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龍狩と赤龍  作者: 丘野 境界
青年期
10/41

深化

 ユージンが王都の龍騎士団に入って、三年が経過していた。

 ユージンも先輩騎士達と共に何頭か龍も倒してきたが、どうも自分が求めているモノとは違う気がしていた。

 龍は龍だ。

 強敵だ。

 訓練を重ね、装備を調えた、精鋭達でなければ、決して勝てないだろう。


 苦戦もした。


 死闘もあった。


 数十人単位で犠牲を払った事もある。


 ……が、赤龍ほどの絶望的な存在とは、これまで対峙した事がなかった。

 ある意味、フィーロはここに入らなくて正解だったかもしれない。

 せっかく入ったとしても、何だか途中で退団していたような気がするのだ。


 そんなある日の龍騎士団詰め所。


「魔物?」


 昼食中に、ユージンはそんな話を先輩から聞いた。


「ああ、ブルーウッドに出るらしい」


「ブルーウッドなら普通に出るでしょう?」


 ユージンだって戻らずの大樹海の話ぐらいは、知っていた。


「それが、植物と獣を混ぜたような、奇妙な魔物らしい。時々出るらしいが、今回のは特に大物だという話だ」


 出発の準備をしろ、と言われた。


「退治しに行くんですか?」


「森には行くが別件だ。俺達は龍騎士団なんだぜ?」



 戻らずの大樹海ブルーウッド。

 二百セタケを超える巨体を持つ大猪が、木々を薙ぎ倒しながら爆走する。

 その突進先には、大樹に身を絡めた百足がいた。体躯こそ大猪に劣るが、その長さは数百セタケ。巻き付かれれば、タダでは済まないだろう。


 そんな、どちらが勝ってもおかしくない対決に、空から何者かが割って入った。


 着地と同時に腕が振るわれ、数瞬後。


 大猪は動きを止め、その身体が爆ぜた。


 大百足はその身体を預けていた大樹ごと、いくつにも切り刻まれた。


 重い音がし、木が倒れる。

 二体をやったのは、二百五十セタケほどもある魔獣だ。

 空から降ってきたそれは、人間の大きさでなら両手剣になるだろう、骨で出来た鉈のような武器を持っていた。


 ボサボサの髪は無数の葉で出来ており、牛のような二本の剛角が生えてはいるが、形は人の姿に近い。

 太く鍛えられた銅や手足には剛毛が伸びており、ところどころに虹色の鱗が見えている。

 バランスを取るためか、太い尻尾も生えており、その先端の瘤は大きく打撃に向いていそうだ。

 魔獣は大猪の残骸に近付くと、肉を鷲掴みにしてニチャニチャと喰い始めた。



 その魔獣、フィーロは食事の最中に正気を取り戻した。


「……いかん。気をしっかり持て、俺」


 その独り言も、もはや呻き声に近い。

 声帯が、人とは違うモノに成り果てていたのだ。

 ただし、この喉も便利になっており、超音波で敵の居所を察知したり、弱い敵を吹き飛ばしたり出来る。

 身体も作り替えられ、火砕撃は何度放っても負担はない。


 ……が、姿形と共に、その精神も魔物に近くなっていた。

 気をしっかり持っていなければ、野生のままに森を駆け巡る怪物、それが現在のフィーロであり、これこそが獣魔術の真の代償だった。


 かろうじてフィーロは崖っぷちで、人間の理性を残しているが、獣魔術師の多くはそのまま魔物と化し、他の魔物や獣魔術師に狩られる運命にあった。

 ならば、これ以上修業を続けるべきではない……といいたい所だが、フィーロの本能は分かっていた。


「この程度じゃ、まだまだ赤龍に勝てない……!」


 大猪を喰らい尽くすと、倒した大樹の幹を野菜代わりに、今度は大百足の胴体に齧り付く。

 自分は相当に強くなったはずだが、なればなるほど赤龍の、幼い頃見たあの絶望的な強さが理解出来るのだ。


「かろうじて、これのお陰で正気を保っていられるが……もっと、強くならないと……」


 そんなフィーロの腕には、銀色の鎖が巻かれている。

 幼い頃、とある少女にもらった首飾りだ。もはや自分の首には巻けないので、腕にしている。

 魔除けの効果があるようで、これを撫でると不思議と正気に戻るのだ。

 葉となった髪を掻きむしりながら、さらに大百足を喰らっていく。


「もっと肉を喰って、力をつけないと……」


 睡眠時間も、ほとんど必要がなくなった。

 動ける間は魔物を狩り、喰う。

 昼も夜も関係なく、フィーロの今の生活はその繰り返しだった。


「……大丈夫、まだいける」


 禁呪・獣魔術もこの戻らずの大樹海も奥が深い。

 まだ喰っていない魔獣を喰らい、更に強くならなければ。

 龍に近付かなければ。


「もっともっと強くなって、龍を殺す」


 食事を終え、フィーロは立ち上がった。

 その時、地面が揺れた。


「!?」


 地震、ではない。

 巨大な何かが、地面に落下した音。

 その柔らかい硬さは土や石の類ではない。


 生物。


 フィーロは即座に駆け出した。

 感覚で分かった。

 落下したのは、龍だ。

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