新勢力
「待ってもらおう」
洞窟の外に出ると、後ろから騎士隊長が追い掛けてきた。
そして、フィーロを、剣を構えた騎士達が遠巻きに囲んでいる。
「念の為に聞くが、これは俺と戦うって事でいいのか?」
「我らのために戦ってくれないのならば、敵対の意思がありとみなす」
「……ああ、そういう事か」
フィーロはようやく龍騎士団の強気の理由を理解した。
つまり、彼らはフィーロをアテにしていたのだ。
この火山島ディナミットを赤龍鉄龍が不在にしているのは、おそらくフィーロを探しているから。
そしてもし戻って来ても龍と敵対するフィーロが戦えばいい。
が、見当違いも甚だしい。
「そもそも王都での一件は別にお前達に味方をした訳じゃないし、そもそもこんな得体の知れない奴をアテにするとか、どうかしているんじゃないか」
姑息だ、とフィーロは思った。
こんなのが過去、自分が憧れた龍騎士団だったのか。
「この様子だと、赤龍を倒した後、俺がどうなるかも何となく想像がつきそうだ」
龍と戦えば、当然消耗する。
それを見計らってフィーロを捕らえ、実験台にするか新しい武器の材料にするか、とにかくロクな末路は拝めそうにない。
が、フィーロは少々龍騎士団を侮っていたらしい。
「貴様がいなくても、我らだけで龍ぐらい倒せるのだ! 出ろ!」
すると、取り囲んでいた龍騎士達の間から、一際空気の違う騎士達が姿を現わした。
全部で五人……いや、五体か。
外見こそ人間に近いが、その性質はまったく違う。
ある騎士は全身に鱗が生え、ある騎士は太い角と尾を持ち、ある騎士は翼を生やし、ある騎士は他の騎士達の三倍の大きさを備え、ある騎士は全身を電光が走っていた。
「コイツは……」
「驚いたか。『適合者』は貴様だけではない。多くの犠牲を払いながらも、人は前に進み続けるのだ!!」
龍の血か肉を喰らったのだろう。
それで生きていられるとは、大したモノだとフィーロは思った。そういう意味では龍狩になる前のフィーロを遥かに超えた資質の持ち主達だったのだろう。
ただ、ここにいる全員が心得違いをしている。
自分はそもそも、その、『適合者』とやらではない。
「龍騎士団の人数が少なかった理由は、これか。分かった。掛かってこい」
五体の龍騎士が、一斉にフィーロに躍り掛かる。
龍骨剣を構えたフィーロは光龍イルミネントの魂を励起、光の速さで斬り撃ち薙ぎ突き払った。
宙を舞ったフィーロが岩の地面に着地すると、龍騎士達はその場に崩れ落ちた。
「な……」
フィーロは龍骨剣を背負い直すと、絶句する騎士隊長に向き直った。
「人相手なら無双出来ただろうが、龍相手じゃそうはいかない。……お前達、こんな玩具で本気で龍に立ち向かおうとしていたのか?」
龍騎士達を見回すと、彼らはその視線を恐れるように、後ずさった。
「……龍を殺すなら、もっと必要なモノがあるだろうが」
毒を吐きながら、フィーロは彼らを無視し、海岸を目指した。
自分が乗ってきた船に向かっていると、巨大な軍船が突っ込むように停まった。
そして、甲板から飛び下りてきたのは、龍の甲冑を着込んだ金髪の親友、ユージンだった。
「フィーロ!!」
「ああ。お前は敵に……回りそうにないな」
「当たり前だろ!? 何言ってるのさ!?」
この驚きっぷりは演技じゃない。
どうやら、先行していた龍騎士団は、ユージン達の知っているそれとは少々異なるようだ。
「いや、その当たり前の事にちょっと不信が入ってた。とにかくここは危ない。逃げた方がいい」
軍船の脇が開き、三十代半ばぐらいの騎士が、他の騎士を率いて下りてきた。
確か龍騎士団長コマンディルだったか。
「久しぶりだな」
特に愛想を振りまく仲でもないが、苛立たしげな挨拶だった。
いや、苛立っているのはフィーロに対してではないのだろう。
「……ああ。アイツら、ここにあった龍の卵を割りやがったぞ」
フィーロの報告に、コマンディル団長はサッと顔を青ざめ、部下の騎士達を振り返った。
ここに来た龍騎士団がやった事の意味を、即座に悟ってくれたらしい。
「全軍、王都に撤退!!」
「アンタ、話が早くて助かるよ」
さすが団長だけあって、有能のようだ。
それにしても来たばかりで帰還とは、忙しいことだ。
「何という愚かな行為を……これは龍騎士団全員の意思ではない。一部貴族と武器商人、それに魔導師達が……」
「俺に釈明してどうする」
「そうだな。我々は王都に帰還し、急いで対策を練らねばならん。おい、ユージンどうした。早く船に乗れ」
団長が促すが、何故かユージンはフィーロの側を離れなかった。
「すみません、団長。ボクは、これからフィーロと共に行動します」
「危ないぞ?」
我ながら今更だな、と言ったフィーロも思わないでもなかった。
ユージンは微笑み、首を振った。
「王都もこれから危なそうだ。大して変わらないよ。それに龍騎士団に入った理由はフィーロと同じ、赤龍を倒すためだ。でも多分、龍騎士団にはそれは適わない。だから、せめて倒せる奴の傍で見て、鬱憤を晴らす事にする。もしかしたら、何かの助けになれるかもしれないしね」
「そうか。お前は、さっきあっちで倒した連中よりよっぽど必要なモノを持ってるな」
「?」
ユージンはキョトンとしている。
「団長……ええと、コマンディルさんだったか。いいか」
「いいだろう。龍騎士団団員ユージン。貴様を団から除名する」
コマンディル団長は、あっさりとユージンを龍騎士団から外した。
「ありがとうございます!!」
「一応不名誉なんだがな」
晴れ晴れとした顔のユージンに、コマンディル団長も苦笑いを浮かべた。
ただ、今は和やかな空気を作っている状況ではない。
「長々と話をしている場合じゃないぞ。すぐにでも赤龍が……」
空を黒い塊が走ったかと思うと、空に浮かんでいた飛行船が爆発した。
大きな残骸が落下し、財宝を運んでいた龍騎士団が悲鳴を上げる。
「……遅かったか」
フィーロは、龍骨剣を背中から抜いた。
空を舞っていた鉄の鱗の黒い龍も、フィーロに気づいたようだ。
「鉄龍イーロン。まずはお前の相手が先のようだな」




