレットは力無く床に倒れ込んだ。
黙っていたクラルスも、その光景にそっと目を伏せた。
※
その後、二人は列車を無事に止めることができ、脱出することに成功した。
通報を受けた地元警察がコレット、エレナ、そして傭兵たちの身元を確認し、事件は解決した。
ダンとクラルスも互いに和解し、そして……。
「はぁ……緊張する」
白衣を羽織ったクラルスが、ペラペラと書類をめくりながらため息を吐いた。
場所は魔法学校の講堂控え室。
この日は、クラルスが研究した『万能薬』についての研究発表日だった。
「大丈夫です、お姉様! 絶対上手くいきます!」
簡素な椅子と机だけが置かれたそこで、トレードマークであるハンチング帽を手にしたユリアが、彼女を応援する。
そして行儀悪く机に座る、ワイシャツ姿のダンは、
「チキンかよ、お前は」
口の悪さを平然と披露していた。
「ちょっ! 人がこんなに緊張してるのに、そんなこと言わなくてもいいでしょ!」
カチン、と頭にきたクラルスは、ダンに向かってワーワーと喚き、それを目にしたダンとユリアはクスッと笑う。
「いいじゃねぇか。いつもみたいに、そんな感じにいけよ」
「はい、元気があるお姉様の方が、断然カッコいいです!」
「ユーちゃんまで……はぁ」
二人からの言葉に、クラルスは肩でため息を吐いた。
「緊張、取れただろ?」
「はいはい、ありがとうございます」
どこか誇らしげに言うダンに、クラルスは流すように返事をすると、スッと、行動へと繋がる扉を目に映した。
「失敗してべそを掻いたときは、俺が慰めてやるよ」
「し、しなくていいし、そんなの!」
クラルスは、ボッと顔を赤くして、ダンの言葉を一蹴した。
二人は列車から降りた後、約束を交わした。
この先ずっと、共に生きることを。
色々と課題があり、まだ恋人らしいことはしていないが、二人は恋人となったのだ。
クラルスは熱くなった自分の胸にそっと手を当て、息を吐くと力が籠った声で、告げる。
「それじゃあ、行ってくるね」
「ああ、行ってこい」
「頑張ってください、クラルスお姉様!」
ダンとユリアもそれに応えるよう、彼女の背に声援を送り、彼女は歩き出した。
辛い想いを越え、前へと。
完
最終章までお読みいただき、ありがとうございました!
全九章、いかがでしたか?
今作品を読み、読者様の一人ひとりが、カッコ良かった、面白かった、つまらなかったなど、色々な感情と感想を抱いて頂けたなら、幸いです。
最後となりますが、日にちで数えると、九日間……。
初投稿日から読んでくださった読者の皆様、空いている時間で読んでくださった皆様。そして、投稿から時間が経ちながらも、この作品を楽しんで読んでくださった読者の皆様、最後までお付き合いしていただき、ありがとうございました!
●登場キャラクター名
=ダン
=クラルス・ブリュック
=エレナ・スリンガー
=コレット・グランドフット
=ユリア・ウェルベル
=ブラッド・スピリッツ
=リカルド・シーケンス
=ジャック
=マリン・グランドフット
=マイク・ウォーター




