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龍狩と赤龍  作者: 丘野 境界
終幕
41/41

そして、それから

 オキナ山に戻ったフィーロは、これまでの事を養父であるヨーフに語った。

 何年も会っていなかったが、ヨーフは相変わらずだった。


「そうか」


 ヨーフは、フィーロの杯に酒を注いだ。

 外はすっかり夜なので、問題はない。


「まあ、次の代は安泰だな」


「どうしてそういう結論に達する」


 その酒を飲みながら、フィーロは突っ込んだ。


「子供なら作り放題だ。羨ましい限りだぜ」

「……そういえば、後回しにしていたんだっけ」


 フィーロの右隣にはユージンが、左隣にはプリセアがいた。

 ちなみに透龍ツララはフィーロの膝の上で既に眠っていた。


「というかプリセア、王族が城を出て良いのか」

「いいんです」

 一応、プリセアは動きやすい旅装束である。

 ……まあ、ドレスで来られても、困るが。

「普通、余所の国との政略結婚とかあるんじゃないのか」

「そうですね。だから父はあっさり許したんだと思います」

「うん?」

「……君に嫁げば、単独で国一つ相手に出来る戦力が手に入るって事だよ、フィーロ」


 フィーロと同じく酒を飲みながら、ユージンが補足した。


「俺はそんな事、するつもりはないぞ」

「まあ、父がどう思おうと、それは父の勝手ですね。わたしは単に、建前がもらえたから黙っているだけです」

「お姫様にこれからの生活は辛いと思うけどなあ」

「大丈夫です。環境なんて、慣れです」


 まあ一杯、とヨーフに勧められ、プリセアも酒を注いでもらっていた。

 自家製の、得体の知れない酒にも関わらず、特に躊躇せずに飲み始める。


「……逞しいなぁ」


 プリセアの話によれば、赤龍の住処を荒らした龍騎士団の裏にいた貴族や武器商人達は、既に捕まり法によって裁かれているという話だった。

 下手をすれば国が滅んでいたかもしれないので、誰も同情しなかったらしい。

 やがて、プリセアが酔い潰れ、次にユージンも眠ってしまった。

 まだ起きているのは、フィーロとヨーフだけになってしまった。


「まあ、飲め」


「ああ。ところで親父」


 酒を酌み交わしながら、フィーロは少し気になっている事を聞いてみる事にした。


「何だ?」


「俺達って、歳は取るのかな」


 フィーロの外見は、十五歳ぐらいに若返っている。

 これはそのまま停滞するのか、それとも再び成長するのかどうなのだろう。


「緩やかには取るだろう。詳しくは氷龍の爺様に聞け」


「……ああ」


 フィーロはチラッとヨーフの顔を見たが、結局何も読み切れなかった。


「達者で暮らせよ」


「時々、手紙は送るつもりでいる」


「気ぃ遣わなくてもいいんだぜ」


 ヨーフは、豪快に笑った。



 数日後、フィーロ達はかつての故郷に戻った。

 廃墟以前にただの草原に戻っていた。

 いくつかの石が並べられ、それが墓代わりになっている。

 それに、フィーロとユージンは手を合わせた。


「さて」


 背後を振り返る。


「これは一体、どういう騒ぎだ」


 故郷は草原に戻っていたが、跡地が何だか手作りの曲芸団のような有様になっていた。

 空には大きな怪鳥や精霊が飛び、草原を角の生えた馬やら炎を纏った狐やらが駆けている。

 人は数十人はいるだろうか。

 ただ、()()()()()()()()()()


「フィーロ様の人徳は大したモノですなあ」


 その数少ない人間の一人、古い遺跡周辺に住んでいた一族の族長が、感慨を漏らしていた。


「様はやめてくれって言ったと思うんだが」


「とにかく、約束通り孫を差し上げますじゃ」


「差し上げる」


 族長の隣で、孫娘であるチリョが言う。


「約束をした覚えなんて、一切ないんだが」


「まあ、タダですからもらえるだけ、もらって下され」


「ふつつつかものですが、よろしく」


()が一つ多いぞ」


「敬語は慣れてないから」


「……で、あの、俺を拝んでいる人達は、何だ?」


「フィーロが油龍を倒したから、龍神としての信仰が生じてしまったんだ」


「……神になった憶えはないぞ?」


「で、この人手は何?」


 チリョが、やっと常識的な疑問を口にした。

 まったく、もっともだった。


「元凶とちょっと話をつけてくる」


 そうしてフィーロが捕まえたのは、霊峰ヒエタに居を構えていたはずの氷龍コーラスだ。

 正確には老人の姿を取った、コーラスである。

 孫娘に当たるツララを、すごい猫かわいがりしていた。


「……爺さん、下山して大丈夫なのか」


「ふぉっふぉっふぉ、人間形態(コンパクト)にしておれば、問題なかろう。戦ったりなどは出来ぬがの」


「うー、おじいちゃんはーなーしーてー」


 ツララはパッとコーラスの手から逃れると、フィーロにしがみついた。


「ふぉふぉ、ツララは父親っ子じゃのう」


「それでこれは、どういう事だ?」


 ここにいる人々の大半は、人ではない。

 召使いだった精霊妖精の類が、人に化けているのをフィーロは見抜いていた。

 そして草原で戯れている怪鳥や一角獣などの幻獣達は、もはやその本性を隠そうという気すらないようだ。


「遊牧の民ならば、家畜は必要じゃろう? 持参金として持ってきたぞ」


「……数、多すぎないか? それに、明らかにあれ、山羊や羊じゃないよな?」


「心配いらぬよ。皆、賢い子らじゃ。タダじゃし、もらえるだけもらってくれ」


「さっき、同じ台詞を別の年寄りから聞いたぞ」


 フィーロは、向こうでチリョに嫁としての心得を言い含めている族長を振り返った。


「ほう、せっかくじゃから、茶でも勧めてみようかの」


 氷龍コーラスは笑いながら、そちらに歩いて行った。

 残ったのは、その背後に隠れていた雪龍スノウだけである。


「……おい、お前はこれで良いのか」


「…………」


 スノウは、コクンと頷いた。


「いや、本人が納得してるんならいいけどな」


「…………」


 小さな声で、お供します、とスノウは答えたのだった。


「おとーさん、すごいねえ」


「俺もビックリだ」


 まさか、故郷に戻ったらこんな事になっているとは、思いもしなかった。


「せーかつには、困らないね」


「……しっかり者の娘がいて、俺も助かるよ」


「えへへー」



 それからフィーロは遊牧民の長として、民(大半は人外)を率いた。

 時々、暴れる龍を倒したり、他国の侵略から守ったりしながら子を儲け、少しずつ一族を増やしながら、末永く暮らした。

『龍狩と赤龍』これにて終了です。

読了、ありがとうございました。

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