白龍フリゼ
龍が倒れていたのは、巨大な沼のほとりだった。
その龍の身体は白く、だが赤く濡れていた。
どうやら他の者はまだ、来ていないようだった。フィーロが一番乗りだ。
「龍に人の言葉が分かるとは、親父からも聞いてなかった」
「龍は長寿ですから……長生きした龍は、喋る事も可能です。学ぶつもりのある者ならば、ですが……」
血まみれの腹が、大きく上下を繰り返す。
彼女の傷は、刃物によるモノだ。龍騎士団に追われたのか。
白龍は、死にかけていたがそれについてフィーロは特に何の感慨も持たない。
死ぬ奴は死ぬのだ。
「そうか。それで、そろそろ喰っていいか?」
巨大な口から生臭い息を吐き出しながら、フィーロは尋ねた。
龍の肉を喰えば、身体が爆ぜるとかつて、呪術師が言っていた。
だが、今の自分ならどうだろう。試すだけの価値はある、と思った。
手に持った骨剣を、握り直す。
一方、白龍も覚悟を決めていたようだった。
「……構いません。が、一つだけお願いがあります」
「聞こう」
「この子だけは、助けて下さい」
白龍が鉤爪を開くと、小さな灯火がついた。
違う、それは豆粒ほどの小さな卵だった。
「子供……」
光は時折強くなったかと思えば、弱くなる。そんな明滅を繰り返していた。
「鼓動を感じますからいずれ目覚めるでしょうが……どうか……」
「……やめた」
フィーロは骨剣を握った腕を下ろした。
「何故です」
「俺は、子供を守る母親は殺せない。俺の名前はフィーロ。お前、名前は」
「白龍フリゼ、です」
空から、森から次々と異形が姿を現わす。
まだ人の姿を留めたローブ姿の獣魔術師、血の臭いに引きつけられた獣達、爬虫類、昆虫、そしてフィーロと同族の化物達。
皆、フリゼの血肉を狙っているようだ。
「という訳で、お前ら全員敵に回す事にした」




