龍の咆哮
鉄龍イーロンの残骸から必要な材料を軍船に積み、まだ生き残っていた先行龍騎士団の残りも船に乗せることに成功した。
龍騎士団団長コマンディルも、船に乗り込もうとする。
「回収は終わった。我々はひとまず王都に戻り、先程の言った通り、龍への対策を練る事にする」
「理想的なのは、王都から全員脱出することだと思うがな」
それが、フィーロの素直な感想だ。
「無理を言うな。とにかく、礼は述べておく」
珍しくコマンディル団長は殊勝だった。
と言っても、礼で腹は膨れない。
そんな事より、フィーロには彼にやって欲しいことがあった。
「それはいいから、勝手な事した貴族とかを何とかしといてくれ。全部終わっても、俺を狙いに来そうだ」
「……有り得る話だな。それは約束しよう。お前が何も悪さをしないのなら、我々も今後も手出しはしない事を約束する」
「そんな悪さをする予定はない――」
フィーロは、口を止めた。
振り返り、黒煙で曇った空を見た。
その中に、わずかに赤が混じっている。
「どうした」
「全員、その場を動くな」
フィーロは龍骨剣を、岩地に突き刺した。
ほぼ同時に、空の赤が黒煙を払い、そしてその姿を現わした。
火山の真上で停滞していた赤龍ネスが、口を開けた。
そして、悲鳴を上げる。
子を失った、親の慟哭だ。
衝撃で、島全体が揺れる。軍船も大きく揺れた。
岩が宙を舞い、鉄龍の残骸や龍騎士の死体が自然発火する。
音の台風が過ぎ去り、フィーロの後ろでガクン、とコマンディル団長が膝をついた。
「な、ぁ……い、一体、何が……」
軍船はさらに酷い。
甲板から様子を見ていた龍騎士達は、揃って気を失っていた。
龍騎士達が弱いのではない。
先程の咆哮が、あまりに強烈だったのだ。
「赤龍の咆哮だ。危なかったぞ。下手すれば皆、あんな風になっていた」
フィーロは、島に残っていて、今の咆哮で燃やされた死体を指差した。
「待て、おかしいだろう。火も吹いていないのだぞ!? 吠えただけで燃えたというのか!?」
「それだけ、アイツも強くなってるって事だろう。赤龍とは絶対目を合わせるなよ。常人だとそれだけで焼かれちまう」
フィーロの隣で、ユージンも頭を振った。
「ああ、ビックリした」
「……俺は、お前が無事なことにビックリしてるんだが」
コマンディル団長よりも、ダメージが少なそうだ。
「無事じゃないよ。耳がすごく痛いよ。まったく、龍ってのはホント、デタラメな生き物だね」
「……魂の強さの問題か」
もしかすると、自分に影響を受けているのか? とフィーロは疑問を抱く。
が、それを尋ねている余裕もなさそうだ。
最後の巨龍、赤龍ネスが羽ばたき、地上に降り始めていた。
目的はもちろん、卵を破壊したと思われるフィーロ達の殲滅だろう。
勘違いも良い所だが、弁解が通じる相手でもなかった。
「しかし……どうやって勝てというのだ、あんな怪物……」
コマンディル団長が呻き声を上げる。
「馬鹿共が先走ったせいで、国の危機ではないか……!! もしも王都に再来襲を仕掛けられたら、今度こそ国が滅んでしまうぞ……!!」
「ああ。どうやら、人間がどれだけ対策を練っても無駄だな、あれは」
赤龍が地上に着地した衝撃で、再び島が大きく揺れる。
そんな中、フィーロが踏み出した。
「やってくれるのか」
団長を振り返らず、フィーロは答える。
「アンタ達の為じゃない。俺のケジメの問題だ。早く、逃げろ。巻き込まれるぞ」
「……いや、そういう訳にはいかん。総員、盾の陣!!」
龍騎士団達が揃い、龍の盾を構えた。
その様は、たとえるなら長く分厚い壁だ。もっともこれがどこまで赤龍に通用するのかは、疑問だが。
「せめて、見守らせてもらう」
「好きにしろ」
特に緊張するでもなく、フィーロはいつものような歩みで赤龍に向かう。
「じゃあ、行ってくる」
軽く手を振りながら言うと、ユージンが返事を返した。
「うん、行ってらっしゃい」
そして、最後の戦いが始まる。




