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かつて見た果て  作者: 笠倉とあ
番外編
16/18

甘いものは心の栄養です

 ある寒い冬の日、山中の里。

 斑模様の毛皮で防寒した里長と、こちらは黒毛の上着を着込んだその知人が二人、のんびり干し草を食む家畜たちの巨体を眺めながらぽつぽつと愚痴り合っていた。

 里長の家で飼われているこの家畜の名をコトンと言い、この国では最もポピュラーな、山羊に似た頑丈な大型獣だ。

 肉にミルクに角に毛皮。あらゆる部位を使い尽くせるその獣は、里の大切な財産であり命綱として非常に重宝されている。


 現在里長たちの視線の先にいるのは、白い毛皮と茶色い毛皮の、二頭のコトンだった。

 大きく乳の張ったそのコトンたちは、半年前に仔を生んだ雌コトンだ。ただし、その傍に仔はいない。それが今回の愚痴の内容だった。


「どうしたものかねぇ」


 知人の一人がそう言って、皺の目立つ顎を困ったように撫でる。五十を過ぎて白髪の多くなった里長が、重々しく頷いて溜め息をついた。


「ミルクが余って仕方ない。朝晩スープに使っとったんだが、孫も飽きたと言いよるし」

「いくら冬でも、そう長いこと置いとけんわな。だからと捨てるわけにもいかんし」

「バターもチーズも充分にあるぞ。他にも乳の出るコトンはおるし、ジェンニのとこのなんか双子を生んどる」

「仔コトンを売るのは、もう少し待つべきだったかな」

「しかしどうしてもと言われたんだ、仕方ないだろう。あちらの村の連中には、ワシらも世話になっとる」

「代わりに珍しいものも貰ったんだろう?」


 口々に言い合う彼らは、どうやらコトンミルクの処分に困っているらしい。

 生ものなので時間を置けば腐るし、加工品はもう足りている。少々半端な時期に仔を生んだせいで、あの二匹以外のコトンは今がミルクのよく出る時期だ。

 それでもミルクは毎日大量に出るので、せっせと消費に回さねばならない。恐らく搾乳が必要な期間、あと一月は使い道に困ることになるだろう。


「そう言えばナバリ、ほれ、お前んとこの雌鶏もどうなった。よく卵を生むのが来たと言うとったが」

「ああ、妻の実家がまた何羽か送って寄越してな。元気な鶏ばかりなのは良いんだが、こっちも少々生み過ぎる。売るほどあるんで、後で届けさせよう」

「ほう、そりゃ有り難い。孫も喜ぶよ」

「ムル君は卵が好きだったか。うちの孫娘は茹で卵が嫌いでな」


 次第に孫談義へと移りゆく彼らの会話は、やがて仔牛の値段から卵の値段、来年はコトンを何頭潰すかという相談まで、話の幅を広げていく。

 そして、


「…………」


 その会話を木の裏側で聞いていた一人の少女が、ピコン、と何やら閃いた顔をしたことを、知る者は誰もいなかった。




※※※




 その翌日。

 里長の住む家の裏手、納屋や倉庫のある場所に、濃茶の髪に灰色の目をした十二歳ほどの少女が立っていた。


「えー、知らないんですかー? 街ではちょっと噂の飲み物ですよー? すっごい甘くてー、すっごい美味しくてー、冬に嬉しいホットドリンクなのにー!」


 少女は何故か声を張り上げ、虚空に向かって話しかけている。納屋の壁に体を半分隠したまま、時折ちらちらと母屋に視線を送っていた。


「えー、知らないんですかー? ミルクセーキって言うんですよー! ミルクと卵と蜂蜜で作るー、超美味しくて超洒落てて超新しいスイーツドリンクですよー!」

「……とうとう発狂したんですか?」


 見えないお友達を相手に喋り続ける少女の前に、母屋の反対側から枯れ葉色の髪目を持つ少年が現れる。

 少女より二、三歳年下に見える彼は、濡れた服を桶に積んでいる様子から、丁度洗濯を終えてきたところらしい。

 無表情で周囲を確認し、何やってんだと言いたげな顔で眉を寄せた少年に、少女はひょいと片手を挙げて挨拶した。


