怒りの赤龍
「助けなくて良いんですか?」
フィーロの背を見送る龍騎士団長コマンディルに尋ねたのは、他の龍騎士だ。
それに対し、コマンディルは腕を組んだ答えにしばし迷った。
「理由は色々あるし理屈もつけられるんだが……」
どれを言っても野暮になりそうだった。
なので、コマンディル自身が一番しっくり来る答えを口にした。
「……要するにあの龍狩は、一人で龍を相手に戦争をしてきた。今更俺達がしゃしゃり出るのもどうかという話だ」
そして龍狩フィーロの最後の戦いが、始まった。
勝負はほぼ互角。
いや、若干フィーロが不利だった。
赤龍ネスは、ここに来て力を増した。
原因は定かではないが、フィーロの直感では自分の子を失った事による。龍騎士団が卵を割ったこと、あれが最悪だった。
あれが赤龍の怒りに火を点けたのか、その攻撃力はこれまでの比ではない。
赤龍の鉤爪を避け、その腕を切りつける。
赤い、燃える血が飛沫を上げる。
というか見ただけで火を点けるなんて、間違いなくさっきまで出来なかったはずだ。
その一方で、防御力はガクンと下がった。
いや、回避力と言うべきか。
人間を遥かに超える体躯で、通常の生物のような回避はありえない。
その代わり、首、胴、翼、四肢、尻尾を用いた牽制を龍は行う。
が、赤龍はもはやそれすら行わない。
全身隙だらけだ。
龍骨剣も当て放題で、硬い鱗や強靱な皮膚を突き破り、既に幾つも傷を作っている。
だが、それがどうした。
その程度で、俺は倒せない。
倒せなければ、お前が死ぬぞ。
そういう覚悟でフィーロを殺しに来ている。
そして、それはまんま、フィーロと同じだ。
この赤龍は、龍卵を破壊されたことで復讐者と化したのだ。
赤龍ネスの瞳が燃える。
とっさにフィーロは光竜イルミネントの魂を励起させ、その視界から逃れる。
自分が立っていた場所が、直後空間ごと燃えた。
そのまま突進し跳躍、剥き出しの首筋目掛けて鉄龍イーロンの力を込めた龍骨剣を叩き込む。
新たな傷が開き、赤龍が吠える。
そのまま右の前肢を振るった。
だが、その前にフィーロは油龍ベニバナの力を解放、岩地を油で濡らす。わずかにバランスを崩した赤龍の鉤爪は、すんでの所でフィーロの足下スレスレを通過していった。
これならば、どうだ。
赤龍の口が開き、その奥に火の瞬きが見える。
それを見計らい、空龍ポイゾの毒を叩き込む。
巨大な爆発が発生し、その衝撃でフィーロも吹き飛ばされた……が、それでも口内を爆破された赤龍よりは傷は浅い。
だが、それでも赤龍は倒れない。
口の中を血だらけにしたまま、フィーロを見据える。
どうやら赤龍ネスも、これでは埒が明かないと判断したのか、一旦動きを止めた。
これまでの、怒りに任せた攻撃ではない。
絶対に殺すための、凝縮した殺意。
何を仕掛ける……?
直後、赤龍ネスの身体が、炎に包まれる。魂が次々と燃え上がる。
幾十の魂を燃焼させ、赤龍の力はこれまでにない強さを発揮する。
「まさか……」
これは、フィーロが使っているのと同じ、龍の魂の励起だ。
そして、使われている魂の質はすべて赤龍と同質のモノ。
すなわち、火龍の一族の魂だ。
島が、大陸が反応し、あちこちで噴火が発生する。
これではこの火山島ディナミットも数刻もしないうちに、沈没するだろう。
さすがに、フィーロも絶句する。
だが、これならばこの赤龍の尋常ではない強さが納得いった。
「同族を喰らったな、赤龍!!」
赤龍の力を見て、フィーロは確信した。
過去、一族の間で発端だったのかは知らないが、とにかく赤龍は自分の同族を全て喰らい尽くしたのだ。




