龍卵奪還
日が沈んだ頃に王都コキューについたフィーロは、そのまま王城を目指した。
城壁を跳び越え、城の中に侵入する。
あまりに大胆すぎ、逆に警備の人間も気づかなかった。
卵の気を探り、フィーロは豪華な部屋に辿り着いた。
そこは、王女の部屋だった。
キラキラ光る金髪の、美しい娘がそこにいた。今のフィーロと同じぐらい、十五歳ぐらいか、服装からも王女で間違いはなさそうだ。
首には、白い宝石のような卵を飾った、首飾りがあった。
「その、首飾りを返してもらいたい」
悲鳴を上げられる前に、フィーロは単刀直入に用件を切り出した。
「暗殺者ですか。わたしは脅迫には――」
思った以上に、気丈な性格のようだ。
「正当な持ち主の所有者に、返してもらいたいだけだ。お前の命に興味はない」
「これは、龍騎士団から龍を狩ったその成果にと頂いたモノです。正当な所有者とは誰の事ですか」
「それは、俺の中の白龍で……いや、いい。話すだけ無駄だ。とにかく返せ」
これは気絶させた方が早いか、とフィーロが考えた時だった。
「貴方は……」
ぽかん、と王女が口を開けていた。
「何だ」
「そちらの、首飾りです」
彼女は、フィーロの首に掛かった銀色の首飾りを指差した。
「これか」
魔除けの効果があるようで、戻らずの大樹海で修業をしていた時には、とても世話になった。
「憶えていませんか。ずっと前、オキナ山で薬草になる花を採ってきて頂いた」
「ああ、プリプラム」
本来の、所有者だった。
「プラムです! 本名はプリセアですけど、偽名でした! ああ、まさかこんな事って……!」
プリセアは、この国の王女の名前である。
何故か彼女は顔を赤くして、狼狽えていた。
「おい、話を聞け。俺はその卵を返してもらいたいだけだ」
「どうぞ!」
あっさり返してくれた。
用事は終わった。
「ああ。じゃあな……って、その手は何だ」
プリセアの手が、フィーロの腕を掴んでいた。
「せっかくですから、お話でも」
「特に、話す内容はない」
それよりも、龍骨剣の在処の方が重要だった。
気を探れば、見つかるはずだ。
しかしそんな事にはお構いなしに、プリセアは質問してきた。
「何故、若返っているのですか?」
「言っても信じてもらえないだろう」
「話してみなければ分かりません」
「龍の力を取り込んだ。そうしたらこうなった」
「そうなんですか」
あっさりと、信じた。
「疑わないのか」
「何故、疑うのです?」
「普通、龍の力を人間は……まあ、いい」
「そういうのはよくありません。最後まで話して下さい」
「……やれやれ」
下手に騒がれても面倒臭いので、フィーロはこれまでの経緯を話す事にした。
やはり疑う様子もなく、時折ふんふんと相槌を打ちながら、プリセアはフィーロの話を聞いていた。
彼女が怒ったのは、フィーロが試験に落ちた時だった。
「納得がいきません」
「俺もいまだに納得がいかないが、素材を無駄には出来ないという事情も分からない訳じゃない。同じ大きさに揃える方が、確かに加工も楽だ」
そういう意味では、フィーロも多少、大人になったと言える。
多分、あの出来事があるから今の自分がここにいるのだという、余裕もあるのだろう。
「私の一存では決められませんが、龍騎士団に入っては頂けませんか?」
「ないな。それは、誰も幸せにならない」
フィーロはプリセアの提案を一蹴した。
「そう、ですか……あの、戻らずの大樹海での出来事というのは……その、うちの龍騎士団が……」
「別に恨んじゃいない。あの時の俺は化物同然の姿だったし、狩られて当然だろう。白龍フリゼは龍として狩られただけの話だ」
あの争いでの怒りは本物だったが、済んだモノは仕方がない。
フィーロは、銀色の首飾りの上に、龍の卵の首飾りもつけた。
「ただ、白龍フリゼの魂は俺の中で生きているし、だからこれを取り返しに来た。龍騎士団がこれを再び取り戻すというのなら……悪いが俺は、龍騎士団と敵対する事になる」
「うらやましいです……」
「……今の話の中で、その台詞が出て来るポイントが、心底理解出来ないんだが」
人の話を聞いてたか? とフィーロは問い返した。
「だ、大丈夫です。卵を盗みに来た賊については、適当な容姿を説明しておきます。だから、捕まらないで下さいね?」
「……奪った本人から言われるのも、複雑な気分だがお言葉に甘えさせてもらう」
「甘えて下さい。それで、赤龍を倒したら、その後はどうするおつもりですか?」
「二人目」
思わずフィーロは呟いていた。
何だってこう、本人以上に皆、自分のその後を気にするのだろう。
「はい?」
「正直決めていないが、親父への報告と故郷への墓参りはするつもりでいる」
「分かりました。オキナ山へは向かうと」
「何故、そんなに張り切る」
「個人的な事情です」
話は終わり、龍骨剣の在処に向かう事にした。
場所に関しては、プリセアが教えてくれた。
「その龍骨剣なら、おそらくは宝物庫です。それから白龍の遺骸はまだ、保管庫の中だと思います」
「そうか。城には迷惑を掛ける事になる」
「はい。ですが、逆らうよりは被害は少ないと思いますし」
「賢明な判断だ」
よし、とフィーロは部屋の外に出ようとして、振り返った。
普通に後ろに、プリセアがついてきていた。
「……何故、付いてこようとする?」
「いけませんでしょうか」
「あまり、いいとは思えないんだが……」
さすがに困るフィーロだった。




