光龍イルミネント
「それでも進むのが、龍という生き物」
脇に立っていたフィーロの呟きが響き、奥に進んでいた光龍イルミネントが、こちらを見た。
二度に渡って龍と戦い、フィーロは理解した。
基本的に龍は馬鹿だ。
罠を仕掛ければ、ほぼ間違いなく引っ掛かる。
だがそれも、無理もない。
龍はこの世界における頂点捕食者だ。
人間の小賢しい知恵など、正面から突破する。
龍に対抗出来るのは龍だけだが、互いが争い合う事もほとんどない。
故に驕る。
龍を倒せる者など、いないのだと。
小細工など、無駄だと。
まあ、実際、矢、槍、落とし穴、待ち伏せ、毒ガス等々、ほとんどの罠は仕掛けたところで通じないのは事実だ。
だから、龍狩である自分が、大量の魔物を討ち滅ぼし、龍ですら登るのが困難な洞窟に誘い込んだら、あっさり引っ掛かった。
何しろ、罠への耐性がまるでないのだから。
光龍イルミネントを殺す方法は、それほど難しくない。
敵の性質を分析した時、フィーロはそう結論づけた。
侮っているわけではない。
光龍はその名の通り、光輝く龍だ。
主な攻撃は口から吐く光線であり、防御面でも空龍ポイゾと同じくその身体の構造の半分が光そのものであるが故、物理攻撃の威力が半減する。
そして、王都の時のような例外を除いて、昼の行動を好む。
その理由は明白だ。
「知っているぞ」
フィーロは、龍骨剣を光龍イルミネントに突きつけた。
「たとえ龍であっても、生物である以上体力は有限だ。そしてお前の最大のエネルギーになるのは、太陽の力。だからこそ、お前は昼を好み、光を集める」
実は、一番単純にこの龍を倒す方法は、本人も危惧した通り、生き埋めにすることだ。
ただそれをするには、地面そのモノを破壊する強大なパワーが必要となる。
そこまでの力はまだ、フィーロにはない。
それに次ぐ策として、彼らが下ってきた傾斜のある洞窟、これ自体を塞ぐ。
これならば、油龍ベニバナと空龍ポイゾの魂を魂を励起させ、これらを洞窟内に満たし一気に爆発させるという手が使えた。
光龍はこの空洞に閉じ減られ、いずれエネルギーを失い衰弱死する。
最も安全で、確実な策だ。
が、フィーロはそれを捨てた。
理由は明白で、自分がスッキリしないからである。
自分の家族を灼き殺した龍が、そんな自分の見えないところで弱って死ぬ、というのがどうのも納得がいかない。
やはり自分の手で狩らなければ、気が済まなかった。
「お前をやるのは、そういう理由だ」
うっすらと漂う氷霧の中、目の前の人間は光龍にそう説明した。
馬鹿め、と光龍イルミネントは嗤った。
龍を殺すなら、その手を使えばよかったのだ。
ただでさえ少ない勝機を逃すなど、愚か者のすることだ。
だが、いいだろう。
それならば、望み通り己の光線で相手をしてやる。
この、暗闇の中だ。
そう長くは遊んではいられないが、人一人をやるには充分だろう。
鎌首をもたげ、口内に光を溜める。
そこで違和感を覚えた。
人間の、逃げる気配がない。いやそれどころか、避ける気配もない。
舐められている。
光龍の頭に、カッと血が上った。
口の中で収束した光を、生意気な人間目掛けて一気に解き放った。
白い氷の霧を切り裂き、狙い違わずそれは眼下の人間に命中した。
そして――
「もう一つ、知っている事がある」
龍骨剣で己の身体を守りながら、フィーロは言った。
龍骨剣の表面がうっすらと煙を立てるが、融けるほどの出力はなかったらしい。
フィーロの読み通り。
「雪山で吹雪に遭った時は、太陽の日が届かないことがある。あれは何でかっていうと、雪が光を反射してるんだってな。氷龍コーラスに聞いた」
つまり。
「ただでさえ、ここに来るのに力を消耗し、今も現在進行形で弱り続けている上、氷霧に遮られた光の攻撃なんて、ほとんど通じないって事だ」
それでも人間ならば充分な殺傷能力だろう。
ただしそれも、まともな人間ならばの話。
龍狩として、白龍の鱗を持ち、かつ他にも二つの魂を喰らった自分にならば、充分耐えきることが出来る。
激昂した光龍が、鉤爪で攻撃してくる。
だが、基本光線で灼く遠距離攻撃を主体としてきたせいだろう、その動きもはいかにも甘い。
これならば、油龍ベニバナの方が早かった。
そう感想を抱きながら、自分を引き裂きに来た爪を龍骨剣で手首ごと払い斬った。
斬った手首は光の粒子となって闇に散り、本体の方で即座に回復した。
「が、それもどこまで持つ?」
わずかに、光龍イルミネントの身体が、薄く翳ったのを、フィーロは見逃さない。
ジリ……と光龍が後ずさりするタイミングで、フィーロは踏み込んだ。
どうする。
どうすればいい。
フィーロの猛攻に身体を切り裂かれながら、光龍イルミネントは必死に考えた。
敵はすばしっこく、直接の攻撃を当てるのは困難だ。
かといって光線が氷霧に拡散され、無力化されているのも証明された。
いや待て。
そこに、イルミネントは光明を見出した。
奴の言っている原理が真ならば、通じる手がまだある。
残るは、確実に当てるための足止め。
やれるか。
否、やるしかない。
そう肚を決め、光龍イルミネントは残った力を集約させる。
大きく光龍が後ろに跳び、距離を取った。
重い音がドームに響くが、よほど頑強なのか微かに天井の埃が落ちるだけでビクともしない。
そして次に龍が取った行動は、突進だった。
ただの突進ではない。
フィーロが迎え撃つ構えを取った瞬間、その身体が眩く輝いた。
一瞬の硬直を見逃さず、光龍イルミネントは口の中で極限まで束ね、細めた光線を放った。
それは氷霧すら貫き、地面すら深く切断する必殺の収束光線。
勝った!! とイルミネントは確信した。
「見事だ」
フィーロは、身を翻してそれを回避した。
そして、突進が始まった時から瞑っていた目を見開き、その勢いを殺さないまま、必殺の剣を放った。
「火砕、撃――!!」
光龍イルミネントの脳天から顎までを、一気に両断する。
衝撃波が剣の長さを凌駕し、その胴と尾もまとめて切り裂いた。
遠くの岩壁が、鈍い音を立てる。
一瞬、光龍は元の姿に戻ったが、それが最後の力だったのだろう。
そのまま光の粒子となって、散ってしまう。
同時にその身が内包していた、殺された人々の魂も解放されていく。
やがて、掌サイズの光球が残ったが、これが光龍イルミネントの魂なのだろう。
フィーロはそれを喰らう。
首飾りに繋がっている龍卵が、興味深そうに浮いた。
「……いや、別に美味い訳じゃないぞ」
フィーロは革袋を取り出すと、ドームの隅にあった財宝の山を回収した。
そして洞窟を長い時間を掛けて脱出した。
残り、二頭。




