君の手が作る幸福
それは、少し垂れ目の呑気そうな少女と、くすんだ枯れ葉色をした無表情な少年が、まだ十にもならない頃の話。
「ねえ、キミちょっと顔が悪いよ」
ある日、オウリという名を持つ薬師の少女にあっけらかんとそう言われ、名も無い雑用の少年はきゅっと眉を顰めた。
「……喧嘩売ってるんですか? 高値で買いますが」
「あだだだだだ! 鼻を引っ張らないで地味に痛い! 言い間違い! お約束の言い間違いだから!」
しばしじたばた暴れた少女は、彼が手を離すとぜえぜえ息を整え、「顔色悪いよ、キミ」と改めて言い直した。
「そんなものいつものことでしょう。里に養われている孤児の立場に、健康的な生活なんて縁がありません」
「そりゃそうだけど、いつもに輪をかけてやばい顔色してるんだよ。ちゃんとご飯貰ってる?」
「……」
少女の問いに少年は、ふいと顔を逸らして応えとした。こりゃまともなもん貰ってないな、と考えて、少女が深々と溜息をつく。
「ただでさえ夏場で体力消耗するっていうのに、ほんと碌でもないなあの大人たち……。ゾンビが風邪引いたみたいな顔色してるじゃない」
「どんなですか」
疲れた声でツッコミを入れて、しゃがんでいた少年は小さな籠を手に立ち上がる。これから鶏小屋に行って、集めた餌を与えねばならない。
億劫な仕草で踵を返す彼に、少女は少し考える様子を見せた後で声をかけた。
「ねえ、明日の朝、日が昇る前にこっそり抜け出して来られる?」
怪訝そうな顔をして、少年が無言で足を止めた。肩越しに振り向く彼に、彼女はにんまりと笑ってみせる。
「元気の出そうなものを見つけたんだ。キミにも教えたくてさ」
※※※
灯り代すら節約しなければならない小さな里は、活動時間が日の出と日没に区切られる。それは少年が間借りしている里長の家も同じことで、振り返って見た真っ暗な家の中はひっそりと静まり返っていた。
日も出ていない早朝は、夏とは言えど気温も下がる。静かな敷地をそっと抜け出せば、人の気配のない湿った空気が肺に染みた。
本日言い付けられている仕事は、薪拾いと水汲みその他。己を呼んだ少女の予定次第では朝食には戻れないだろうが、少年は一つ溜息をついて貴重な一食を諦めた。
いつも穀潰しだの無駄飯食らいだの言われている己のことだ、食わぬ分には里長たちも文句は言うまい。空腹ではあったが、それよりは己を呼んだ少女の珍しい我が儘に付き合う方が先だった。
日も昇らぬ道をのそのそ歩いてきた少年を、少女はいつもの笑顔で出迎えた。
「おお、ちゃんと律儀に来たね。おはよー」
「……あなたが念押ししたんじゃないですか……」
まだ少しぼんやりした目で軽く睨むと、少女は誤魔化すようにまた笑って、少年に背を向けて膝を折った。
「まだ眠いんでしょ? 運んだげるから寝てなよ」
「……重いですよ」
「うとうとしながら歩く方が危ないって」
促されて、少年は大人しく負ぶさった。実際彼は眠かったし、怪我などしても仕事の量が減るわけではない。
少女が自分をどこに連れて行くつもりかは知らないが、幼い少女が子供一人背負って歩ける程度の距離なのだろう。途中で食べられる木の実でも見つかれば有り難いと、空っぽの胃をそっと押さえて力を抜いた。
親のものさえ知らぬ背中の熱は、存外暖かくて眠気を誘う。
溜まっていた疲労と睡眠不足が重なって、少年は間もなく眠りに落ちていった。
――そうして、やがて揺り起こされた少年が瞼を開けると、目の前には肩越しに自分を見詰める灰色の瞳があった。
まだ森の中にいるのだろう。鬱蒼と生い茂った茂みの向こうに見えるのは、木々に囲まれた、少し開けた小さな空間。さらさらと音がするから、近くに川があるらしい。
