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第2話 「生活の為に」

ー「軍で妹の手伝いをしてくれませんか? 」

「...へ? 」

 あまりにも突拍子も無いお願いに、二人の間に暫くの沈黙が訪れる。

 馬鹿な俺の聞き間違えであってくれ。というよりそうでないと困る。

「それは、俺にオルセニア軍に入れって事じゃないよな? 」

「いえ、そのつもりで言いましたけど...? 」

「oh... 」

 俺の一抹の希望をばっさりと両断してくるメルナ。

 本気で言っているのかどうかは別として、俺にも俺なりの反対する事情というものはある。

 まず、大前提として、いくら国を滅ぼされたとは言え俺は元々パルテミアの軍人だ。

 パルテミアを滅ぼした張本人であるオルセニア軍に入るのは、気分のいいものでは無い。

 さらに、パルテミア人の黒髪、黒目という特徴は他の国に行くととにかく目立つ。

 オルセニア軍の中にはパルテミアに友人を殺された奴もいるだろう。

 たとえ、戦争だから仕方なかったとしても、俺はそいつらにどうやって接すればいいのだろう?

 考えるだけ無駄だ。面倒臭いことになるのは確実。

 とりあえず、俺が軍人には触れずに、メルナの願いをやんわりと断る方向でいこう。そうしよう。

「あのなぁ、俺はパルテミア人だぞ? 」

「はい、その特徴的な黒髪と黒目を見れば、分かります。 それが如何しましたか? 」

 そんな事はとうにわかっているといった風に、メルナは答える。

「先日、パルテミアとオルセニアは戦争をしていたんだろ?

パルテミア人に友達やら家族やらを殺されて、パルテミア人を恨んでる奴らもいるんじゃないか? 」

「まあ、多少なりは居るでしょうが、パルテミアは共和国です。

パルテミアは三日前にオルセニアの一部ですし、昔にも同じような事があったので最終的には大丈夫だとは思います」

最終的にはとはなんだ、最終的にはとは。

「でも元々敵国の国民だった人を、そうやすやすと軍には入れてはくれないだろう?」

 すると、メルナは胸を張る。

 胸はあまりあるわけではないので、目のやり場に困る事は無かったが。

「私、こう見えても軍の中では結構偉いんですよ。いざとなったら実力行使で認めさせれば良いですしね」

「いや、そこまではしなくても良いんだが... 」

「じゃあ、妹の手伝いをしてくれるんですね! 」

 こいつの言動は極端すぎる。天才っていうのはいつもこうなのか...?

「いや、ちょっ...ほ、ほら俺には仕事があるし」

 

「先日、国が滅びたんじゃ無いんですか? 」

「あー、それはだな、俺は結構国外の仕事も受け付けてたから、仕事自体はまだする事は出来るんだよ」

「なら、今すぐ全ての仕事をキャンセルしてうちの軍に入りましょうよ。絶対そっちの方が給料高いですし、怪我をした時も手当が出たり、高等な回復魔法を受けれたりもしますよ」

「何故そうなる... 」

「しかも、今貴方は一文無しどころか、何も持っていないホームレスなんですよ?

いくら仕事があるとはいえ、どうやってそれをこなすつもりなんですか?

軍に入れば、そこのところは全て解決しますし、寮に入るのが嫌っていうなら、うちにも泊めてあげてもいいですよ」

「...それはそうだが」

 なかなかメルナを丸め込む事ができず、一方的に願いとやらを押し付けられている気がしないでもない。

 まあ、相手の感情を無視さえすれば、言っていることは正しい。

 例え何かしらの条件があったとしても、軍人になれる、というのはその国の民衆の憧れの的であるし、給料も一般人の平均と比べてかなりいいはずだ。

 一文無し、ホームレスの危機に瀕している俺には、願ったり叶ったりなわけだ。

 これはもうお手上げだ。

 国が滅びていることがほぼ確定的な以上、今後も生きていくためには、軍に入るしかない。

 どの道選択肢は元より無かったのだが。

 今後も生きるか無駄に野たれ死ぬかを問われれば、自殺志願者でもない限りは前者を選択するだろう。

 しかし、このまま素直に軍に入るというのは、メルナの手のひらの上で踊らされて居る気がして、なんだか癪に触る。

 なんとか一矢報いなければ。

「一つ聞きたい事がある」

「なんでしょう? 知っている事ならばなんでもお答えしますよ」

 魅惑的な、と言うより子供っぽい、可愛らしい笑顔で、メルナは答える。

「パルテミアの全ての元国民は、オルセニアに居るのか? 」

「軍の将官のような高官では無い限り、処刑される事は無かったはずですが」

 その答えに「そうか」とだけ俺は応える。つまり、はぐれた元仲間と再開する事が出来るかもしれない。

 確率は低いだろうが、試してみる価値はある。

 その事を確認し、俺は決意した。

「よし、じゃあ軍に入って、その妹の手伝いとやらをやってやるよ」

「本当ですか? 有難うございます!」

「だが、一つだけ条件がある」

「条件...ですか? 」

「妹の手伝いとやらが終わったら、俺はお前との関係を捨てて、金を持ってここを離れるかもしれん。それでもいいか? 」

「全然大丈夫ですよ。その時はその時でなんとかします」

 まるで動揺していないかのような表情に、逆にこっちがうろたえる。

「言ったな? その通りにしてもらうぞ? 」

「なんとかするって言ったの聞こえませんでした? 」

「よし、契約成立だ」

 

「ところで、お前の両親は何処に居るんだ? 部屋を貸してもらうのなら挨拶ぐらいしておかないと...」

「安心してください。両親は三年前に他界して、今この屋敷に居るのは数人のメイドと私と妹ぐらいなものです」

「お、おう。そりゃあ良かった...のか? 」

 今、とんでもない地雷を踏み抜いた気がしたが、本人は気にしていないようなのでOK...なのか?

「部屋はこのままでいいですか? 」

 メルナはなおも俺を気遣う。

「ああ、大丈夫だ」

「良かったです。そうだ、後で妹を紹介しますね。可愛い妹なんですが、あまり人前に出るのを嫌うんですよ」

「俺も挨拶したいと思ってたところだ。そうしてくれるとありがたい」

「それと明日行われる、入隊試験の勉強もしないといけませんね。見たところ体力はありそうですから、頭の方を重点的にしないといけないんですかね? 」

 何か久しぶりに聞いたような言葉があった気がしたが、気のせいだろうか。

「すまん、もう一度言ってくれるか? 」

「いや、明日行われる入隊試験の勉強をしないといけませんね。と言っただけですが」

 俺は他の誰かがいないか辺りを見回す。

 しかし、俺の期待もむなしく、この部屋にはメルナと俺の二人しかいない。

「俺...だよな? 」

「軍に入るんだからそれくらいの事はしてもらわないと」

「でもさっき権力でどうこうとか言ってなかったか? 」

「軍の規則に何でも融通が聞くと思ったら大間違いですよ? 流石に入隊試験を行う事まではどうこうできません。

それと、入隊できなければ勿論さっきの話は無かったことにするので、宜しくお願いしますね」

「推薦も無いのか... 」

 試験勉強って一日徹夜しただけでなんとかなるもんだっけか...?

 ちょっと考えただけで頭が痛い。

 ずっと笑顔でいるメルナを見るていると、こっちが怖くなってくる。

 今夜はなんだか寝ることが出来なさそうだ...。

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