「や、乙カレー。これから干すの?」

「今なんかニュアンスが違ったような気がしますが……。そうですよ、だからそこ、ちょっとどいてくれますか」


 言われて少女が二歩ずれると、少年は物干し竿に濡れた服を引っ掛け始める。あかぎれの出来た小さな手から少女が衣類を取り上げて、代わりに塗り薬の器を押し付けた。

 ありがとうございます、と呟いて、少年は大人しく薬を塗り込んでいく。少女はパァンと景気良く布の皺を伸ばしながら、少年を横目に肩を竦めた。


「私にも色々考えてることがあるんだよ。ちなみに何処から聞いてたの?」

「最後から二回目の『知らないんですかー』からです」

「そっか、もうちょっと早く来てくれてたら良かったのに。一人で同じ台詞を延々と繰り返すのって、結構辛いんだよ」

「あなた、あんなアホな独り言を何回繰り返してたんですか……」

「そりゃキミ……。お前は今まで食べたパンの枚数を覚えているのか?」

「パンなんて上等なもの、口にしたことはありませんね」

「やだ……予想外の悲しい現実……」

「小さな里の孤児なんてそんなもんですよ。そういうあなたは食べたことがあるんですか?」

「……、……、…………ふたくちくらい?」

「僕と似たようなものじゃないですか」


 呆れたように溜め息をついて、薬を塗り終えた少年は洗濯物干しの続きに移った。

 非常に下らない遣り取りだが、少年に会話を切る気はないようだ。彼は残り少なくなった洗濯物をさり気なく少女から遠ざけながら、「母屋に誰かいたんですか?」と聞いた。

 この裏庭は死角が多い。母屋の方から見れば、少女は納屋の壁に隠れた誰かに、大声で話しかけているように見えただろう。


「うん、ちょっとね。うまく聞いてくれてたら、多分明日までには結果が分かるよ」


 にやりと笑った少女は、そう答えて最後の布を手に取った。


 この少女がしばしば見せる強かさを、少年は密かに尊敬している。何を言われようがさらりと笑って望むものを掴みに行く強さは、彼女に出会う前の少年が知りもしなかったものだった。


 それは食料だったり、休暇だったり、行商人が売りに来る少し貴重な薬だったり。


 何がしたいのかは分からないが、きっと今回もまた計算高い策を巡らせて何かを手に入れようとしているのだろう。

 ならば自分は望み通り結果を待つだけだと、少年は小さく口の端を緩めた。


「あ、この刺繍付きのエロい黒下着、前回の行商で里長の奥さんが友達と一緒にへそくりはたいてこっそり買ってたやつだ」

「知りたくなかった」


 途端にげんなりした顔になって呻く少年に、少女は愉快そうにけらけらと笑った。



 ――その夜、厨の手伝いをしていた少年は、前触れもなく雇い主である里長に呼び出された。

 何か失敗でもしたかと懸念しつつ部屋を訪れた少年に、白髪の目立つ里長は腕組みをしてこう問うた。


「雑用の、お前、薬師のと仲が良かっただろう。ミルクセーキという飲み物の話を聞いたことがあるか? いや、ムルに強請られたんだが、薬師のがよく知っとるらしいと言うもんでな」


 ――ああ成程、と。

 無表情に「分かりません」と謝罪しながら、少年は少女の企み顔を思い出し、内心納得に頷いていた。




※※※




 その翌日、朝から里長に呼び出された少女は、待ってましたとばかりに里長の家へやって来た。

 そして彼女は何をどうしたのか小一時間の談判の末、何故か里長の出費で里中の子供にミルクセーキを振る舞う約束を取り付けてしまった。


 昨日の少女の怪しい独り言は、それを里長の孫に聞かせ、里長にミルクセーキなる珍しいドリンクを強請らせるためのものだったのだろう。里長が売った仔コトンの対価に蜂蜜を一壷手に入れていたことも折り込み済みだったと知って、厨でミルクセーキの作製を手伝っていた少年は、呆れと感心を等分に含んだ眼差しを少女に向けた。


