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龍狩と赤龍  作者: 丘野 境界
龍狩
36/41

鉄龍イーロン

 鉄龍イーロンが、岩地に降り立つ。

 それを取り囲んだのは、先刻フィーロが倒した、五体の異形の龍騎士達だ。


「アイツらは、何だ?」


 コマンディル団長が、フィーロに尋ねてきた。


「そういえば言ってなかったな。アンタの言う考えの違う貴族とかその他色々が作り出した、龍狩モドキだ」


「龍狩!?」


 ユージンが仰天する。


「あくまでモドキな。戦りあった感触だと、あれは多分龍の血を極限まで薄めて飲んだんだろう。それでも劇物だし、生き残れただけでも大したモンだが――」


 龍騎士達が、一斉に鉄龍イーロンに躍り掛かった。

 鉄龍の動きは鈍重で、フィーロのように光速で反撃をされることはないだろう。避けられることもないだろう。

 ただし。


「――龍には届かない」


 彼らの武器は、確かに鉄龍の身体を打った。

 が、鉄龍の特性は、その無類の硬さ。

 通常の龍の鱗を加工した武器程度では、傷一つ付きはしない。

 鉄龍は面倒臭そうに身体を振るうと、龍騎士達を地面に叩き付けた。

 大きくバウンドして、彼らはそのまま動かなくなった……が。


「大丈夫、死んじゃいない。……ただ、生きているのも不幸かもしれないが」


 フィーロの呟きに、ユージンが首を傾げた。


「え、どういう事?」


「身体こそ爆砕しなかったモノの、血と適合するために精神を使い果たしたらしい。人としての理性が殆ど残ってないんだ」


 言わば、あれは人の形をした獣なのだ。

 そして今、その格付けが済んだ。

 あの龍騎士達が、鉄龍に立ち向かうことはもうないだろう。

 鉄龍はその首をもたげると、フィーロの方を向いた。

 軍船に乗っていた龍騎士達が、ひぃっと短い悲鳴を上げる。


「次は、俺の番だな」


 龍骨剣は既に抜いてある。

 あとは鉄龍イーロンをぶちのめすだけだ。


「勝てるのか……あれに?」


 コマンディル団長は、声に不安を滲ませていた。


「龍騎士団の団長ともあろうモノが、ずいぶんと弱腰だな」


「情けない話だが、我々が狩ってきた龍の知性は、あれよりも数段低い」


「そうなのか、ユージン?」


 ユージンは頷いた。


「うん。基本、獣狩りに近いね。もちろんあのクラスを相手にする事だって何度もあったけど、そういう時は常にフル装備だったよ」


 今回は、先走った龍騎士団の一部を、撤退させるのが目的だった。

 よってスピード重視であり、重い装備などほとんど持ってきていなかったのだ。


「そうか。まあ、ちょっとやってくる」


 巨大な鉄龍は、どうやらこちらを待ってくれているようだった。

 ……と言っても、そんなに気長にはしてくれないだろう。


「ちょっとって、そんな気軽に……」


 団長の言葉に、フィーロは肩を竦めた。


「侮ってる訳じゃないが、正直あれは敵じゃない。これまでで一番楽に勝てる。助太刀はいらない。というかむしろ、困るから遠くにいてくれ」



 鉄龍イーロンは、こちらに歩いてくる少年を見下ろした。

 信じがたいことだが、これで自分達と同等の力を持つ人間だ。

 王都で見せたあのパワー、あのスピードを考えれば、決して油断は出来ない。

 最初から、全力の一撃を叩き込んでやる。


「三頭」


 唐突に、少年が言った。


「これまで三頭の龍を葬ってきた。油龍ベニバナ。光龍イルミネント。そして――空龍ポイゾ」


 もしも龍に顔色、というモノが有るならばイーロンの顔は真っ青になっていただろう。


「言っている意味は、分かるな。俺は――知っているぞ」


 既にそれは始まっていた。

 鉄龍イーロンは自分の鱗の異常に気がついた。

 異様な臭気と共に、自慢の黒光りする鱗が赤く濁っていく。

 アイツ――空龍ポイゾの力だ。


「鉄は、錆びる。何でも空気にさらし続けると、赤く腐るらしいじゃないか」


 少年――フィーロを中心に吐き出された(サンソ)は、鉄龍イーロンを蝕み、その身体を腐らせていく。

 このままでは、やられる。

 ならば――やられる前にやれ!!

 鉄龍イーロンは前肢を振りかざした。

 必殺の鉤爪が、フィーロの身体を抉り――倒す直前に、龍骨剣に阻まれた。

 赤く汚れた鉤爪を、龍骨剣が貫いたのだ。


「お前は……故郷のみんなを笑いながら切り裂いていったよな」


 鉤爪から龍骨剣を引き抜くと、フィーロはそれを一閃させた。

 鉄龍イーロンの手が、ゴトンと落ちる。


「俺は笑わないが、嬲らせてもらうぞ」


 次の瞬間、フィーロの姿が消えた。

 そして、鉄龍イーロンの赤錆びた鱗が何枚も削り飛ばされる。


「――――――――っ!? ――――!!」


 身体から鱗を皮や肉ごと剥がされ、鉄龍は悲鳴を上げる。

 だが、フィーロが鉄龍の胴体を駆ける度に、鱗が次から次へとめくり取られていった。

 程なくして、鉄龍の身体のあちこちが裸にされ、血まみれの肉が露わになっていた。

 あまりの激痛に、もはや鉄龍イーロンは動く事も叶わなかった。

 翼も根本からへし折られた為、飛ぶことも出来ない。



 フィーロはそれを見届けると、軍船前にいたユージン達の下に戻った。

 そして、コマンディル隊長に声を掛けた。


「団長、死んだ龍騎士団の仇を取れ。あんな強盗と区別がつかないような連中でも、一応は団員だっただろう。今なら、普通の武器でも通じる。(サンソ)は吹き飛ばしておいたから、もう近付いても大丈夫だ」


「いいのか?」


「俺の気は晴れた。鱗は使い物にならないが、骨と皮はまだ何とかなるかもしれない。ただし最後の魂だけはもらっておくぞ。あれは人の手には負えないからな」


「分かった。全員、武器を整え突撃せよ!!」


 龍騎士団の動きは速かった。

 軍船から次々と騎士が出て、団長を先頭に鉄龍イーロンの成れの果てに群がっていく。

 血飛沫が上がり、イーロンの悲鳴が何度も轟いた。


「お前は行かないのか?」


 ユージンだけは、フィーロと共に残っていた。


「だってボク、さっき退団しただろ?」


「そういや、そうか」


「それに、ボクも分はフィーロがしてくれてると思ってるんだ」


「楽でいいな、おい」


「だねぇ」


 あはは、とユージンは笑った。


「まあ、退団した事だし、これからはフィーロと一緒にいさせてもらうよ。残り一頭だし、一番おいしい場所で見せてもらう事にする」


「そりゃ別にいいけどな」


「でまあ無事に終わったら、義父さんに報告して、それから故郷に墓参りだ。その後はボクは旅に出るつもりだけど、フィーロもどうせ暇だろうしついてくるよね」


「……すごいな、お前」


「え、何が? 人生設計? そんな大したモンじゃないと思うけど」


「いや……」


 フィーロは思わず笑いが込み上げていた。


()()()、って俺に言わせない辺りが、流石というか……」



 残り、一頭。

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