王都防衛隊
「いいか、何としても市民を守り抜け! ここが正念場だぞ!」
副団長が声を上げていた。
その声に、大きな声で皆応じるが、実際声でも上げないと、震え上がりそうになっていた。
何しろここは、襲撃してきた四頭の中でもボス格である赤龍の担当だ。
「炎、来るぞ!!」
直後、猛烈な炎が斜め頭上から降り注ぎ、盾をもっていたにも関わらず、最前線の龍騎士達が派手に吹き飛ばされた。
そのまま、後方の騎士達の頭を越え、家の窓や木樽にぶつかって動かなくなる。
だが、幼い頃あの赤龍を見た事があるユージンには分かる。記憶に刻まれている。
まだ、赤龍は一割も力を出していない。
ただ、ゆっくりと前に進み、邪魔なモノは適当に蹴散らしながら、こちらの戦力を見極めているのだ。
「陣・四方尖塔、貫け!!」
ユージン達の一つ前の隊が駆け、剣を構えたまま跳躍した。
喉笛一点を狙った、集中攻撃だ。
また左右後方からも同じ攻撃が、赤龍の胴体や背を狙う。
だがそれを見計らったように、赤龍は口を開いた。
頭をわずかに下げ、口奥からの火炎を吐き出す。
喉を狙った龍騎士達はまとめて炎に焼かれた。
龍の鎧も役に立たない高火力で、地面に落ちきるより前に彼らは燃え尽きてしまっていた。
身体を狙った龍騎士達の剣は、確かに突き刺さった。
先端だけだ。
面倒臭そうに赤龍が身体を振るうと、彼らはゴミのように吹き飛ばされた。
それを見て、ユージンの近くの誰かが、ゴクリ、と唾を飲み込んでいた。
それはそうだろう、とユージンは思う。
これまで、龍騎士団は多くの龍を屠ってきた。
が、それは一対龍騎士団全員の戦いだ。
それも、事前に地形や龍自身の戦力特性を見極め、初撃は寝込みを襲うなどといった、勝率を確実に上げてからの戦い方だった。
それは卑怯ではない。
人間が龍に抗うのならば、当然の知恵、人間の戦い方だ。
だが、だからこそ。
複数の龍を同時に相手取る、などという戦いは龍騎士団にしてみれば、本来有り得ない。
龍も、その多くは単独を好む。
学者によれば、近くに棲んでいては獲物の奪い合いになり、最終的に互いに殺し合うことになるから、という話に、ユージンも当時納得したものだ。
王都を襲う龍もたまに現れるが、それもやはり単独だ。
そういう意味では、ユージンの故郷が焼き滅ぼされた時の群れ、あれは例外中の例外。例えるならば、噴火と暴風と豪雨と津波と地震が一度に襲ってくるレベルだったと言ってもいいらしい。
……が、今回は、その例外の再来だった。
赤龍、鉄龍、光龍、空龍の四頭の同時襲来。
否が応でも、龍騎士団も四つに分散させられた。連中をまとめて合流させるなど、人間が出来るはずがない。仮に出来たとしても、それは攻撃力が四倍になるという別の絶望に過ぎない。
加えて見通しの悪い夜の戦闘。
怯えの風が吹いても、仕方がない話だ。
「だ、第四隊前へ!!」
副団長が声を引きつらせながら叫ぶ。
ユージン達の番だ。
腹を括る。
全員が、剣を構えながら前に出る。
それでも逃げようというモノがいないのは、さすが試験を通過し、厳しい修行と実践を経てきた矜持があるからだろう。
そして、自分達が下がれば、王都は崩壊する。そんな事には耐えられない。
とはいえ。
この龍騎士団の被害が、これまでになく大きい物になるだろう事は、ユージンの想像にも難くなかった。
赤龍は、再びこちらに向かって歩き始める。
何だか、やれやれ、とでも言いたげな吐息を漏らしながら。