「全てあなたの狙い通りというわけですか……。何処で聞いたレシピかは知りませんが、あなたは毎回変なところでアグレッシブですね」


 言いながらも、少年は次々と小さなカップを並べている。

 それらは全て今日のゲストである子供たちと、味見を志願した一部の大人たちが持参してきたカップだ。


 注意深く火力を調節した竈で、卵にミルク、蜂蜜を少々。煮立てないようゆっくりゆっくり掻き混ぜながら、少女はけろりと笑ってみせた。


「だって、ミルクセーキも飲みたかったんだもん。ミルクに卵に蜂蜜が一気に余る機会なんて、そうそう逃せないじゃない」

「まあ、良い消費にはなるでしょうね。ただ毎日大量に作れるようなものでもない以上、継続したミルクの利用には少し心許ないんじゃありませんか?」

「代わりに子供の喜ぶミルク料理のレシピを提供するって言ったら食い付いてくれたよ。あの人、孫殿がミルクに食傷気味で困ってたからね」


 それは孫に甘い里長なら揺れるだろうなと考えつつ、少年は棚から小さな盆を二枚下ろした。里長の厨には大きな盆もあるが、あまり乗せても持てずに引っくり返すだけだ。


「子供が喜ぶ……もしかして、ヨーグルトですか? 上流階級の間で最近流行り始めたらしいと聞きましたが」


 曰く、それはとろりと固まったミルク菓子で、柑橘の絞り汁や甘いジャムをかけて食べるものらしい。行商人は作り方に見当も付かなかったそうだが、目の前の少女なら知っているような気がしなくもない。

 そして案の定、少女はへらりと笑って手を振った。


「あれは無理だよー、原料が手に入らないもん」

「作り方は知っているんですね……本当にあなたの知識の出所が謎です。原料を聞いても?」

「ミルクにヨーグルト混ぜて、保温して一晩放置すれば出来るよ。ヨーグルト作るのにヨーグルトが要るっていう矛盾」

「何ですかそのメビウスの輪。それなら、最初のヨーグルトはどうやって作られたんです?」

「放置されたミルクに、乳酸菌ていう菌が自然発生してヨーグルトになったんじゃないかな? そっちはもっと手に入らないから、私たちには絶対無理だよ。せめてレモン果汁でもあれば、パチモンくらいは作れるんだけど……」

「レモンも高級品でしたね。どの道下層まで普及しそうにはないレシピです」


 残念そうにそう言って、少年はあちこちが欠けた粗末なカップを受け取った。中には黄色みがかったクリーム色の液体が波々と湛えられており、カップ越しにほんのりとした熱を伝えてくる。

 どうやら彼女は、このために二人だけでの作業を買って出たらしい。自分もカップを持ちながら、味見は厨係の特権だよね、と嘯いた。


「これ飲んだら、他の人たちの分を持って行こう。熱いから注意してね」

「はい」


 大人しく頷いて、少年はカップに口を付けた。

 仄かに甘いミルクセーキはとても贅沢な味がして、気難しい里長もきっと満足するだろうなと思った。




※※※




 余っていたミルクと知人から提供された卵、秘蔵の蜂蜜を半分ほど放出してミルクセーキを大盤振る舞いした結果、七歳の孫やその友達に全力で喜ばれて里長が脂下がった顔を晒した、その更に翌日のこと。

