氷龍コーラスの大宮殿
北西の港町タイリョーから走ること数日、フィーロはそのまま霊峰ヒエタを登った。
赤龍は火の龍であり、冷たさにはさすがに弱い。
どうやら山の手前で足止めを食っているようだった。
そして霊峰の奥には巨大な洞窟があり、さらにその奥には氷で出来た宮殿があった。
フィーロを出迎えたのは、豪華な着物を羽織った銀髪の老人だった。
「ようこそ、我が宮殿へ。儂が氷龍コーラスじゃ」
「人間?」
「ふぉっふぉっふぉ、娘が星を詠んだからの。人の形に作り替えておいたのじゃよ」
「娘……」
見ると、コーラスの背中から銀髪の美しい娘がこちらを伺っていた。
年齢は十七、八ぐらいだろうか。氷龍コーラスと同じような、着物を着ている。
「白龍フリゼの妹、雪龍スノウじゃ。これ、挨拶せぬか」
だが、コーラスの声にススッと彼女は隠れてしまった。
「無理にしなくてもいい。俺は、フィーロだ。あんた……貴方達の家族を返しに来た。これが孫だ」
フィーロは、龍の卵の首飾りをコーラスに返した。
「かたじけない」
「フリゼの魂は俺に溶けてしまったから、返す事は出来ない。すまない」
「よい。戻って来てくれただけで、儂らは満足じゃ。のう、スノウ」
「…………」
コーラスの背中から再び姿を出したスノウは、フィーロに向かって小さく頷いた。
「しかし、赤龍に掠われた娘の経緯についてはその口で語ってもらいたい。よいか?」
「それぐらいなら、お安いご用だ」
「ふぉふぉふぉ、では奥の間へ行こう。人間用の料理も用意してある」
「助かる。ここまで走り詰めだったんだ」
氷龍コーラスの言う通り、食堂らしき広間には低いテーブルに料理が広げられていた。
どうやら藁を編んだような床に直に腰を下ろし、食べる形式のようだ。
雪龍スノウはフィーロの隣……と言うにはやや離れすぎている場所に、侍っていた。
「……しかし何故、赤龍から逃れた後、娘は素直に北へ向かわず、南の大樹海へ向かったのじゃろうか」
氷龍コーラスの疑問に、フィーロは約束通り、答える。
「北には既に、空龍や鉄龍が待機していたらしい。それで裏をかいて、しばらく南に潜もうとしていたんだ。結局、見つかってしまったが、考えとしては悪くないアイデアだったと思う」
「これから君は、どうするのかね」
グラスに注いでもらった酒を飲みながら、フィーロは即答した。
「赤龍を討つ。故郷を滅ぼしたので、その復讐だ」
「そうか」
「止めないのか」
「止めてどうする。戯れに家族を殺され、それを許せなどと誰が言えるか。そも、儂の身体さえ健常ならば、自ら奴を討ちに行っておったわ。むしろ、娘の分まで頼む」
氷龍コーラスは、頭を下げてきた。
「ああ」
フィーロも、頷き返した。