「……」
がさがさと茂みを揺らして少女の背中から降りると、少女が笑って頭を撫でてきた。
「二度目だけど、おはよー。ほら、もうすぐ時間だから起きて起きて」
どうやらここが目的地らしい。少年の髪を少し乱暴に掻き回しつつ、少女の視線は空き地の真ん中に向いていた。
何度か目を擦ってから、彼もそちらに顔を向ける。そこに生えていた一本の緑に、小さく目を瞬いた。
「……あれですか? あなたが僕に見せたかったものは」
――それは、固く閉ざされた一つの蕾だった。
まるでその植物に場を譲るように、周囲の一定範囲には雑草すら生えていない。
二人の胸ほどの高さまで伸びた茎が付けるのは、細く絞られたような大きな蕾。僅かに見える花弁は白く、夜露を乗せて輝いていた。
「そうだよ。あの花は、一日の最初の日差しで咲くんだ」
自慢げに笑う少女は彼の隣に立ち、茂みに隠れるようにしながら真剣に花を観察し始める。
これマスクね、と渡された布を、少年は半ば反射で口に巻いた。少し苦い薬草の匂いがして眉を顰めるが、少女も隣で同じものを巻いているので文句は言えない。
「よく見てなよ。あの花、咲く姿も綺麗なんだから」
しっかりと口元を覆い隠し、楽しそうに告げた彼女に応じるように、木々の間からきらりと光が差し込んできた。
――夜明けか。
白い光に目を細めながら、少年は花に意識を集中させた。
それは、貴婦人のスカートが艶やかに翻る姿に似ていた。
見つめる二人の目の前で、朝の日差しを受けた花が、ふわりと音もなく綻んでいく。一枚一枚、見る見る露わになっていく花弁が、固く閉じた蕾を大輪の花へと変貌させていった。
「……へえ……」
初めて目にした花の開く瞬間に、少年は我知らず感嘆の声を上げていた。
貴族がいるような大きな街であれば、その美しさを楽しむために品種改良されたあらゆる花が揃うというが、酔狂な金持ちも研究者もいないこの山には当然そんなものは生えていない。
けれど少年にはこの時、この一輪の花の美しさが、富街で珍重される貴花にも劣らないという確信があった。
大きな花弁は縁取りが白く、内側に行くに従って鮮やかな青へと変わっている。夜明けの白から晴天の青へと移行していく様を想わせる色合いは、人の手で再現することができない繊細さを湛えていた。
幾重にも重なった光沢のある花弁は中心から徐々に広がって、柔らかな手のひらのように天を向く。露を乗せて輝く花弁の質感は、かつて一度だけ見たことのある、さらりと滑らかな上質の繻子を連想させた。
しっとりと濡れた黄色い芯が現れると同時に、甘い芳香が一面に広がった。苦い薬草の匂いを通しても分かるそれを誘われるように吸い込んで、微かに熱を帯びた息を吐き出す。
――ああ、これは確かに美しいですね。少々無理をしてでも、見るべき価値がある。
珍しく素直に感嘆の吐息を零す少年の隣で、少女は息を潜めて花を見つめている。けれどその目に何やら動物じみた光があるような気がして、彼は無表情で首を傾げた。
じっと黙って見つめるうちに、芳しい香りに誘われたように複数の気配が寄ってくる。
見れば、リスや兎などの小動物が主のようだ。彼らは三々五々にやって来て、花の周囲で丸くなっていく。
「……」
「…………」
小動物たちが争う気配も見せず穏やかに集う姿は、何とも牧歌的で愛らしい。
自分ももう少し近付きたいな、と思った少年は、傍らで少女が、じいいい、と前のめりになった気がして、少し驚いたように顎を引いた。
それなりに動物好きだったはずの少女は目の前の光景に和む様子を微塵も見せず、無言で花を見つめ続けている。
