作戦成功と逃走
龍達は一斉に襲いかかってきた。
もちろん、フィーロも勝てるとは思っていなかった。
ので、ここからは逃げに徹することにした。
四頭の龍をいなし、王都の外周に沿って再び時計回りで南へ向かう。
フィーロの後ろを赤龍達が追う……が、追いつけない。
リーチ、歩幅では大きく有利な龍達だが、それ以上に体重差がモノを言った。
中身は龍でありながら人間サイズであるフィーロは、こと素早さに掛けては圧倒的なアドバンテージを有しているのだ。
王都から離れ、さらに南下するとやがて大きな崖が見えてきた。
そしてその手前には龍騎士団の飛行船が浮いており、白龍の死体を置いているところだった。
一旦バラされていたそれは、加工前だったからだろう、可能な限り原型に近い形に戻されていた。
「さっさと逃げろよ、飛行船。巻き込まれるぞ」
飛行船がさらに上昇し、王都に戻っていく。
一方フィーロは死体の前で急ブレーキ、百八十度反転し、ずいぶんと引き離した赤龍達を待った。
それからふと思いついた。
本当は崖から捨てようかと思ったが、うっかり海に出た時、この肉を漁師が獲ってしまっても事だ。
死体の上に立つと、油龍ベニバナの力を解放し、手から大量の油を分泌した。
当然ながら、それは足下の白龍の死体を濡らしていく。
「こんなもんか」
龍騎士団が目印に置いて行ってくれた松明を手に取った。
待つことしばし、赤龍達がやっと追いついてきた。
「遅かったな」
白龍の死体を見て、赤龍が吠える。
だが、近づけない。攻撃出来ない。
何故ならば、白龍を覆う油に気づいたからだ。フィーロのもつ松明に気づいたからだ。
攻撃すれば、白龍の死体も炎上してしまう。
その、赤龍らの躊躇を見抜いた上で。
「そして、残念だったな」
いともあっさりと、フィーロは白龍の死体目掛けて、松明を投げた。
松明の火は油に引火し、勢いよく死体が燃え上がる。
赤龍が、絶叫した。
通常の油なら、死んだとしても龍の身体、そう易々と燃えたりはしない。
だが、濡らしていたのは龍の油だ。
元より熱との相性が悪い白龍の死体は、見る見るうちに焼けていった。
そしてもはや手遅れと、互いが悟った所で、赤龍は怒りの炎をフィーロ目掛けて放とうとした。
同時に光龍も口も光線を溜め、空龍も引火性毒ガスを吐き出す寸前だ。
鉄龍は待機していたが、炎がやむと同時に突進してくるのは明らかだ。
そんな状況だが、フィーロは平然としていた。
「まあ待て」
言って、フィーロは首に掛けていた、龍の卵の首飾りを見せた。
「俺を攻撃すると、お前の娘が困った事になるぞ?」
炎を吐きかけた態勢のまま、赤龍達が硬直する。
白龍の死体がほとんど灰になるのを見計らい、フィーロは後ろに跳んだ。
断崖絶壁の崖であり、一番下には激流がある。
「さすがに、四頭同時に相手にするつもりは、俺にはないからな。いずれまた会おう」
そう捨て台詞をぶつけ、フィーロは自然落下に身を委ねた。
何度目かになる赤龍の絶叫を耳に、今晩はよく眠れそうだ、と思うフィーロだった。
こんなにスカッとした夜は、久しぶりだった。




