フルイを発って
テントに戻ると、長老とチリョが土下座した。
「孫を助けて頂き、本当にありがとうございますじゃ」
「ございました」
が、そういう事をされても、フィーロは困る。
「俺の都合もあったし、何より飯食わせてもらった恩だ。気にしないでくれ」
「しかし、そういう訳には」
それから長老はふと、いい事を思いついたと拳を打った。
そしてチリョを見た。
「そうじゃ。孫を嫁にやるというのはどうじゃろうか。儂が言うのもなんじゃが、なかなかの器量よしじゃ」
「……龍の生贄にされた子を、龍を殺せる奴に捧げてどうするんだ」
本末転倒じゃないか、とフィーロは内心ツッコミを入れていた。
「しかしこの子も満更ではないようじゃぞ」
「そんな事はない」
やけに赤い顔で、チリョは首を振った。
そのまま、顔を俯ける。
「でも、恩返しにしては、お釣りが大きすぎるとはチリョも思う」
「じゃのう」
何だか、二人揃って乗り気のようだった。
いや、とフィーロは気づいた。
テントの外で様子を見ていた、集落の民達も何だか盗み聞きをしているようだ。二人どころではない。
「しかし、俺にはやるべき事がある。俺と一緒になったら、巻き込むことになる。それは駄目だ」
「やるべき事、と言うのは」
「赤龍を殺す」
二人が絶句する。
分かったはずだ。
赤龍を敵に回せば、この集落も焼かれるかも知れない。
天秤がどちらに傾くかは、自ずと分かるというモノだ。
「フィーロ様ならば、やれるような気がするのじゃ」
……どうも、フィーロの思惑とは違う方向に、天秤が傾いているような気がする。
「様はやめてくれ。とにかく恩は返したし、そろそろ行く」
フィーロが立ち上がると、長老とチリョは驚いた。
「も、もう? いくら何でも、早すぎやせぬか!?」
「元々、荷物もないからな。気楽なもんだ」
「チ、チリョ!」
「う、うん!」
長老の言葉に、チリョはテントを飛び出した。
テントを出る。
思った以上に早く、油龍を倒せたので太陽な少し西に傾いた程度だ。
「待って」
チリョに渡されたのは旅袋だった。
「これは?」
「旅の生活具と弁当。龍を殺すというのなら、武器防具の類は意味がないと思った」
「そういう事ならありがたくもらっておこう」
「そうして。それから、全部終わって行く所がないなら、うちに戻って来ていいから。歓迎する」
そう言われて、フィーロは自分の迂闊さに初めて気がついた。
「そうか。……殺した後の事までは考えてなかった。考えておく」
「ええ、気をつけて」
そしてフィーロは出発した。
今度の目的地は、王都だ。
まずは白龍フリゼの卵と、龍骨剣を奪還する。
身体が軽いのは、新しい力が自分に宿ったからだろう。
油龍ベニバナを倒した時のことを、思い出す。
氷となって砕けた龍から、無数の光の粒が立ち上った。
油龍ベニバナに喰われていた、人々の魂だ。
それが、解放されていく。
そして残った一際大きな光の球、荒ぶるそれはベニバナ自身の魂だ。
フィーロはそれを、飲み込んだ。
白龍フリゼの魂のように、自分の魂に融かしたりはしない。完全に消化した。
それが、フィーロの新たな力。
フリゼのみの時よりも、格段に体力が上がっている。
おそらく戦闘力もだ。
だから、フィーロは確信する。
「俺は、まだまだ強くなれる……!」
そして、これまで以上に強くなり、必ず赤龍を倒すと改めて心に誓った。