彼女の態度に若干異様な迫力を感じた気がして、少年は彼女が一体何を期待しているのか、初めて疑問を胸に芽生えさせた。
がさり、と重い足音がしたのはその時だった。
重いと言っても、人間のそれよりは遥かに軽い。少女がぐっと身を乗り出して、ぎらりと目を光らせた。
のっそりと姿を現したのは、一匹の亀だった。
大きさはかなりある。少年が何とか一人で抱え上げられるか否か、というところだろうか。
ごつごつした灰色の体を、蔦の這うような青い模様のある、四角い甲羅が鎧っている。容姿に相応しい重い動作で歩いて来た亀は、他の動物たちと同じように花へと近付き、その傍で大人しく蹲った。
そして、亀が目を閉じたのを確認し、きっかり六十秒数えて少女が動く。
ぎょっとした少年が声をかける間もなく、花へと走り寄った少女はわっしと花をふん掴み――
――問答無用で引っこ抜いた。
えっちょっ。
美麗な花に対する暴挙としか思えない行動に、少年は思わず唖然と目を見開いて。
【――ピギョエエェェェオオォアアアアアアギアアァァァァ!!!!】
けれど、一拍置いて耳をつんざいたこの世のものとも思えない絶叫に、今度こそ全力で顔を引きつらせた。
(な、何なんですかこのおぞましい声は……!)
よく見れば、少女が豪快に引っこ抜いた花には、奇妙な形の根が付いていた。
例えるなら、枯れ木で作られた痩せこけた魚。虚ろな目と口をぱくぱく動かし、びちびち尾鰭(に見える部分)を蠢かせている姿を目の当たりにして、流石の少年も体を強張らせて後ずさる。
どう考えてもまともな植物ではない。
背筋に冷たいものが走るのを感じながら目を逸らすこともできずに見つめていれば、一体どこに声帯があるのか、一頻り絶叫した根はやがてぱたりと叫ぶのを止め、死んだように動かなくなった。
それを確認した少女は、その異様な植物を迷わず腰の帯に結び付けると、次に蹲って動かない亀へと獲物に向ける視線を送る。
ぐるぐる亀を縛り上げ、ついでに兎を二匹拾い上げて同じように縛ると、ようやく少年を振り返ってこう叫んだ。
「よっしゃ目的達成! 野郎共、ずらかるぞ!」
僕一人しか居ないんですが。
全開の笑顔を向けられて、反射的に場違いなツッコミが頭に浮かんだが、口にする気力は最早無かった。
※※※
「つまりだね、要するにあれは一種の魔獣だったわけだよ」
三十分後。
先程の空き地から幾分離れた森の中。ぐるりと雑草を引き抜いて作った小さな空き地で、ぐつぐつ湯気を上げて煮える小鍋を前にしながら、左頬を少しばかり赤くした少女はあっけらかんとそう言った。
少年が見て思った通り、やはりあの植物はまともなものではなかったらしい。よりにもよって魔獣と来たか、と呆れた息を吐く。
聞けば、予想通りあの気味の悪い根が魔獣の本体であるそうだ。移動に適さない本体を地中に隠し、芳しい香りで動物を誘って自身の養分にする性質を持っているらしい。
マンドラゴラと似ているが、その泣き声に致死性はない。ついでに希少性でも幾分劣るが、割合安全に採取できるところから、狙い所の魔獣でもある。
「あの花の周り、植物がほとんど無かったでしょ。あれ、根付いた時からじわじわ養分にされて枯れちゃったんだよ」
けろりとした調子で解説されて、少年の顔がひくりと引きつる。
「……あの、もしかしてあの空き地、普通に森の一部だったりしました?」
「正解ー。空き地になるまで一月弱ってところかな。あんなになるまで養分取り込んだんなら、そりゃ綺麗な花も咲くよねー」
それは恐ろしい魔獣だ、と少年は思った。
