故郷喪失
焦げ臭い臭いが鼻についた。
気がつくと、フィーロは母の下敷きになっていた。
「えっと……?」
記憶が曖昧だ。
爆風で吹き飛ばされ、フィーロは草原に転がった。ユージンも同じだ。
だがすぐに立ち直り、二人で炎の中に進んだ。
故郷は焼け野原と化し、人間が幾つも黒く焦げて転がっていた。
そして炎の中、山のように巨大な赤い龍が近付いてきていた。
「え……なに、これ……」
ドラゴンは他に四匹、赤龍ほどではないが、それでも充分巨体のそれが後ろに控えている。
黒く光る龍が舞い、その鉄のような鱗でテントを中にいた人ごと切り裂いた。
テラテラと全身濡れた龍が口から透明な液体を吐き出すと、炎が引火して逃げ惑う人々を生きたまま焼いていく。
半透明の龍の呼気に、みんな胸を押さえて倒れていっていた。
眩く輝く龍の口から吐き出されるのは光線で、人間は焼けるどころか跡形もなく消されていた。
赤龍の口が開き、炎がチロチロと漏れる。
その口が、更なる熱気を帯びる。
「フィーロ……ユージン……」
足下で、聞き慣れた声がした。
「かーさん……!?」
「いきて」
その声と共に、母らしき影は二人に覆い被さった。
直後、視界が真っ黒に染まる。
呼吸が出来ない。
肉の焼ける音と強烈な臭い。
そして、フィーロは気絶した。
隣のユージンはまだ、気絶している。
……自分に覆い被さっていたそれをどけ立ち上がると、故郷の面影はどこにもなかった。
熱は幾分引いたもののまだ真夏のように熱く、そして見渡す限りの焦土だ。
無事なテントは一つもなく、生きている者は自分とユージン以外一人も無い。
そして、自分に覆い被さっていたのも、真っ黒焦げになった人の形をした何かだった。
長い長い悲鳴が上がった。
それは、フィーロ自身が上げている悲鳴だった。