性能
翌日、日も昇らない早朝からフィーロは遺跡の点在する山へ狩りに出かけた。
馬でチリョもついてきたが、その弓の出番はなかった。
「すごい」
山のように獣や山の幸を狩り、それを積み上げる。
「ひとまず飯の恩にはなったと思う」
「そうね。当分、食べるには困らないわ。でもこの辺は気温が高いから、こんなにあってももたないと思う」
フィーロは、食材の山に指を当てた。
指から力を注ぎ込むと、食材の山が氷漬けになった。
「これでいい。合い言葉を教える。唱えたら解凍される。唱えなかったら一年はもつだろう」
ぽかん、と口を開けたチリョが、フィーロに尋ねた。
「フィーロ魔法使いだったの?」
「魔法使いじゃないし、これは魔法じゃない。ただ、魔法に見えるだろうな。俺も以前ならそう思ったはずだ」
もちろんこれは、フィーロの魂と融け合った、フリゼの力だ。
獣を狩る時の力も、コツや知識こそは人間のモノだったが、その力はフリゼの龍の力によるモノだった。
あの沼の底で、フィーロはフリゼの魂を喰らい、そして確かに自分のモノにしていた。
その中には彼女の記憶や、娘への思いも引き継いでいる。
「ありがとう」
「飯の恩だ。そしてこれから宿の恩を返す」
礼をいうチリョに肩を竦め、フィーロは山の奥を目指した。
「どこ行くの」
「大体の性能はつかめた。準備運動も終わったことだし、そろそろ本番に行く」
剣こそないが、やはり素手でも戦えそうだ。
手刀よりも、爪で削ぐ戦い方の方が、いいだろう。
「まさか」
「そのまさかだ」
チリョも察し、後ろをついてくる。
「龍には勝てない」
「人間ならな」
「だから、フィーロは勝てないっていう話なんだけど」
「それはちょっと違うし、勝算もある」
龍狩に関して説明をするのも、難しい。
「もしも負ければ、皆殺されるわ」
「いや、大丈夫だ。向こうも昨日からずっと、俺の事に気づいていたみたいだし……あの集落とは無関係だって分かってる」
そう。
あのテントで目覚めてしばらく、あの龍の咆哮はフィーロの存在の力に反応したモノだった。
ここは俺の縄張りであり、疾く去れという警告だったのだ。
そして、その力の気配に、フィーロは覚えがあった。
「何で龍の考えていることが、分かるの?」
「言っても信じてくれないだろうな。とにかく――」
遠くから羽ばたきが聞こえる。
やけに濡れた、重い音が重なるのは、この龍の特性だ。
びちゃ、びちゃり、ぬるり、じゅるり。
「――親切にも向こうから来てくれたか。集落からも離れているし、悪くない」
少し先に、かなり開けた場所がある。
そこが、戦場になりそうだ。
もう、フィーロの龍眼では、相手も充分に捉える事が出来ていた。
故郷を滅ぼした、五頭の龍の内の一頭。
全身から分泌される油で、人を生きたまま焼いた龍だ。
「最初の犠牲者はお前か、油龍ベニバナ」




