62 魔王軍、壊滅
光が消え去ると、魔物の群れからどよめきが起こった。
それも当然であろう。何せ、魔王軍最強の将である八極将魔が目の前で葬られたのだから。後ろに控えていた魔王軍の主力部隊が、恐れをなしてじりじりと後退していく。
残る八極将魔、ジークとラグドも驚きを禁じ得ないようであった。琉斗の恐るべき闘技を前に、思わず後ずさる。ラグドの足下にいた魔物たちが、彼の巨大な足によって踏み潰されていく。
周囲を覆っていた魔法障壁を解除すると、琉斗はジークに向かって言った。
「さて、お次は魔法勝負といこうじゃないか。障壁も解除してやったんだ、お前の一番の魔法を撃ち込んでくれよ」
「な、なめおって……。剣士ごときが、魔法で我に勝てると思うなよ……!」
怒りに顔を醜く歪ませると、ジークはラグドに向かい叫んだ。
「ラグドよ! 我はこれから詠唱に入る! 魔法が完成するまでの間、こやつを引きつけておけ!」
「この俺に指図するな! お前の術が完成する前にぶっ殺してやる!」
そう言うや、ラグドは琉斗目がけて両手から稲妻を放つ。
ひらりと避けていく琉斗を、ラグドはその足で踏み潰しにかかる。琉斗は俊敏な動きでそれを避け、足に一太刀入れる。
剣は鋼鉄よりも頑強であろうラグドの鱗を易々と斬り裂き、緑色の液体が傷口からしぶく。
「ぎゃあああ!」
思わぬ痛みに、ラグドの口から悲鳴が漏れる。まさか自分の鱗が琉斗の剣で斬れるとは思わなかったのだろう。
魔物たちを踏み潰しながら後退すると、再び琉斗に向かい稲妻を放っていく。
琉斗は最早それを避けようともせず、左手を前に突き出す。
その掌の前に円形の障壁ができたかと思うと、ラグドが放った稲妻をあっさりと弾き返していく。
「どうした、お前の力はこんなものか?」
琉斗の挑発に、案の定ラグドは激高した。
「なめるなよ人間! テメェは俺の必殺技で消し炭にしてやる!」
吐き捨てるように言うと、ラグドは大きく口を広げる。その口の中で、パリパリと雷が弾けながら、闘気と魔力がみるみる増大していく。
「なるほど、壊破龍闘撃に己の雷を込めた技か。腐っても上位龍種ではあるんだな」
つぶやくと、琉斗も剣を構えて闘気をみなぎらせる。龍の闘気を凝縮し破壊の力へと変えて対象に放つ破滅級闘技、壊破龍闘撃の構えだ。
その壊破龍闘撃に、琉斗は雷撃魔法を乗せていく。手にした剣が帯電してバチバチと音を立てたかと思うと、刀身に雷が巻き付いていく。
「馬鹿が、そんな猿真似がこの俺に通用するとでも思っているのかあ!」
そう叫ぶや、ラグドの口から凄まじい雷撃が琉斗に向かって放たれた。
「じゃあ、自分の身体で試してみるんだな」
つぶやくと、琉斗は刀身の雷をラグドへと向かい解放した。
琉斗が放った雷はラグドの雷撃と激突すると、敵の攻撃をあっさりと押し退けていく。
雷はそのままラグドの巨体に直撃し、凄まじい轟音を上げながら巨龍の肉体を焼いていく。
「ぐぎゃああああぁぁあ!」
喉から絶叫を迸らせながら、ラグドが地面へと崩れ落ちる。そのままのたうち回るラグドに、魔王軍の先頭集団はなす術もなく押し潰されていった。
と、ジークの方から強大な魔力を感じ取る。どうやら魔法がもうすぐ完成するらしい。
琉斗はその魔力の波動から、相手の魔法が何であるかを読み取った。
「なるほど、爆獄破砕撃か。破滅級の上位魔法だな。なかなか気が利いているじゃないか」
「ほう、この魔法を知っているのか? だがもう遅い! 我が究極魔法が発動したが最後、貴様など塵も残らず消滅するわ!」
得意げに叫ぶジークに、琉斗は冷笑を浮かべた。
「じゃあ、俺も同じ魔法で相手をしてやることにしよう」
「何を今さら強がりを! 貴様ごときに我が究極魔法が使えるはずもないし、例え使えたとしても、もう詠唱が間に合わぬわ」
「それはどうかな」
左手を突き出すと、掌にたちまち強大な魔力の波動が満ちた。
その波動に、ジークが狼狽の声を上げる。
「ば、馬鹿な!? それは爆獄破砕撃!? なぜ貴様ごときがその魔法を、しかも無詠唱で使えると言うのだ!?」
「まあ、人には意外な特技があったりするものさ」
「う、うわああ!」
狼狽えたジークが魔法を発動させる。そのタイミングに合わせて、琉斗も魔法を発動した。
直後、二人の間で魔力と魔力がぶつかり合う。
それも束の間、ジークが放った魔法は弾き返され、琉斗の魔法が炸裂する。
ジークの目の前で爆発が起こったかと思うと、それは次々と連鎖してジークを飲み込んでいく。爆発は収まる気配を見せず、後ろに控える魔王軍にも容赦なく襲いかかる。
魔法は爆音と共に魔物たちを肉塊へと変えていく。その爆発が終わった頃には、大地はえぐれ、魔王軍の三分の一ほどが消滅していた。最初に琉斗が血祭りに上げた分も加えれば、すでに全軍の四割以上を失っている計算になる。
魔王軍が誇る精鋭部隊は、事実上壊滅した。




