醜悪な行為
龍騎士の一人が、フィーロの存在に気づいた。
ざわ……と龍騎士団全体がざわめく。
そこから先の反応は早かった。
人の集まりが二手に分かれ、フィーロの行く手を開いていった。
面倒事にならずに済んで、フィーロとしては助かる話だった。
幾人か好戦的な騎士がいたが、大抵は周りの仲間に止められていた。
龍騎士団が出入りしている赤龍のネグラは、黒い岩山に開いた大きな穴が入り口だった。
そのまま緩やかな斜面を下っていくと、これまで以上に大きな空洞に到達した。
何やら音がするので見てみると、龍騎士団が何やら作業をしているようだった。
「うん……?」
胸元の龍卵が反応し、より深くフィーロの懐に潜り込んだ。
何やら怯えているようだった。
一体何が……とよく見て、龍騎士団のしている事に気がついた。
彼らは、赤龍の卵を破壊していたのだ。
「お前ら、何してるんだ!?」
見て分かってはいたが、フィーロは思わず叫んでいた。
無抵抗なそれを龍騎士団が壊していく様は、龍が故郷の人間を灼き殺していく光景を思い起こさせた。
「馬鹿が……アンタら、自分達が何をしているのか、理解しているのか?」
すると、指揮を執っていたらしい騎士隊長が、声を張り上げた。
フィーロが知っている騎士団長コマンディルではない。
「わ、我々は、将来の禍根を断とうとしているのだ!! それの何が悪い!!」
だが、フィーロの怒りに当てられたか、その声は引きつっていた。
「そいつは立派だな。せいぜい頑張れ。俺は龍を狩りに来たんだが、もしも俺が死んだら、今度は国が滅ぶ番だぞ」
ざわ……と緑色の鱗を持つ龍の死体を運んでいた龍騎士達が足を止める。
壊された卵の母親だろうか。
おそらく龍騎士達に殺されたのではなく、出産に母体が持たなかったモノだなとフィーロは見て取った。
騒いでいる龍騎士達は、何故国が滅ぶことになるのか、本気で分かっていないようだった。
「……いくら何でも全員が馬鹿って筈がないだろう? 絶対誰かが止めたはずだ。この光景を見て、龍が怒らないと思っているのか? 子供を殺されたんだぞ!? 復讐に来る赤龍を、お前達は止められるんだろうな!!」
今のフィーロには、龍への復讐心よりも龍騎士団への不快感が圧倒的に上回っていた。
人間なのに、いや、人間だからこそ、この行為が許せないでいた。
覚悟すら持っていない力なき者を、集団で蹂躙する。
それは、フィーロにとっては精神的外傷に塩を塗り込められるに等しいモノだった。
踵を返し、今来た道を引き返す。
その背に、騎士隊長が声をぶつけてきた。
「どこへ行く!!」
「帰るんだよ。俺はそんな余所に怒りを向ける龍と戦うつもりはない。何より龍の留守を狙って卵を壊すような、卑劣なお前達と一緒にいたくない」
「貴様、龍騎士団を侮辱するか!!」
「神に誓ってこの行動を恥じていないのなら、名誉と誇りを掛けて向かってこい。尋常に勝負してやる。別に後ろから斬りかかってきてもいいぞ。そっちの方が、お前達にはお似合いだ」
言い捨て、フィーロは出口に向かった。




