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龍狩と赤龍  作者: 丘野 境界
龍狩
39/41

赤龍ネス

 赤龍ネスは、生まれた時から強かった。

 その強靱な生命力は、誕生と同時に母龍の生命を奪うほどだった。

 そして強い龍は、その魂を求める別の龍を引き寄せる。

 赤龍ネスは、己を狙う全ての龍に勝ってきた。

 その強さを危惧した父龍も、兄弟龍も倒してきた。結果、一族は全て赤龍が喰らう事になった。


 やがて成龍となった赤龍には、新たな悩みが芽生えた。

 彼はあまりに強く、その子を生める龍が存在しなかった。母体の生命力が持たないのだ。

 だから、強い魂を持つ龍を求めた。

 その結果が、白龍フリゼであり、雪龍スノウであり、緑龍だった。

 だが、ようやく生まれた卵は母龍が掠い、または龍狩に阻止され、ようやく安定したかに思えたそれは人間共に砕かれた。


 これまで集めてきた()も無駄になった。

 断じて、許せん。

 人間共、根絶やしにしてくれる。

 その手始めが、目の前の龍狩だ。



 赤龍が口に炎を溜めている。

 その火力は何らかの力で底上げしているのだろう、これまでの比ではないのは、明らかだ。

 後ろで見守っていた龍騎士団長コマンディルは叫んだ。


「避けろ、少年!!」


 それを否定したのは、つい先刻団を抜けた、ユージンという騎士だ。


「いや、フィーロは避けない!!」


 何故、と問いかけ、コマンディルは自分で結論に到った。


「まさか……我々のせいか……?」


 フィーロが避ければ、そのままあの火の息吹を喰らうのは、自分達だ。

 ユージンは、軍船の後ろの海を指差した。


「ボク達だけじゃないです。このずっと向こうには港町ヨクトレイルがある」


「奴の炎は、そこまで届くというのか!?」


「放ってないから分かりません。でも、フィーロは届くと信じてる」


 ユージンは、吐息を漏らした。


「そしてフィーロは、そこに住む人々が炎で焼かれる事を、何より嫌ってる。だから避けない」


「ならばせめて、我々が盾になり……」


「それなら、フィーロが倒れてからの方が、わずかに威力が落ちてくれるでしょう」


 龍狩の親友は、そう断じた。

 そもそも、今戦っている少年(フィーロ「)も、自分達が盾になる事など望んでいないだろう。それをやるぐらいなら民を守れと、怒鳴られかねない。

 だが現実問題として、これから放たれる火の息吹を受けきれるだけの力が、フィーロにないのは明らかだ。


「勝ち目は、もはやないのか……?」


「いえ……もしかしたら、一つだけ」


 考え込みながら、ユージンが呟く。


「あるのか!?」


「完全に他力本願になるんですけど、姫様やフィーロから聞いた、龍狩の力の源が魂だって言うのなら……」


 ユージンは、黒煙で濁った空を見上げた。


「あ」


「どうした?」


「勝ちの目が、出て来ました」


 空を見上げたままのユージンに釣られて、コマンディルも空を見上げた。他の龍騎士達も見上げた。

 わずかに黒煙の隙間から光が差していた。

 いや。

 正確には、光の粒だ。


「あれは……」


 コマンディルの表情が、希望に綻んだ。



 フィーロと赤龍は同時に動いた。

 赤龍の口から吐き出される火の息吹に、フィーロは真っ正面から突っ込んだ。

 その身体を覆う黒い外套ヒネズミノカワコロモは、あらゆる炎を遮断する。

 が、赤龍の火は、その概念すら焼き尽くそうとしていた。


 燃え尽きる前にその口を貫ければ、フィーロの勝ち。その前にフィーロが燃え尽きれば、赤龍の勝ち。

 だが、この時点でフィーロは自分の死を確信していた。己の龍骨剣の一撃は届くかも知れないが、その時にはもう、自分の身は消失してしまっているだろう。

 ジリジリと肉を焼かれ、汗を流しながら、フィーロは炎の中を突き進む。


 その、身体が不意に楽になった。

 いよいよ、痛覚すら失いつつあるかと一瞬思ったが、どうも違う。

 自分の身を、黄金の光が包んでいた。



「……!?」


 赤龍も、龍狩の異常に気がついた。

 それは、人間達の魂だ。

 自分達が奪い、そして龍狩が解放してきた魂が、恩に報いよと還ってきたらしい。

 小賢しい。

 火を吐きながら、赤龍ネスは思う。

 ならば、その魂ごと焼き尽くしてくれる――!!



 さらに赤龍の火力が上がった。

 フィーロは人々の魂に包まれながら、考えた。

 自分が龍狩に到った経緯、油龍や空龍や光龍といった龍の魂を取り込み力としてきたこと、そして龍が人里を襲い続けてきたこと。


 だから、フィーロは自分のために戻って来てくれた魂を、()()()()()()使()()()()()()

 別の事に使わせてもらう事にした。

 魂達もそれを承諾した。

 フィーロは、自分の胸元に手を当てた。

 ここまでの思考はほぼ一瞬、次の瞬間フィーロの胸元が輝いた。


「知っているぞ」


 呟くフィーロと赤龍の間に、楕円形の光が割って入った。

 フィーロが守り続けてきた、白龍の龍卵だ。

 龍卵の表面に亀裂が入り、そこから桃花色の光が新たに漏れる。


「魂こそ、龍の力だ。今、新たな龍が孵化するに充分な力を得た」


 砕けた殻は柔らかな布に変わり、中にいた少女を包む桃花色の着物へと変化した。

 燃えるような赤い目は、赤龍ネスによく似ている。

 透明感のある銀色の髪とその容姿は、雪龍スノウ……いや、人間となった時の白龍フリゼに似ているのだろう。


「いけるか?」


 フィーロは()に尋ねた。

 何故龍ではなく人間の姿なのか、とかそんな事を考えている場合ではない。


()()()()()()()()


「よしやっちまえ、透龍ツララ!!」


 炎が、凍る。

 吐き出される火の全てを透龍ツララは吸収し、それをそのまま冷気に変換しているのだ。

 そして、フィーロがツララを追い抜く。

 赤龍ネスの牙を蹴り、さらに奥へ、力を溜めた龍骨剣を振り抜いた。


「火砕撃――!!」


 その一撃は、赤龍ネスの口を貫き、後頭部から龍骨剣の先端と同時に炎を吐き出した。

 赤龍の炎が止み、踏ん張っていた四肢が崩れ落ちる。

 どう……と重い音を立てて、その身体が横に倒れた。


 龍狩フィーロとその娘、ツララの勝利だった。

 何とか赤龍の口から這い出たフィーロは、黒い岩地に横たわった。


「やっと、終わった……」

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