ショーン・コラージと鉄のゴーレム§プロローグ
ぽっかりと満月が晴れた夜空を照らし、
東の森ではオオカミの遠吠えが
こだましている。
郊外に居を構える人々は、就寝の祈りを終えて寝静まり、あるいは市街地にて寝泊まりしている人々は酒場にて夜更けならではの奇妙な陽気に溺れていた。
そういった大勢の営みから少し離れた、人気のない夜道を、慣れた足取りで颯爽と駆けていく姿がある。
ジム・リックバートンだ。
今宵も彼は、不法にもリーン領主の屋敷である古城に忍び込むのだ。
冷気に満たされいる古びた牢獄を抜け、屋敷に潜り込み、一度外に出ると壁伝いに屋上まで登る。煙の上がっていない煙突を上手に下ると、暖炉から慎重に様子を伺ってから
――ここまでの動作はもう随分手慣れていて、感服するほど無駄がなかった――
ジムは部屋の主に声をかけた。
「こんばんは、ええと――」
ジムは一呼吸置き――しかし彼は毎夜ここでうろたえるのだ――
確認してから挨拶を続ける。
「〝クローバー〟」
「あら、ジム。遅かったのね。
ずいぶん待ちくたびれたわ」
返事が、意気のある強かな声であり、
包容力のある暖かい声でない事に、
ジムはホッと安堵の息を漏らした。
実にやっかいなことではあるが、
この部屋には二人の主が暮らしていた。
シャーレ=ラネシア・リーンと
クローバー・リーンだ。
二人ともジムの恋人である。
ただし、彼らは決して不貞ではないことだけは断じておこう。
シャーレとクローバーは一つの体に二つの心を持つ、同一人物でありながら別人だからだ。
ジムは毎夜、彼女たちと戯れるためにこの部屋に忍び込むのだが、彼女たちは一晩ごとに交代で彼を待っている。
そこに女性らしい難点があった。
もしジムが暖炉の中から今宵の相手の名前を違えたのであれば、それが優しいシャーレであれ勝ち気なクローバーであれ、一晩中ヘソ曲げ口をつぐんでしまうのである。
まるで対照的な性格の彼女たちだが、この一点だけは一致していた。
まこと、女性とは気難しい生き物だ。
ジムはここ最近、
つくづくそう思うのであった。