転生・龍狩
……フィーロは白でも黒でもない世界にいた。
灰色に一番近いが、それも違うような気がする。
強いて言うなら無色。
フィーロの感想としては、冥府の片足を踏み込んだような気分であり、多分その想像はおおよそ正しい。
『あの子は知り合いだったのですか』
フリゼの声がし、フィーロはそれに応える。
「死んだんじゃ、なかったのか?」
『はい、死にました。でもまだ魂だけは……長くは、持ちませんが』
姿は見えない。
フィーロ自身も、このままだとそう永くもないだろう。
まったく不覚だった。
ユージンは龍騎士団に所属しているんだから、充分考えられる事だったのだ。
「……すまない。友人にビックリして、剣が鈍った」
『優しいんですね』
「ビックリしただけだ」
『……提案が、あります』
どこか改まった口調で、フリゼが言う。
「何だ」
『龍狩になって、頂けませんか?』
フリゼは言葉を続けた。
『人単身では、あの軍には勝てません。仮にも龍を殺す軍です。立ち向かうなら龍でなくては、勝ち目がないでしょう』
「この身体をまだ、人と呼ぶのか」
フィーロは嗤う。
が、その身体も今、どこにあるのかどうなっているのか分からない。
『肉体の問題ではありません。精神が、魂が人を人たらしめるのです。義と仁の人の子である貴方ならば、私という存在も託せるかもしれません』
「何を、するつもりだ?」
フリゼの気配から、少なくとも尋常な手段ではなさそうだ。
『私の、この魂を喰らって下さい』
そして実際、フリゼの提案は尋常ではなかった。
『フィーロ様の肉体は、魂を受け入れられる充分な気、魄を有しています』
フィーロも養父であるヨーフから聞いた事がある。
魂とは精神を支える気、魄とは身体を支える気である。
今、自分達の話は魂でやりとりしているのだろう。
そして、これから行われるのは、魄であるフィーロの肉体の奪い合いだ。
『龍の魂は強く、こんな私のモノでも本来なら人間が喰らえる代物ではありません。失敗すれば、おそらく私の魂が貴方の魂を喰らい、その身体を乗っ取ります。でも成功すれば……貴方は龍の魂を自身に融かし、龍狩となれるでしょう。』
「肉体なら爆砕ってトコか」
『はい』
「……龍狩ってのは、何なんだ。俺は、龍を殺せる者の称号だと思っていた。親父は、それかもしくは何かの種族だと思っていた風なんだが」
『どちらも正解ですが……人は群れない限り、決して龍を倒せません』
「…………」
『龍狩とは単騎にして龍と拮抗する人の形をした最強種。しかし人間は龍を殺せない。この矛盾をどう解くかというと……』
一拍、間があった。
『おそらく貴方のお父様の話は、人に化けた龍の伝説です。それは、人の形を取ってはいても、結局は生まれながらの龍……フィーロ様が成るのは私の知る限り、この世で最初の新たな龍狩。人から成る龍狩です』
「お伽噺だな」
悪くない、とフィーロは思った。
元々、普通の手段では届かないと禁呪に手を出した身だ。
今更、この程度の危険に気後れするような、まともな精神なんて持ち合わせちゃいない。
「いいだろう」
赤龍を殺せるのなら、その程度のリスク、大歓迎だ。
胸の内に憤怒の灯火が、熱く燃え上がる。
「お前を喰らう」
『娘の事は、お願いします……』
「……ああ、そいつに関しては、任せとけ」
龍騎士達が去り、ようやく静かになった沼に渦が巻く。
最初は小さかったそれは次第に大きく、やがて沼全体を巻き込む大渦と化した。
やがて渦の中心から、白い竜巻が生じる。
白い正体は、無数の氷粒だ。
巨大な竜巻が吹き荒れ、やがてそこから小さな何かが噴き上がった。
それが竜巻の元凶だったのだろう。
やがて、竜巻も渦も消え、戻らずの大樹海は落ち着きを取り戻していった。
今回で青年期終了です。




