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39 二回戦




 聖龍剣闘祭も二日目に入った。



 午前の試合を観戦した後、琉斗たちは一度会場を出て、近くの公園で食事を取ることにした。


 今が書き入れ時とばかりに、闘技場の周りには屋台や露店がずらりと並ぶ。まるで祭りのようだ。いや、実際、一大行事なのだろう。


 屋台の一つでパンと鳥串を仕入れた琉斗たちは、公園のベンチに腰かけて食事を楽しむ。


「やはり騎士団長は順当に勝ち上がってきたな」


「そうですね。準決勝で当たることは確実ではないでしょうか。琉斗の二回戦の相手を読み違えた私が言うのも何ですけど」


「それは仕方ないさ。全然情報がなかったんだろ?」


「はい、世界は広いということですね」


 レラが苦笑する。


「試合の間隔が空いているといいな。他の試合もゆっくり観戦できる」


「そうですね。二回戦からは試合も一時間おきですから。少しのんびりできますね」


「しかしあれだな、みんな本当に躊躇なく攻撃するんだな。治療係がいるとわかっていても見ていて心臓に悪い」


「大丈夫ですよ、そこは皆さん百戦錬磨の強者ばかりですから。加減はわかっています」


「それに、怪我をした場合の対応もばっちりだしね」


 会場には大勢の治癒魔術師がスタッフとして待機している。そのため、もし怪我をしても彼らが一斉に治療してくれるのですぐに完治するのだそうだ。


 そうは言っても、即死してしまえば蘇生することはできない。万一のことを考えると若干肝が冷える。

 まして琉斗の場合、うっかり力を振るえば何が起こるのかわからないのだ。相手の力量を見極める必要があるため、どうしても後手に回らなければならないのが辛いところであった。


「二回戦もみんな勝ち上がるといいな」


「そうですね、頑張りましょう」


「あなたたちはさすがね。私もベスト8まで進みたいところだけど、さすがに次は勝つ自信がないわ」


「そう言えば、セレナはナスルと当たるのでしたね」


「ああ、例の一級冒険者か」


 そうなのよ、とセレナがため息をつく。レラが何も言わないということは、彼女もセレナが勝つのは難しいと思っているのだろう。


「せめて、少しでも手の内を明かすことができればいいのだけれど」


「期待してますよ。何が来るのかわからないというのもスリルがあって楽しいですけどね」


「レラは本当に根っからの戦士なんだな」


「褒め言葉と受け取っておきますね」


 そう笑うと、レラは手にした鳥串にぱくりとかじりつく。食欲に忠実な女だ。


「次は例の重装剣士との試合ですね、リュート。頑張ってください」


「ああ。まかせておけ」


「ちゃんと食べないと駄目ですよ、肝心な時に力が出せません」


「いや、試合前に食べ過ぎるのはよくないだろう」


「そんなことはありませんよ。私はしっかり食べますよ?」


 それはお前の場合だろう、と喉まで出かかった言葉を、琉斗はかじったパンと一緒に飲み込む。



 それからしばらく会話を楽しんだ後、琉斗は午後最初の試合に出るために闘技場の控室へと向かった。










 今回も西側の控室に入った琉斗は、そこでしばらく試合の開始を待つ。


 とりあえず剣の手入れなどをしていると、係員がやってきてアリーナへと琉斗を誘導する。


 アリーナの入り口までやってくると、ミルチェの元気な声が聞こえてきた。


「さあ皆さん! 二回戦、午後最初の試合がいよいよ始まります! そろそろ入場してもらいましょう!」


 その声に、係が琉斗に入場を促す。


 アリーナに入ると、観客から声援が起こる。対戦相手も同時に向こう側から入場してくるのが見える。


「第三試合は何とも意外な組み合わせ! いったい誰がこの二人の対戦を予想できたでしょうか! 共に予選を突破してここまで勝ち上がった予想外の伏兵! 西側、リュート選手! そして、東側、ザード選手の登場です!」


 歓声に沸く会場を見つめながら、琉斗は苦笑を漏らす。


 実際、こんな組み合わせを予想できた者は一人もいないだろう。

 まず、琉斗が二回戦に進出すると思っていた人間がほとんど存在しなかったはずだ。というより、琉斗の勝利を確信していたのはレラしかいなかっただろう。そのレラが、ザードの勝利は予想できなかったのだ。


 くるりとその場で一回転すると、ミルチェは右手で琉斗を指し示す。


「まずはリュート選手! 一回戦では優勝候補の一角、前回大会ベスト4のアイザック選手を見事撃破! はたしてこの試合にも勝利して、一回戦の勝利がまぐれではなかったことを示すことができるのか!」


 今度は逆方向に一回転すると、左手でザードを指し示す。


「対するはザード選手! こちらも一回戦、優勝争いに絡むと目されていた推薦枠のアラン選手を破っての二回戦進出! 手元の情報では詳しい経歴は不明、何とも謎の多い選手です!」


 ミルチェが紹介する間にアリーナの中心までやってきた二人は、そのままじっと向かい合う。赤茶色の兜に阻まれ、ザードの表情を窺い知ることはできない。


「共にその実力は未知数の二人、いったい勝利するのはどちらなのか? 予測不可能の戦いに、目が離せそうにありません!」


 観客が拍手と声援で応える中、琉斗は剣を抜き放つ。



 二回戦、第三試合。注目の試合が、間もなく始まろうとしていた。





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