幸せ
ちょい、暗めです
「幸せになる」
それは今の僕には絶対許されない事
手を伸ばせば届く距離だったのに
たった数センチ
手を伸ばしていれば
君は助かっていたのかも知れない
僕が「もし自分も巻き込まれたら」
なんて考えずに
勇気を振り絞って君を抱き寄せれば
君はもしかしたら僕の横で笑っていてくれたのかもしれない
君が死んで十年たった今
君の事をどれだけの人間が覚えているのだろう?
君の生きた
時間
思い出
姿さえも
取り残された僕達の記憶から
少しずつ少しずつ霞んで、消えていってしまう
―まるで君が最初から存在していなかったかのように
失ってしまった
命は
記憶は
「君」は
気付いたときにはもう手遅れで
この手からサラサラと
まるで砂のように零れ落ちてしまっていた
どんなに忘れたくなくても
どんなに覚えていたくても
過去に縋り続ける事は出来ない
気付かないうちに
「君」という存在は
僕の中から一つ、また一つと徐々に消えていった
今の僕には
君の笑顔も
香りも
髪の色も
思い出す事はできない
だから
君を助ける事ができなかった僕に
君を置いて「幸せになる」なんて事、許される筈がない
僕は『僕自身』を失うのが怖くて
「君」を手放した
幸せになる資格なんてない
最低な人間なのだから