 寒風吹き荒ぶ朝の里から、桶を片手にこそこそ出て行く少女の姿が見て取れた。


 少女の抱える桶には、小さな匙や陶器のカップ、小型の鉈のようなものまで入っている。

 その仕草も相俟って、正直ひたすら怪しいその背中に、木陰から淡々とした声が飛んだ。


「夜逃げですか?」

「ヒョーイ!?」


 里が見えなくなったと思った瞬間の不意打ちに、少女はヘンな声を上げて飛び上がった。

 木陰から立ち上がった少年は、集めた山菜を籠に入れながら少女の元へと歩み寄り、じろりと冷たい目で彼女を見やった。


「こんな早朝からご苦労様です。里長様の家がある方向を微妙に迂回してきたように見えたのですが、もしや僕を避けたなんていうことはありませんよね?」

「あっはっはっはっはっはっはっ」


 たらたら冷や汗を流しながら引き攣り笑う少女を睨み付けて、少年はしばし沈黙する。

 ややあってわざとらしく目を逸らし、眉尻を下げて肩を落とした。


「……別に、責めてなんかいませんよ」


 ぽそり、と呟いた声は、しかし明るい色など籠もっていなくて。

 些か棒読みではあったが悲しげな声色で喋り出す少年に、少女は気圧されたように口元をひくつかせた。


「あなたが何をしようと、それはあなたのプライベートというものですからね。少し心配で待ち伏せのようなことをしてしまいましたけど、連れて行きたくないと思うなら、僕は大人しく引き下がります。さあ、もう行ってください、呼び止めてすみませんでした。寂しいなんて……思っていませんから……」

「――ああああああ! もう良いよ! 分かったよ! 悪かったよ! 別にハブろうと思ってたわけじゃないから! 寒い所に連れ出して風邪でも引かせたらまずいと思っただけだし! キミ一人くらい、来ても全然問題ないしいィィ!」

「そうですか、なら遠慮なく。山菜探しも手伝ってくださいね」


 途端にしれっと無表情に戻った少年に、分かっちゃいたが乗せられた少女はがっくりと肩を落とした。


(こいつ、イヤな搦め手を覚えやがった……)


 ただし、少年の人格に最も影響を与えているのは間違いなく自分である。

 一瞬後にはそれに気付いて、彼女は「宇宙征服」と毛筆で大書きされた半紙を見つけたら小学生時代に提出した書き初めの宿題だったのを思い出したような気分になった。


「ところで、何処に向かうつもりだったんですか?」


 一方少年の方は、早々に思考を切り替えて少女に移動を促した。

 この不可思議な少女が里では考えられないほど変わったことを試す時、少年が時間の許す限り同行するのは最早お決まりとなっている。

 昨日の厨で、少女の目的がミルクセーキだけではないことを匂わせながらも自分が誘いを受けなかったことを訝しみ(自惚れではない、単なる経験則だ)、こうして山菜採りを名目に朝から張り込んでいたのだが、大正解だったようで何よりだ。

 置いてけぼりにされかけたようで若干腹立ちも覚えるが、どうやら一泡吹かせたようなので良しとしよう。よいしょと籠を持ち直し、彼は彼女と手を繋いで歩き出した。


「目的地は東の池だよ。死ぬほど冷たいと思うから、キミは水に触っちゃ駄目だよ」

「あそこは冬になると凍ってしまうのではありませんでしたか? 水なら近くに湧き水があるはずですが」

「良いんだよ、その氷に用があるんだから」


 楽しそうに言う少女に、少年はことりと首を傾げる。


 程なく到着した小さな池は、やはり一面に氷が張っていた。

 少女はまず持参の鉈で氷を砕き、ガッシガッシと桶に入れる。

 次いで小袋から白い粉を取り出し、氷の上にぶち撒けた。手を出すなとの言い付け通り、じっと彼女の行動を観察していた少年は、不思議そうに目を瞬かせた。


「その粉は何ですか?」

「塩だよ。氷点下って言ってね、塩を氷にかけると、氷より更に温度が低くなるんだ」

「氷より冷たい氷、ですか……。見たところ塩が触れた部分から溶けて、再び凍っているようですね。塩水が凍る温度は普通の水よりも低いということですか?」

「そうだよ。元々氷は溶ける時に温度が下がるけど、そこに塩を加えると更に拍車がかかるの。融点降下って言ったかな。あ、鉈危ないよ」

「早く拭かないと錆びるでしょう。それより続きを」

「はいはい。ええと、水分子の話はこの間したね? 塩をかけると氷が溶けて、氷を作る水分子の間に、水に溶けた塩の分子が割り込むの。それで、融点とは関係なく氷の融解が引き起こされる。うわ水跳ねた冷たい!」

