フルイ遺跡
フィーロが目を覚ましたのは、どこかのテントだった。
遊牧民だったフィーロには、どこか懐かしい。
「あ、気がついた」
その声に入り口を向くと、木の桶を持った少女がいた。
年齢は十二、三歳だろうか。頭に羽根飾りつきのバンドを着け、背には弓を背負っている。
「誰だ」
「それはチリョの台詞。貴方は空から降ってきて、遺跡に落下したの。全裸で」
チリョというのは、彼女の名前か。
どうやら彼女が、フィーロを手当てしてくれていたようだった。
「フィーロだ」
そして違和感に気づく。
自分の言葉が通じている。
手を見ると、小さい……人間の手に戻っていた。
「何で、手を見てるの?」
「近くに川はないか」
「出てすぐそこ」
「すまん」
頭を下げ、寝床を出た。
川で自分の顔を確かめると、間違いなく禁呪で異形になる前の自分のモノだった。
……ただ、そうなる前よりも若い。
十五歳ぐらいに、若返っていた。
「そんなに自分の顔が珍しい?」
後ろから、チリョの声が掛かった。
「久しぶりにみた」
「そう、よかったわね」
「俺の他には何か、降らなかったか」
チリョは首を振った。
「フィーロ以外は別に」
「そうか」
周りを見回すと、テントが幾つかで集落が形成されている。
その後ろには石造りの遺跡が広がっていた。
「ここは……どこだ?」
「フルイ遺跡よ。知ってる?」
「聞いた事はある。王都の南西にある古代遺跡か」
「ええ」
その古代遺跡の遥か奥から、何やら獣の咆哮が聞こえてきた。
真っ当な獣ではないのが、戻らずの大樹海で暮らしてきたフィーロには分かる。
あれは、飢えた魔獣の類の声だ。
「あの声は何だ」
「…………」
しかし、チリョはフィーロの問いには答えず、青ざめた表情で自分のテントへと戻っていった。
その夜、集落の長老からフィーロは話を聞いた。
「アレは遺跡の奥に住まう、龍様じゃ……」
「龍」
ドクン、と胸の奥が熱を帯びた。
長老は、顔を俯けた。
「ああ。一年に一度、捧げ物をせねば暴れてしまう暴龍での……今年の捧げ物はチリョなのじゃ。クジで、そう決まってしもうた……儂の、可愛い孫じゃ」
「そうか。武器は……いや、いい」
龍に、通常の武器は効かないことを思いだして、フィーロは頭を振った。
素手でも何とかなるだろう。
立ち上がる。
「む?」
目尻の涙を拭いながら、長老がフィーロを見上げた。
「世話になった。明日、恩返しをさせてもらう」




