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第1話 「優秀な魔術師」

 草木も眠り、日もまだ上らぬ明刻四時、俺はいつものように目を覚ます。

 今日は変な夢を見た。

 確か、「戦争で負傷し、そのはずみで川に落ちて溺れた後、誰かに助けられた」

 そんな感じのやたら現実味のある夢だった気がする。

 火の玉によって受けた衝撃と熱さは、まるで本物を食らったかのように感じた。

 しかし、所詮は夢だ。

 どうこう考えても、それは現実のものではない。

 それよりも、早く身支度しなければ軍の作戦会議に遅れてしまう。

 今日は確か、重要な作戦についての説明があったはず...

 皆の目の前で遅れるのは、部下に示しがつかない。


 俺は魔法道具を使う為、発動句を唱える。

「フラム!」

 それだけで部屋中のランタンのような魔法道具の中に次々と火が灯り、部屋中を明るくする。

 やたらとこの部屋眩しいな...

 直視ができやしない。俺の個室はこんな感じだったか...?

 目がだんだんと眩しさに慣れ、周りが見えるようになる。

 そこにあったのは、いつも使っているような古びたランタンではなく、俺でも貴族の物とわかるような、精緻な細工のされた装飾や家具の数々。壁に掛けられている有名画家の絵。

 その上、ベットがとてもふかふかしていて、今まで感じた事のないほどの気持ち良さを与えてくれる。

「現実だったか...」

 俺が夢で感じた部屋と同じ所で、少なくとも、ここは戦場とは関係のないところであることはわかる。

 問題は、ここに俺がなんでいるのか、だ。

 戦場から貴族の家は数キロほど離れていたはず...

 

 そもそも、いったいここは何処なんだ。

 そう思案していると、突然ドアがコンコン、とノックされる。

「起きていますか?起きておられるようでしたら、返事をしてください」

 ...誰だろうか?

 聞き覚えのない少女の声。

 俺を油断させる罠の可能性がないわけではないが、助けてもらってもいる手前、対応しないわけにもいかない。

 俺は隣の棚の上にある愛剣をとってドアに近づき、ドアノブに手を掛ける。

 すると、ドアが勢いよく俺の方向に開き

「グワッ!! 」

 その勢いのまま、ドアは俺の鼻に直撃する。

「だっ...大丈夫ですか!? 」

 ドアの先に居た少女が慌てている。

 大理石の床に後頭部をぶつけてコブができたのは、また別の話だ。


••••••


「すみません、怪我をさせてしまって」

 ドアを開けた少女が、ベットの上の俺に深々と頭を下げる。

「いやいや、良いんだよ。大して痛くないし」

 一応、少女相手に心配されるのもどうかと思うので見栄を張っておくが、本当はとても痛い。

「いえ、私が原因なので私に治させていただけませんか?」

 なおも治療をしようとする少女。

「本当に痛くないから、気持ちだけ受け取っておくよ」

 俺がそう言うと、少女は

「そうですか、痛み出したらいつでも言って下さいね」

と言って、少女は救急箱とみられる箱を、机の上に置いた。

「ところで、」

 少女は別の事に話を変える。

「この部屋はお気に召しましたか? 長く使ってなかったので、埃がたまっているかもしれませんが...」

「薄汚い俺にはもったいないぐらいの部屋だと思うんだが」

「いえいえ、そんな事はありませんよ。 妹が浮遊魔法でずぶ濡れ、傷だらけの貴方を運んできた時には流石にびっくりしましたが、どんな人であろうと負傷している人は介抱しなければ」

