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龍狩と赤龍  作者: 丘野 境界
青年期
14/41

転生・龍狩

 ……フィーロは白でも黒でもない世界にいた。

 灰色に一番近いが、それも違うような気がする。

 強いて言うなら無色。

 フィーロの感想としては、冥府の片足を踏み込んだような気分であり、多分その想像はおおよそ正しい。


『あの子は知り合いだったのですか』


 フリゼの声がし、フィーロはそれに応える。


「死んだんじゃ、なかったのか?」


『はい、死にました。でもまだ魂だけは……長くは、持ちませんが』


 姿は見えない。

 フィーロ自身も、このままだとそう永くもないだろう。

 まったく不覚だった。

 ユージンは龍騎士団に所属しているんだから、充分考えられる事だったのだ。


「……すまない。友人にビックリして、剣が鈍った」


『優しいんですね』


「ビックリしただけだ」


『……提案が、あります』


 どこか改まった口調で、フリゼが言う。


「何だ」



龍狩(ドラゴンバスター)になって、頂けませんか?』



 フリゼは言葉を続けた。


『人単身では、あの軍には勝てません。仮にも龍を殺す軍です。立ち向かうなら龍でなくては、勝ち目がないでしょう』


「この身体をまだ、人と呼ぶのか」


 フィーロは嗤う。

 が、その身体も今、どこにあるのかどうなっているのか分からない。


『肉体の問題ではありません。精神が、魂が人を人たらしめるのです。義と仁の人の子である貴方ならば、私という存在も託せるかもしれません』


「何を、するつもりだ?」


 フリゼの気配から、少なくとも尋常な手段ではなさそうだ。


『私の、この魂を喰らって下さい』


 そして実際、フリゼの提案は尋常ではなかった。


『フィーロ様の肉体は、魂を受け入れられる充分な気、(はく)を有しています』


 フィーロも養父であるヨーフから聞いた事がある。

 魂とは精神を支える気、魄とは身体を支える気である。

 今、自分達の話は魂でやりとりしているのだろう。

 そして、これから行われるのは、魄であるフィーロの肉体の奪い合いだ。


『龍の魂は強く、こんな私のモノでも本来なら人間が喰らえる代物ではありません。失敗すれば、おそらく私の魂が貴方の魂を喰らい、その身体を乗っ取ります。でも成功すれば……貴方は龍の魂を自身に融かし、龍狩となれるでしょう。』


「肉体なら爆砕ってトコか」


『はい』


「……龍狩ってのは、何なんだ。俺は、龍を殺せる者の称号だと思っていた。親父は、それかもしくは何かの種族だと思っていた風なんだが」


『どちらも正解ですが……人は群れない限り、決して龍を倒せません』


「…………」


『龍狩とは単騎にして龍と拮抗する人の形をした最強種。しかし人間は龍を殺せない。この矛盾をどう解くかというと……』


 一拍、間があった。


『おそらく貴方のお父様の話は、人に化けた龍の伝説です。それは、人の形を取ってはいても、結局は生まれながらの龍……フィーロ様が成るのは私の知る限り、この世で最初の新たな龍狩。人から成る龍狩です』


「お伽噺だな」


 悪くない、とフィーロは思った。

 元々、普通の手段では届かないと禁呪に手を出した身だ。

 今更、この程度の危険に気後れするような、まともな精神なんて持ち合わせちゃいない。


「いいだろう」


 赤龍を殺せるのなら、その程度のリスク、大歓迎だ。

 胸の内に憤怒の灯火が、熱く燃え上がる。


「お前を喰らう」


『娘の事は、お願いします……』


「……ああ、そいつに関しては、任せとけ」



 龍騎士達が去り、ようやく静かになった沼に渦が巻く。

 最初は小さかったそれは次第に大きく、やがて沼全体を巻き込む大渦と化した。

 やがて渦の中心から、白い竜巻が生じる。

 白い正体は、無数の氷粒だ。

 巨大な竜巻が吹き荒れ、やがてそこから小さな何かが噴き上がった。

 それが竜巻の元凶だったのだろう。

 やがて、竜巻も渦も消え、戻らずの大樹海は落ち着きを取り戻していった。

今回で青年期終了です。

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