少なくともさっきの空き地は、大人が二人手を広げて並んだくらいの広さがあった。あんな調子で際限なく森林を食い潰す魔獣など、優先順位トップクラスの討伐対象になってもおかしくない。
「でも、放っといてもあれ以上は空き地は広がらなかったはずだよ。花を咲かせた後のあの魔獣は、植物じゃなくて動物を食うからね」
周囲の植物を食い荒らして花を咲かせた後は、その芳香で誘う対象を動物に切り替える。
催眠作用を含む花の香りに誘われた動物たちは惹かれるままに周囲に集い、そのまま二度と覚めない眠りにつく。彼らを養分として取り込んだ魔獣の香りは、更に芳しさと催眠作用を増し、より遠くの、より大きな動物を誘うのだ。
「って、ちょっと待ってください。それ、もしかして僕らも危なかったんじゃないですか?」
「大丈夫だよ、マスク着けてたでしょ? あれ、催眠に強い薬草の汁を染み込ませてあったから、咲いたばっかの香りなら惑わされなくて済むんだよ」
慌てて問い質した少年に、少女はあっさり否定した。
一応対策はあったらしいと知り、安堵した少年が深々と溜息を吐く。代わりに俯いた額に手を当てて、げっそりした目で少女を見上げた。
「……つまりあなたの目当ては最初から花の美しさではなく、あの不気味な根っこと、ついでに亀だったというわけですか」
「ピンポーン!
だから私のほっぺたを力一杯引っ張るのは、ちょっとやり過ぎだったんじゃないかと思うわけです」
「珍しく素直な感動を覚えた対象が奇怪な生物だったと知った時の、僕のショックに対する慰謝料だと思いなさい」
どうせ事前説明が無かったのだって、少年の驚く顔が見たいとかいう性格の悪い理由だったに決まっているのだ。あの場を離れて一息ついた後、彼は取り敢えず、何の説明もなく訳の分からん物体を見せてくれた少女の頬を思い切り引っ張ってやったのだが、もう少し伸ばしてやっても良かったかも知れない。
少女が「まだヒリヒリするんだけど」と頬を撫でているのを見て、彼はいい気味だと言いたげに鼻を鳴らした。
(……最近僕が彼女のすることに驚かなくなったと不満そうにしていたから、今回は狙って来たんでしょう。狙い通りになってしまったのはやっぱり癪ですね……いやまあ、今回は仕方がなかったような気もしますが)
何にドン引いたって、あんなおぞましい外見の根っこをざくざく鼻歌交じりにかっ捌く、彼女の肝の据わりっぷりに一番ドン引いた。流石薬師と言えば良いのか、ひとたび「材料」と見さえすれば一切の躊躇はないらしい。
嗚呼、今回は自分にしては珍しく――本当に珍しく、真面目に感嘆していたというのに。
「あの香りに特に強く誘われてくる動物の中に、滅多に捕獲できない貴重な亀がいるって聞いててさ、芽を見つけた時から期待してたんだ!」
「ああ、そうですか……。ええ、分かってましたよ、あなたはそういう人です」
少年の胸中などつゆ知らず、わっはっはと朗らかに笑う少女とは対照的に、彼はがっくりと肩を落とした。
――そうだ、考えてみればおかしかったのだ。
だってそうだろう。そもそも、『疲労が顔色に出るほど体調を崩している少年を』、『如何に美しいとは言え単なる花を見るためだけに』、『睡眠時間を削らせてまで』、『彼女が呼び出すわけがない』のだ。
彼女と出会って未だ一年かそこらだが、それなりの時間を共に過ごしてきた少年は、既に彼女の性格をこの里の誰よりも把握していた。
彼女に情緒がないわけではない。人並みに美しいものや愛らしいものを好む性質も有している。
だが、それ以上に彼女は極めて地に足をつけた現実主義者だった。そんな彼女が敢えて今、少年を呼び出したというのなら、それは物理的に彼の回復を助ける手段を思い付いたために決まっているのだ。