「融解。周りから熱を奪って起こる現象でしたね」

「そうそう。でもこの場合は、融解が起こった後に周りの熱を奪う反応が来るから、通常の融解とは順序が逆なの。氷の融点よりも低い温度を作るのはそのせいだね」


 十二と十歳の子供が二人、交わす会話には激しい違和感を感じるが、当人たちには今更である。

 顎に手を当ててブツブツ呟いている少年の傍らで、自分の喋っていた内容にも相手にも何の疑問も覚えていない少女は、「クリーム色の憎い奴~」などと歌いながら桶にカップを設置する。

 コトンミルクと卵と蜂蜜を混ぜた液体を、小さなスプーンでぐるぐると掻き回し始めた少女に、少年が興味深げに覗き込んできた。


「あの、その材料はひょっとして……」

「ピンポーン! 昨日と同じもの。ちょっとパクッて来ちゃった」

「成程、ミルクセーキではなくこっちが本命だったというわけですか。里中の子供に振る舞うほど大量に材料を使ったのなら、ほんの少し掠め取っても分かりませんからね。――そんなに恋しかったんですか?『アイスクリーム』とやらが」


 昨日と似たような色の、しかし温度は比べ物にならないほど冷たい液体をせっせと掻き回している少女に、少年は眉を寄せて問いかける。

 池の傍で氷など扱っているものだから、少女はガチガチ震えていた。そうまでして食べたいほどの美味なのだろうかと思いつつも、彼としては昨日のミルクセーキの方が魅力的だ。

 何せ時期は冬の最中である。普通に考えて、同じ材料なら氷菓子より、甘くて温かいドリンクの方が好まれるに決まっている。

 今からでも遅くないから、そこで血の気の引いた顔をしているアホ娘に、すぐさまカップの中身を火にかけろと助言してやるべきだろうか。


「あなたの食に対するこだわりは知っているつもりでしたが……」

「て言うか、アイスクリームはそもそも氷がないと作れないからね。材料自体も私じゃ滅多に手に入らないし、今を逃したら次はいつ機会が来るか分からない」

「それで風邪でも引いたら元も子もないでしょうに……」

「あと、私が昔いた所では、アイスクリームを冬場に食べるのが最高の贅沢だって言われてた」

「どこのドMの聖地ですか」

「『ただし暖房が効いた室内に限る』っていう但し書きが付くことを今思い出した」

「鼻水まで凍り付け、このスカタン」


 少年のじっとりした目を余所に、少女は液体が固まってきたと歓声を上げている。

 シャリシャリした感触の氷の粒は、空気を含ませたお陰で柔らかだ。特徴から言えば『アイスクリーム』と言うより『アイスクリン』に近いらしいが、少年には違いがよく分からなかった。


 小さなカップにたった一杯だけ出来たアイスクリームは、少年も味見を要求された。舌にふわりと溶ける不思議な食感を有していて、夏場に作れれば貴族にも人気が出るだろうと考える。

 一匙一匙大事にアイスクリームを食べる少女は至極幸せそうだったが、唇を青くしていたので、食べ終えたらすぐに火を熾そうと少年は思った。


 そうして翌日、前日にとことん体を冷やした少女は案の定風邪を引き込んだ。

 舌が痺れるほど苦い薬湯をグスグス泣きながら啜る彼女を、少年は一発ひっぱたき、溜め息をついた後で黙って看病してやった。



 里長にはポタージュとクリームシチューのレシピを教えたそうです。ポタージュは使う野菜で味が変わるし、お子様大好きホワイトソースはバターとミルクを大量に使う。

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