流浪人ヨーフ
「チッ……」
舌打ちの音に、フィーロは振り返って飛び掛かった。
「あ、フィーロ!?」
ユージンが悲鳴を上げる。
相手が誰かも確かめず、ほぼ反射的な攻撃だった。
が、視界が一回転し、背中から地面に倒れ込む。
「……間に合わなかったか。それにしてもよく生き残りがいたなぁ」
のんびりとした声。
仰向けになったまま顔を上げると、大きな背中があった。獅子のたてがみのような灰髪に、肩に大きな剣を担いでいる。
「だ、だれ?」
向こうからユージンが、男に尋ねている。
「俺はヨーフ。基本的には隠居だが、時々剣士もやる」
「いんきょ……」
ユージンが呆然とした声を上げている。フィーロは立ち上がり、男――ヨーフに背後から襲いかかった。
が。
「龍にやられたな」
こちらを向かないまま、軽々と振り抜かれた鞘入りの剣に弾き飛ばされてしまう。
「龍って、あのおおきなばけものですよね?」
「ああ。あとお前さんはいい加減落ち着け」
頭上から何かが降ってきたと思ったら、脳天に激痛が走った。
「~~~~~!?」
たまらず、フィーロは頭を抱えてしゃがみ込んだ。多分、さっきの鞘入りの剣だ。
そのまま首根っこを掴まれ、ユージンの横に転がされた。
「で、どうするお前ら。幾つか選択肢があるが」
「アイツらをころす」
フィーロは立ち上がり、即座に宣言した。
「ちょ、フィーロ!?」
「みんなの仇だ。ぜったいころす」
フィーロにとってこれは、決定事項だった。
「で、でもどうやって!? あんな、前にみなと町でみた船より大きなばけものなんだよ!?」
「ねこみをおそう」
「坊主。水を差すようで悪いが、そんなのじゃ無理だ。連中の鱗は硬いから普通の刃物はまず弾かれるぜ」
「…………」
なら、他の手を考えないといけない。
考え込んでいると、正面の男はニヤリと笑った。
「連中を倒すには、今んトコ二つだが、現実的には一つしかねえ。この国の龍騎士団に入団することだ」
「りゅーきし?」
キョトン、とユージンが首を傾げる。
「ま、どっちにしても試験の為に強くなる必要がある。何かの縁だ。強くなりてえなら、稽古つけてやるぜ」
「やる」
フィーロは即答。
「じゃ、じゃあ、ボクも……」
おずおずと、ユージンも手を挙げた。