――そう、例えば今二人の目の前で煮えている、魔獣と亀肉のごった煮のように。
「この亀ね、特にこの山の川に生息してる、特徴的な亀なんだって。イワヒロハコガメって言うんだけどさ」
ぐるぐると小鍋を掻き回しながら、少女が嬉しそうに説明を続ける。
「普段は川縁の岩の隙間に身を潜めてるから滅多に見つからないし、嗅覚が鋭くて、近付いてもすぐ川に逃げられちゃう。だからこの山であの植物魔獣が見つかった時は、無傷で亀を捕まえる絶好のチャンスなんだよ」
「ああ、鼻が良いから、多少遠くても引き寄せられてしまうんですね」
「そーいうこと。おびき寄せられた動物たちは六十秒以内に深い眠りにつくから、近付いてもまず目が覚めない。植物魔獣は引っこ抜いちゃったから、時間が経って香りが散れば、置いてきた動物たちの方はいずれ目覚めると思うけどね」
喋りながら粗末な木製の椀を手に取って、彼女は肉片と汁をたっぷり注いだ。
ふんだんに香草を投入した煮込み料理は、原材料が灰色の肉と不気味な根っこにも拘わらず、理不尽なほど良い匂いを漂わせていた。
二匹の兎は鍋には入っていないが、そちらは既に捌かれて、植物魔獣の残りと共に少女の荷物に収められている。八割以上が残っている亀肉も合わせて、これだけあれば当分食料には困らないだろう。
立ち上る香りに食欲を刺激され、ぐう、と少年の腹が小さく鳴った。
「亀も根っこも滋養強壮に良いらしいから、沢山食べておきなよ。街に持って行けば高く売れるらしいけど、今の私たちじゃ無理だからね。里の連中に見つからないように片付けちゃおう」
くふふと悪どい笑顔で椀を渡され、少年は素直に受け取った。
街の人間でも滅多に食べられない食材は、今は少女の手で調理され、湯気を上げる料理となっている。正しく自分に食べさせるために作られたその一椀を、少年は無言で見下ろして、そしてほんの少し目元を綻ばせた。
「……ありがとうございます。頂きます」
「うん。お代わりしなよ」
へらりと呑気に笑うその少女が、己の見せる微かな笑みを、色鮮やかな貴花の綻ぶ様より遥かに貴重に思っていることなど知る由もなく。
少年は熱い汁を一口含んで、表情の薄い双眸を満足そうに細めた。
「……美味しいですね」
「うん。美味しいねぇ」
じんわりと少年の舌を包み込む汁からは、意外なほど濃い肉の味がした。
やや脂が強いようだが、その質は随分と良いのだろう。しばらくまともな食事を取れず、弱っていた胃にも、重くもたれる気配がない。
豊富に魔力を含む肉は滋養にも優れるというが、確かに腹に染み入るような熱と回復力を感じて、少年はほうと息を吐いた。これなら珍重されるのも頷けると思いつつ、小さく刻まれた肉片を匙で掬い上げる。
――少年は、自分が口下手だという自覚があった。
だから多分、言葉を尽くした美辞麗句なんかは言えないけれど。
この胸に落ちる言い難い気持ちを、彼女のような鮮やかな笑顔に変えて表すことなんかは出来ないけれど。
でもきっと、里長の家でお零れを貰う、どんな祝いのご馳走よりも。
同じ材料を使って作った、どんな高級料理店の料理よりも。
自分は、彼女の作ったこの大雑把な鍋料理を何より美味しいと思うのだろうと考えて、小さな肉片を飲み下した少年は、手の中の温もりをそっと大事に包み直した。
「お肉久し振りだなあ。めっちゃ美味い」
「……時間がないのは分かりますが、もっとよく噛んで食べなさい」
ひっきりなしにもぐもぐ口を動かしている少女を、唇を尖らせて軽く睨む。
泣きたいくらい幸せなんだから、味わう時間くらい寄越せ、馬鹿。
少女に植物魔獣や亀云々のことを教えたのは、例の行商薬師だったりする。