 どうやら俺は、あの戦闘の後川で流されていたところをこの少女とその妹に助けられたらしい。

「恩に着る。この治療を施してくれたのが君なら、君は凄い魔術師なんだろうな」

 俺は脇の辺りをさする。

「あ、その治療は妹の施したもので、私がしたものではありませんよ? 私には治療系の魔法は才能がありませんし」

「へぇ。じゃあその妹に後でお礼を言わないとな」

「そうして貰えるとありがたいです」

 少女はどこからともなく現れた紅茶を俺に渡してくる。

「いつの間にその紅茶を持ってきたんだ? 部屋に入ってきた時には持っていなかった筈だが」

 俺は紅茶の入ったカップを受け取りながら聞く。

「ああ、これはごくごく簡単な生成魔法ですよ」

と言いつつ少女は魔力光を手に灯しながら呪文を唱える。

「ジェネル!」

 すると、いつの間にか少女の手にはもう一つの紅茶のカップが握られていた。

「こういう風に、頭の中でイメージした物を、好きな風に取り出せるのです」

「便利だな。いろいろな事に使えそうだ」

「ええ。その気になればなんでも生成できますし、私の得意な魔法分野なので、かなり重宝してます」

「俺も魔法が使えたらなぁ」

 俺は少女を羨ましく思う。

「今ここで貴女に魔法適性があるか調べてあげましょうか? たいていの人は魔法を学べば使えるようになりますし」

 俺は肩をすくめる。

「いいんだ。俺には元々魔法の才能はない。村の魔法師にも言われるぐらいだからね」

 すると、少女はしまった、という顔をした。

「すみません。私、嫌な事を言ってしまいましたね」

「これ以上俺を心配してると、君がもたないだろうからやめてくれ。こっちまで心配になってくる」

 そもそもその事は、昔から言われて来た事だ。 今更気分を害するようなことでもない。

「じゃあ、話題を変えますか。何の話をします?」

「なら自己紹介でもするか。互いの呼び名がわからないのもどうかと思うし」

少女は少しの間、俺の案について考えたようだったが、やがて口を開いた。

「そうですね。では、私からさせていただきます。

 私の名前は『メルナ=アルフィス』

『メルナ』と気軽にお呼びください。」

 俺の頭の中で、何かが引っかかる。

「『メルナ=アルフィス』...? なんだっけかな、聞いたことあるような気がするが」

メルナが俺の疑問にに答える。

「多分それは、『早打ちのメルナ』、もしくは『錬金術師メルナ』と呼ばれていた時のものではないでしょうか。

私の家の名前は魔法学校では有名ですし。知られていても別に不思議ではないかと」

『錬金術師メルナ』?

 それって確か...

「『錬金術師メルナ』ってオルセニア軍の7人の天才魔術師の、あのメルナか?」

 俺のした質問に、メルナは少し顔をしかめたものの、すぐに答えてくれた。

「多分それであってます。あまり好きな名称ではありませんが」

 背中に汗が滝のように流れる。

 つまり目の前にいる少女は、一人でもパルテミアを苦しませる事の出来る敵な訳だ。 これは迂闊なことは言えない。

 メルナは俺がそんな事を考えているのには一切気づかず、話を続ける。

「まあ、戦場で度々言われるので慣れましたが。 先日の戦闘でも言われましたし」

「先日の戦闘?」

 すると、メルナは不思議な顔をする。

「あれ、知らないんですか?

結構有名だと思うんですけど。

オルセニア国と、パルテミア国が戦争になったやつです。

確か3日ぐらい前にパルテミア国は降伏してオルセニア国の一部になりましたので、戦闘そのものは終わった筈ですよ」

 俺の顔からさらに血の気が引く。

 俺のいない間にパルテミアが負けた?

 これから一体どうやって生きればいいんだ...

「どうしました?顔色が悪いですよ? 」

 メルナが俺の顔を覗き込む。

 俺はメルナを離しつつ、慌てて返事をする。

「いやいやいや、大丈夫。俺は大丈夫だから」

「そうですか? ならいいですけど...」

 これはまずい。メルナが俺が軍人である事を悟る前に、話を変えなければならない。

「そ、そうだ。まだ俺の事を話してなかったな。俺の名前はヴェル。ヴェル=フェノンだ。以前はパルテミアで害獣討伐をやっていた。

これと言って特技はないが、よろしく頼む」

「はい、よろしくお願いしますね。ヴェルさん」

 メルナは笑顔で返事をしてくる。

 名前は本物だが、それ以外は嘘だ。

 同じような名前は割と多いが、苗字の方はそうはいかないし、本当の職業を言うなんてもっての他だ。

 取り敢えず、この事は永遠に伏せておくべきだろう。

 メルナにはバレていないようで、俺のことが知ることができて、なんだか嬉しそうな顔をしている。

暫くして、メルナは何かを思いついたかのような顔をした。

「そうだ! 先程、害獣討伐をしていたって言ってましたよね? なら一つだけ、頼みたいことがあります! 」

「なんだ?」

 俺は少しその『頼み事』とやらに疑問を持った。

 『錬金術師メルナ』が頼み事とあれば、並大抵のことではなさそうだが。

 そうしてメルナから言われた次の言葉を聞いて、俺は手に持っていたカップを落としかけた。

 なぜなら、メルナは顔色を一切変えず、パルテミア軍人である俺にこう言ったのだ。

「オルセニア軍で、私の妹の手伝いをしてくれませんか? 」

と...

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